電池評価のための交流インピーダンス測定の基礎と応用

2.電気化学測定の基本


2.1 コイン電池の落とし穴―フルセルとハーフセル―

セルとセル定数

  1 102 セルとセル定数
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平行平板電極であれば、
セル定数a=電極間距離d÷セル断面積S
です。 一般的には、導電率既知のKCl溶液などを使って、セル定数を較正します。

コンダクタンス=導電率
電気抵抗=抵抗率×長さ÷電極面積

導電率の測定では、 セル定数が必要です。


セル定数に関わる物理量と物性

  1   セル定数 に関わる 物理量バルク の 材料 物性
物理量 単位 凡例
電極間距離 d mメートル 電界の強さ=電圧÷電極間距離
セル断面積 S へいほうメートル 拡面倍率1で、平板モデルのとき電極面積≒セル断面積
電極面積 A へいほうメートル 実験室でよく使う旗型電極の電極面積は 1cm²
セル定数 a 1/mまいメートル セル定数a=電極間距離d÷セル断面積S
コンダクタンス G 導電率 σ ÷セル定数
電気抵抗=抵抗率ρ×セル定数a
バルク電流密度j A/m2 バルク 電流密度 j 電流I÷セル断面積
界面電流密度j A/m2 界面 電流密度 j 電流I÷電極面積
電界の強さe V/m 電界の強さe電圧V÷電極間距離
🖱セルとセル定数

電池・電解槽の種類

  2 電池・電解槽の種類
分類 種類 備考
セル(単電池) 二極式 フルセル 実用電池(コインセル、円筒型電池)、メッキ試験(ハルセル)、電解槽など。 アノード カソードのみ
三極式 ハーフセル 作用極 、対極、 参照極
バッテリー(組電池)
電解槽
単極式(モノポーラ)
複極式(バイポーラ) 液を通しての短絡電流を防ぐなどの工夫が必要となる。 トヨタ 古河電池

  2 電極の接続様式

バイポーラ接続では、ブスバーなどの重量を低減できるため、 バッテリーだけでなく、 水電解の電解槽などでも、応用が考えられるが 液絡のリスクを減らすのが課題です。 1 )


コイン電池(人間電池)の起電力

  3 11円電池(人間電池)
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電池式 アノード (-) 🪙一円玉 |🖐人間 |🪙十円玉 (+) カソード

てのひらに、10円と1円をのせれば、 電気化学の三要素 がそろって、電池になります。 デジタル式回路計で、 電圧を測定すると、0ではありません。 これが 電池の起電力です。 電流が流れていないにもかかわらず電圧があるのです。 電池では、電流と電圧が、そのまま比例しません。 電池は単なる電気抵抗ではないのです。 化学反応が電気を起こしているのです。 11円電池は、 ガルバニ電池と言っていいでしょう。


2.2 はじめに測定すること―電池の起電力と内部抵抗―

回路計で測れる物理量

  3 回路計で測れる物理量
物理量 単位 備考
電圧 V V 乾電池開回路電圧1.65V。 乾電池 の公称電圧は1.5Vダニエル電池起電力は、1.1V 水の理論分解電圧は1.23V。
電流 I A 豆電球の電流は 0.5A。 ぽちっと光ったLEDの電流は1mA。 電流密度=電流÷電極面積
I= Q t
時間 t s
電気量 Q C Q = I t
🖱 電気エネルギー 電気量×電圧
電気抵抗 R Ω
R = V I , V = R I
静電容量 C F ( ファラッド )
C = Q V , V = 1 C I t
インダクタンス L H ( ヘンリー )
L = V I t , V = L I t

回路計は、電圧、電流、電気抵抗などを測定できます 2 )

電気抵抗、静電容量、インダクタンスを実現する電子部品( 回路素子)として 抵抗器、コンデンサ(キャパシタ)、コイルがあります 3 )

数式 電気にまつわる量

電池の起電力

  4  電池の起電力と紛らわしい電位や電圧に関係する用語
名前 略号 説明
自然電位 R.P. みかけの電流が流れていないときの単極電位。 三極式セル なので、 参照電極を明記すること
起電力
E
e.m.f.
Ecell
Ve.m.f.
電力という名前がついているけど、電池(単セル)が発生する電圧。 正極負極との 単極電位の差。単位はV。 ダニエル電池起電力は、1.1V。
Ve.m.f.Q = E+ Q - E- Q
開回路電圧 O.C.V. 電池( バッテリー)に電流を流さないよう、回路を切断したときのその切断箇所の両端の電圧 4 ) 単セルフルセル)では、 電池の起電力とほぼ同義。 電池残量SOC)の推定に使われることも。 状態監視保全のため、 チェックシートで使われることも。
閉回路電圧 C.C.V. 負荷をつないで電流を流したときの電圧 5 ) 。 開回路電圧より、 内部抵抗などによる電圧降下や過電圧で低くなっている。
公称電圧 電池やバッテリ―では、DODや負荷によって起電力が変動するので、動作電圧の目安とする。 エネルギー密度を簡易推算するときに平均作動電圧とすることも。

