前回は 電気分解とファラデーの法則を勉強しました。
講義ノート電解液に異なる金属を触れさせると起電力が生じます。 イオン化傾向が異なる金属同士ほど、起電力は大きくなります。 イオン化傾向が小さい金属を貴な金属と言い、イオン化傾向が大きい金属を卑な金属と言います。 甲種危険物取扱者の過去に出題された問題にもあります。
電池の起電力を簡単に測るには、ディジタル回路計を使う方法があります。 ただその場合、ディジタル回路計の入力インピーダンスが小さいと回路計に流れる電流が大きくなり平衡状態からずれてしまいます。 そこで、平衡状態を保ちながら電極電位を測定するには電位差計を使います。 電位差計は原理的にもっとも正しいのですが、現在では電子回路を使って同等の性能を示すエレクトロメーターをうのが一般的です。エレクトロメーターは、ポテンショスタットの機能として実装されていることが多いです。
米沢高等工業学校本館の 電気・通信科展示室(教室)に 電位差計があります。
電池の起電力の実験名前 | 略号 | 説明 |
---|---|---|
起電力 | e.m.f. | 電力という名前がついているけど、電池が発生する電圧。正極と負極の電位の差。単位はV |
開回路電圧 | O.C.V. | 電流を流さないよう、回路を切断したときのその切断箇所の両端の電圧。 |
自然電位 | R.P. | みかけの電流が流れていないときの電極電位。参照電極を明記すること。 |
例)銀塩化銀電極を参照電極とし、参照電極と作用電極との開回路電圧(O.C.V.)を測定し、自然電位(R.P.)を調べた。
入力インピーダンスの高い電圧計を使って、測定系に電流を流さずに電圧を測定しましょう。 まず、自分のディジタル式回路計の入力インピーダンスがいくらなのか説明書を確認してノートに書き取りましょう。 (現代の電気化学、p.14)
まず、 コイン電池 の電圧を確認してみよう。 次にふたりで協力して コイン電池 を直列につないで、その電圧を測ってみよう。 Google+にアップロード。
電池の歴史の中でも基本的な内容が詰まっています。実用電池の起電力を調べてみよう(現代の電気化学、p.68)
電池の起電力は正極と負極の組み合わせで決まります。 同じ正極を使っても負極が変われば起電力も変わります。 これだと注目している物質についての起電力の話を聞くときいちいち負極のことを尋ねなければならないので面倒ですね。 そこで、基準となる電極を定めて、その電極の電位を伝えた方がはやそうです。 注目すべき電極を作用極、基準となる電極を参照極と呼び、このような目的で作った電池を半電池と呼びます。
もっとも基準となる参照極には何がいいかな、考えて水素電極を基準とすることにしました。 水素電極と基準とした25度、1気圧、活量1の 半電池の電極電位(単極電位)を 標準酸化還元電位といいます。 銅と亜鉛の標準酸化還元電位を調べてみましょう。
純粋な金属とその金属イオンの水溶液中での標準酸化還元電位を数直線にプロットしてみましょう。 (現代の電気化学、p.94) またステンレスなど実用的な金属の海水中における電極電位について調べてみましょう。 電子を受け取りやすい金属ほど、高い電位を示しているのが見てとれますか? まあ、電子は負電荷を持っているので、正の電位にあればあるほど電子を受け取りやすいということは言うまでもないことですけど。 電子を受け取りやすいということは還元されやすいということ、 つまり、電位が高いということは還元されやすい物質であるということです。 電位の高低と酸化と還元の関係をしっかり把握しましょう。
参照電極には電位がずれない、安定などの理由から銀塩化銀電極がよく使われます。 以前は水銀を使った電極が多かったのですが環境負荷の観点からあまり使われなくなりました。 液絡つきの参照電極が市販されています。液絡の構造や電解液の組成や濃度を確認してから買いましょう。 電位は電解液や組成や濃度、そして温度によって変わります。
銀塩化銀電極は、銀を塩酸中でアノード酸化して、銀の表面に塩化銀を生成させて作ります。 アノード酸化の条件を同じにするため、単位面積あたりの電流、すなわち電流密度を同じにすることが好ましいです。
銀塩化銀電極を応用したもっとも見かける装置はガラス電極を使ったpHメーターでしょう。
電気量が物質量に対応するとしたら、電位は物質の酸化力に対応します。厳密には酸化力は物質と物質の相対的な関係で決まるので、平衡反応に対応することになります。 とは言えFe3+とFe2+が混ざっていたら、Fe3+が多い方が電位が高くなります。 このことを定量的に示したのがネルンストの式です。
