電池評価のための交流インピーダンス測定の基礎と応用

3.交流インピーダンス法と材料評価


3.1 電池の特性から材料物性へ

電池(セル)、界面特性、物性値

  1 160
インピーダンスから物性値へ
©K.Tachibana

インピーダンスから界面特性値や物性値を推定するには、 セルの寸法が必要です。


  1 インピーダンス と物性との 関係
計測可能 物理量
セル
界面 の特性値
面積
バルク 物性値
セル定数
電気抵抗 R[Ω]
=電圧÷電流
R = V I , V = R I
反応抵抗(面積抵抗率) Rct〔Ωm-2
=電圧÷ 表面 電流密度
接触抵抗 (界面抵抗) * =電圧÷表面電流密度
抵抗率(体積抵抗率)ρ
=電場強度e÷ 断面 電流密度
抵抗率ρ〔Ωm〕=電気抵抗R〔Ω〕÷ セル定数 a〔1/m〕
電気抵抗R=抵抗率ρ×長さl/面積S 1 )
抵抗率ρ=1÷導電率
ρ = e j
コンダクタンスG[S]
=1÷電気抵抗R
導電率 σκ(カッパ))〔Sm-1〕 、電気伝導度
静電容量 (キャパシタンス)C
C = Q V , V = 1 C I t
電気二重層容量Cd〔Fm-2 誘電率 ε( イプシロン)
=電荷密度÷ 電場強度e
インダクタンスL
L = V I t , V = L I t
透磁率 μ
©2020 K.Tachibana

電池の内部抵抗は、 バルク抵抗だけでなく、界面抵抗に左右されます。 溶液に金属を浸しただけの ダニエル電池 のような単純な電池では、バルク抵抗が支配的ですが、 合材電極や固体電解質を使う リチウムイオン電池 のような複雑な電池では、界面抵抗が支配的です。 電池の内部抵抗の評価には、 交流評価と直流評価を組み合わせが必要です。


インピーダンスに出てくる諸元

  2   インピーダンスに出てくる諸元
物理量 数式 備考
周期 Ts 🖱山のてっぺんからてっぺんまでの時間です。
周波数 fHz f = 1/T 周波数と振幅で交流を表現します。
角周波数 ω( オメガ ) ω=2πf
電圧 振幅Ep0 交流の大きさの表現には、振幅のほかにピークトゥピークや実効値があります ()。
電流 振幅Ip0 I= Q t
インピーダンス Z〔Ω〕 Z = R + j X *
絶対値 |Z| Z = R 2 + X 2
位相角 φ( ファイ ) tan φ=X/R
アドミタンス Y〔S〕 Y = G + j B *
インダクタンス L L= V I t
静電容量C C= Q V
電気抵抗 R R= V I インピーダンス Z の実部
抵抗率× セル定数 R= ρ d S
リアクタンス X インピーダンス Z の虚部、 X=ωL-1/ωC
コンダクタンスG アドミタンス Y の実部
サセプタンス B アドミタンス Y の虚部

インピーダンスブリッジインピーダンスブリッジメーターで 測定します。


3.2 直流と交流―時間と周波数―

交流の大きさと周波数(正弦波の振幅)

  2 84 交流の大きさと周波数(正弦波の振幅)
©K. Tachibana
🖱 交流の大きさと周波数

時間領域と周波数領域

  3 🖱 時間領域(左)と周波数領域(右)

横軸が周波数のグラフを、 スペクトルと言います。 フーリエ変換は、横軸を時間から、周波数に変換する方法です。 デジタルコンピュータの発展で、さまざまな応用ができるようになりました。


3.3 等価回路の要素―電気抵抗と静電容量―

電気抵抗の等価回路

電気抵抗
  4 電気抵抗のみの 等価回路

静電容量の等価回路


LCRメーターで等価回路を解析

  3 LCRメーター *
14.エネルギー変換特論 1210 1217 1224

動物にたとえた等価回路

170
©K.Tachibana

電極の中だけでも大変なのに、電池、バッテリー、バッテリーシステムに等価回路を設定するのは至難の業です。 コンピュータにお任せしてAIを使いましょう。


3.4 ボーデプロットとコールコールプロットの読み解き方

  6 83

交流の電流と電圧の比を インピーダンスと言います。

インピーダンス は複素数なので、実部と虚部があります。 実部をリアクタンスと言い、虚部をレジスタンスと言います 2 ) 。 各周波数での インピーダンスの軌跡を複素平面上にプロットしたものを コールコールプロットあるいはナイキストプロットと言います。

*


ランドルス型等価回路

反応抵抗 界面 電解質
  8 典型的な電極界面の等価回路
14.エネ特 03.エネ特 1217 1224 0216

3.5 デジタルフーリエ変換の落とし穴―AD/DA変換―

  4 AD変換 DA変換 ビット深度分解能
フルスケール例/V ビット深度 ステップ 分解能/mV コメント
0-5V 8 256 19 初期のデジタルビデオ
0-10V 12 4096 2 初期のアナログ計測
0-20V 16 65536 0.3 CDオーディオ
0-20V 24 16777216 0.0011 スマホ、PCサウンド

アナログ信号をどのくらいの細かさでデジタル表現できるかを示す指標を分解能と言います 3 )

デジタルフーリエ変換 では、AD変換の精度で、十分な情報が得られないことがあります。 組電池のようにインピーダンスが低い系では、 電流遮断法などの、 過渡応答解析 の方が実用的かもしれません。