例)銀塩化銀電極を参照電極とし、参照電極と作用電極との開回路電圧(O.C.V.)を測定し、自然電位(R.P.)を調べた。


電池の内部抵抗と電圧降下

  5  電池の内部抵抗の原因
サイト 抵抗の種類 細分 原因
バルク 溶液抵抗 溶液の導電率 ( 抵抗過電圧
合材層の電子抵抗 導電助剤の炭素粒子同士の抵抗は、接触抵抗であるが、 不均一多孔質の合材層を、ひとつのバルクとみなしたときは、 合材層の電子抵抗ということになる。
拡散抵抗 拡散過電圧(濃度過電圧) イオン移動
集電体 の抵抗 金属の抵抗率 (抵抗過電圧)
界面 接触抵抗 集中抵抗 オーミック界面 点接触による電流の集中
皮膜抵抗 ショットキー界面 トンネル電流
反応抵抗 ショットキー界面 反応過電圧 (活性化過電圧)

電池 の劣化は、形状変化による 接触抵抗の増大です。

電池の発熱は、電流の二乗×内部抵抗。 発熱は、無駄な発電負荷であり、無駄な二酸化炭素の排出。 大型電池ほど、放熱が不利になり、熱暴走のリスクが高まります 電池の内部抵抗を下げることが、脱炭素社会への道。

Vo Q = Ve.m.f. Q - η t Q Q t

過電圧(電圧降下)=活性化過電圧+濃度過電圧+抵抗過電圧(溶液抵抗+接触抵抗

η = η a + η con + η IR

電池の非直線性

  4 103
🖱 電流と電圧と電気抵抗の関係
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電池から電流を取り出すと 過電圧による電圧降下が生じます。 電流に比例する電圧降下を、電池の内部抵抗と言います。


2.3 過電圧と電流密度―LSV―

過電圧

  6   電解や電池の過電圧
過電圧 場所 内容 特徴
活性化過電圧・反応過電圧 界面

深度に依存する、可逆な 内部抵抗水素過電圧酸素過電圧、など。 特別な条件下では、 ターフェルの式で知られます。

η a = a - b log j

界面 の交換電流密度J0が大きいほど、活性化過電圧は小さい。

η a = RT αnF log J J 0
非線形・定常
拡散過電圧・濃度過電圧 界面

界面 の濃度が時間とともに変化するので、濃度過電圧も時間とともに変化する。

η con = η con t

界面 の濃度が大きいほど、濃度過電圧は小さい。 物質輸送がまにあわず、界面の濃度が低下すると濃度過電圧は大きくなる。

η con = - RT αnF log C t C 0
j j 0 = exp α+nF RT η con - exp - α+nF RT η con f t

f(t)の中身は、誤差関数や、拡散係数などが入った込み入った関数です。

定常状態で、電極界面の近傍の物質移動( イオン移動泳動 )律速。

非線形・非定常
抵抗過電圧 バルク

溶液抵抗(導電率セル定数に依存)、接触抵抗、 充電式電池では、サイクルごとに増える不可逆な 内部抵抗

η IR = ρ J l
線形・定常
界面 接触抵抗など。 線形・定常
η = η a + η con + η IR

過電圧が線形なら、 電池の内部抵抗は、過電圧を電流で割ったものです。

r = η I

-0.50.00.51.01.52.02.52.52.01.51.00.50.0-0.5 電圧 V /V 電流 I /A
  5 電流電圧曲線(分解電圧と過電圧)

分解電圧を調べるときは、電圧を掃引して、電流を測定します。 これを LSVリニアスイープボルタンメトリー)ということもあります。 電流電圧曲線から、溶液抵抗の傾きを外挿して、分解電圧を求めます。 理論分解電圧から分解電圧を引いて、 過電圧を求めます。 過電圧を電流密度の対数の関係をターフェルプロットと言います。

電池では、電流を掃引して、電圧を測定します。 求めた電流電圧曲線は、電池の放電の 内部抵抗 を求めるのに使われます。


  6 46
分解電圧
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2.4 反応電位と反応の可逆性―CV―