水は25度で1.23Vで電気分解します。標準電極電位はネルンストの式で与えられます。
電位の測定には 電位差計 を使います。 これはメートルブリッジと 標準電池 を組み合わせて被測定電池と電位が等しくなる抵抗値から電位を測定する装置です。 こうすることによって電流を流さずに電位を測定することができます。 電流を流すと電池の内部抵抗によって電圧が下がり正しい起電力が求まらなくなるからです。 逆に起電力が安定している電池は電位の較正に使うことができます。
【結果】2本の銀|塩化銀電極の電位差[V]、 ダニエル電池 の起電力の理論値[V]、Cuの単極電位[V vs.Ag|AgCl]、Znの単極電位[Vvs.Ag|AgCl]、電位数直線(横軸電位[V])と単極電位の差[V] 電気化学セルを組み立てて銀線を塩酸中でアノード酸化して1本だけ作ります。その作り方は次の通りです。銀線を紙やすりで研磨し、清浄な金属面を露出させます。その金属面を3M HNO3で前処理し、水洗いします。その電極で以下のセルを作成し、0.8mA/cm2で15分ほど電解し、表面に塩化銀を析出させます。電解セルには10mLビーカーを使います。転倒防止のため電解液を注ぐ前に底に両面テープを貼っておき、電解液を注ぎ終わったビーカーは実験台にしっかり固定します。電極はダブルクリップで固定します。
Ag
|
0.1 mol·dm-3
HCl
|
Pt
ネルンストの式を用いてできるだけ正確にダニエル電池の起電力を計算する。計算した起電力とダニエル電池を用いて、抵抗尺の目盛りを較正する(本来ならウェストン電池を用いるが、ウェストン電池は水銀やカドミウムを使用するため取り扱いに注意を要する。そこで、ここでは標準電池をダニエル電池で代用し、電位や電圧の概念を習得する)。摺動抵抗と電源には電池付き抵抗尺(NiCd電池×2)を用いる。 ダニエル電池の起電力を直接エレクトロメータ(後述のボルテージフォロア参照)に入力し、その出力が抵抗尺の同じ目盛りに対応することを確認することで、エレクトロメータの動作を確認する。(エレクトロメータはポッゲンドルフの補償法をオペアンプで電子的に瞬時に実現する装置と言える) 銀|塩化銀電極の標準電極電位を計算する*2,3)。塩化カリウム水溶液の濃度は、実測した室温から、添付資料より飽和濃度を求める。飽和塩化カリウム水溶液の濃度は非常に濃いので活量係数による補正が必要である。添付資料から活量を求めてそれを用いる*4)。以下のような電池を組み、その起電力を補償法およびエレクトロメータを用いて測定し、それぞれの単極電位の測定結果からダニエル電池の起電力を計算し、一致することを確かめる。 Cu|0.01 mol・dm-3 Cu2+||KCl|AgCl|Ag Zn|0.01 mol・dm-3 Zn2+||KCl|AgCl|Ag ?設問:参照電極の照合にはなぜデジタルテスターを用いてもよいのか? ?設問:うっかり亜鉛棒を硫酸銅につけると黒くなるのはなぜか? Cu2+ + Zn → Zn2+ + Cu ?設問:デジタル式のテスターにはなぜ電池が必要か? 標準電池としてのウェストン電池はどのようにして作成するか?
AgCl + e- ? Ag + Cl- (*)
化合物 | 0 | 10 | 20 | 25 | 30 | 40 | 50 | 60 | 80 | 100 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
KCl | 27.8 | 30.9 | 34.0 | 35.6 | 37.1 | 40.0 | 42.9 | 45.8 | 51.2 | 56.4 |
物理量 | 単位 | 凡例 | |
---|---|---|---|
電極電位 V | V | ||
起電力 V | V | ||
活量 a | |||
次回の電気化学は 分解電圧―電力効率とターフェルの式― について勉強しましょう。
野村正勝・鈴鹿輝男
最新工業化学―持続的社会に向けて―
講談社サイエンティフィク
松林光男、渡辺弘,
イラスト図解 工場のしくみ
,日本実業出版社
山下正通、小沢昭弥, 現代の電気化学,
丸善
,
目次
, (2012).
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