RC直列のサイクリックボルタンメトリー

  7 127 🖱 RC直列のサイクリックボルタンメトリー
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13 14 エネルギー変換化学特論 09 エネルギー化学 10 情報処理概論 1217

2.5 充電曲線と放電曲線―CP-

RC並列+R直列(ランドルス)回路の定電流過渡応答

  8 🖱 RC並列+R直列(ランドルス)回路の定電流過渡応答

電池の放電容量と不可逆容量-電池容量とエネルギー密度-

電池の容量は、活物質の量に支配されます。ファラデーの電気分解の法則から理論容量が計算できます。容量に電圧をかけると電池から取り出せるエネルギーが計算できます。質量や体積で割るとエネルギー密度となります。 電池の寸法は規格で決まっているので、電池の容量を増やすにはいかに活物質を詰め込むかにかかっています。


電池やコンデンサに貯められるエネルギー

100
電気量と電圧と静電容量の関係
©K.Tachibana
https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/52255/_02/VoltageElectricity.asp

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🖱 電池の充放電曲線
©K.Tachibana
https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/52255/_13/ChargeDischarge.asp

電池の内部抵抗と充放電曲線

  9 198 🖱 電池の内部抵抗とSOC- OCV曲線
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電池の内部抵抗 が大きくなると、カットオフ電圧に到達する時間が短くなり、電池の容量が小さくなります。 電池の内部抵抗 は、溶液抵抗( 抵抗過電圧)と接触抵抗からなります。 接触抵抗は、オーミックコンタクトでは、固体間接触の集中抵抗からなり、 またショットキーコンタクトでは、反応抵抗( 活性化過電圧)や皮膜抵抗となります。 SOCの推定に使われます。


2.6 実用的な充電―CCCV-

CCCV

  10 CCCV動作

充電には、サイクル充電とトリクル充電があります 6 )


2.7 初期充電の異常を見逃すな―サイクル試験―

リチウムイオン電池は、組み立てた直後は、放電できない。 初期充電して、材料を活物質に電解合成しないと放電できないのだ。


リチウムイオン電池

  7 リチウムイオン電池 実用電池
電池式 組み立て後:Cu|C|LiPF6 EC+DEC|LiCoO2 ,C|Al
充電後:Cu|C6Lix|LiPF6 EC+DEC|Li1-xCoO2 ,C|Al
負極 反応 6C+xLi++xe-=C6Lix Eº  = -3V
正極 反応 LiCoO2=xLi++xe-+Li1-xCoO2 Eº = 0.7V
全反応
起電力/V 3.7 (公称電圧) 18650リチウムイオン電池は1セルの公称電圧が3.6Vまたは3.7V
最低放電終了電圧/V 2.5~2.75V
実用電池容量/mAh 1200~3300mAh
理論電池容量/mAh
サイクル寿命/回
理論重量容量密度
理論容量 電力原単位
/mAh/g
157.7mAh/g
理論重量エネルギー密度
/mWh/g
583.5
実用 重量エネルギー密度 200~250Wh/kg 程度 *
形状・寸法 円筒型 (18650の例 18は直径18mm、65は長さ65mm、0は円筒形) 2170や4680も * * 、 ラミネート型
重量
用途 住宅自動車スマホ

7 ) https://led-outdoorgear.biz/wp/18650-pse/ F=96485.33212331


リチウムイオン二次電池

51 リチウム電池の模式図
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電池式 アノード (-) Cu | C6Lix | LiPF6/EC+DEC | Li1-xCoO2 , C | Al (+) カソード
※充電式電池では、充電時にカソードとアノードが入れ替わります。

リチウムイオン二次電池 では、 正極活物質負極活物質も、 固相反応にすることでカタチが変形を最小限にしています。 しかし、反応生成物の化学組成が違う以上、密度が変化するので、カタチの変形から逃れることはできません。 カタチの変形によって、固体と固体の 接触状態が変わるため、 電池の内部抵抗の増大の原因になります。


電池評価のための交流インピーダンス測定の基礎と応用

表紙
https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/54299/c1/Extra_Syllabus/2021_R03/20211217.asp
1.電気化学と電池の基本
https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/54299/c1/Extra_Syllabus/2021_R03/20211217/20211217_01.asp
2.電気化学測定の基本
https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/54299/c1/Extra_Syllabus/2021_R03/20211217/20211217_02.asp
3.交流インピーダンス法と材料評価
https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/54299/c1/Extra_Syllabus/2021_R03/20211217/20211217_03.asp