量子化によるノイズ(ビット深度と分解能)


RC並列+R直列(ランドルス)回路の定電流過渡応答

電流遮断法による過渡応答解析です。


  5   リチウムイオン電池 充放電の上限電圧と下限電圧の例
電圧 内容
危険 5.00 安全弁解放
4.25 保護回路作動電圧
注意 4.20 使用上限電圧
適性 4.15 カットオフ上限電圧
3.30 カットオフ下限電圧
注意 3.00 使用下限電圧
危険 2.40 保護回路作動電圧
🖱 電池の内部抵抗と充放電曲線

充電や放電での電池管理(BMS)では、 カットオフ電圧の検知が大切です。 カットオフ電圧が0.01V違うと、副反応のリスクが急激に増大します。 特に ADCの精度が低いと危険です。 電池の内部抵抗は、 正極、負極、電解質の 過電圧によります。

4 )


3.6 電池とバッテリー-組電池―

バッテリー、セル、電極

  11 158 バッテリー、セル、電極

電源装置としての電池はバッテリーと言います。

ストリングの接続には、モノポーラとバイポーラがあります。

有機電解液は導電率が小さいため内部抵抗の増大の課題がありますが、 起電力の大きなリチウム電池では、同じ電圧を得るのに直列につなぐセルの数が少ないため、バッテリーとしては内部抵抗を下げるのに有利です。


バッテリー、ストリング、セルに流れる電流

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©K.Tachibana
15. エネルギー変換化学特論 1210 1019 1217

バッテリー、ストリング、セルの電圧

162 バッテリー、ストリング、セルの電圧
©K.Tachibana
15 エネルギー変換化学特論 1210 1019 1217

キルヒホップの法則により、 全体の 電圧は、各ストリングの電圧と同じです。ストリングの電圧はそれぞれのセルの電圧の和です。

ストリングの中のそれぞれのセルの電圧が異なるのは、セルの内部抵抗が違っているからです。セルの発熱が集中している可能性があり、要注意です。


3.7 バッテリマネジメントシステム(BMS)


バッテリの管理はマイコンで

シャント バッテリーストリング アナログフロントエンド マイコン
  12 電池管理用マイコンの例

バッテリーストリング の各セルの電圧を差動アンプでひろい、 積分型の高精度AD変換器でデジタルデータにします。 電流はシャント抵抗の両端の電圧を作動アンプでひろいます。 アナログフロントエンド(AFE)がやります。 マイコン(マイクロコントロールユニット、MCU)で処理します。 FETドライバが搭載され、パワー半導体を制御できます。


ルネサスよりRAJ240090のスペック

そうした中でルネサスは、「産業向けリチウムイオン電池管理ICとして業界初」というマイコン(RL78 CPUコア)を内蔵し、ソフトウェアで柔軟に多様な電池システム仕様に対応できる電池管理ICを実現した。電池残量の計測や、過電圧、過電流などの安全監視機能(アナログフロントエンド部)とマイコンが1パッケージ化されたため、電池制御の電圧測定に必要な高精度A-Dコンバーターとマイコンとのマッチングを事前に調整した上で提供するため、キャリブレーション作業が大幅に削減できるとする。その他、新製品は、電源、FETドライバー、リアルタイムクロックなどを搭載し、電池管理システム部分のトータルコストを従来品よりも「30%削減可能」(同社)とした。
シリアル通信 C ラズベリーパイ・エッジ

  6  ブラウザからアクセスできるPCやスマホ電池の状態
項目 説明
残量(SOC 5 ) 6 ) バッテリーの貯蓄率(%)として 読み取り可能。 満充電時から測定した放電容量ではなく、 公称容量[Ah]を使用する場合があります。 またSOC- OCV曲線から推定することもあります。容量維持率とも。
満充電までに必要な時間 秒単位で 読み取り可能=電池の 内部抵抗と充電電圧から計算
枯渇するまでの残り時間 秒単位で 読み取り可能= 残り容量/(消費電力/公称電圧)
劣化率(SOH 7 ) 現在、未対応 状態監視保全のために必要。
電圧 現在、未対応 公称電圧より大幅に下がった場合、 緊急保全が必要。 内部短絡などの恐れも。
内部抵抗 現在、未対応
温度 現在、未対応、過熱時のアラート発生に必要。
湿度 現在、未対応
結露 現在、未対応、水没時の短絡などアラート発生に必要。

PCや スマホの電池の状態は、ブラウザからアクセスできます。いずれ、自動車や 住宅の電池の状態もブラウザからアクセスできるようになるでしょう。 バッテリの状態はjavaとhtml5で読み取ります。 バッテリーでユーザー追跡可能になります。 この電池は誰が作ったのか、逆追跡も可能になるでしょう。


3.8 データベースとビッグデータ―AI時代へ向けて―

フーリエ変換(FFT)と機械学習(AI)に共通するのは行列演算

  13 171 フーリエ変換(FFT)と機械学習(AI)に共通するのは行列演算
©K.Tachibana
11 情報処理概論 15 品質管理 07 技術者倫理 1224 1217 1210 0205

2023年3月14日 Google、Gmailやドキュメントに生成系AI機能が追加された。 ChatGPT もとどまるところを知らない。人工知能(AI)はどこへ向かうのか?

人工知能(AI)はいろいろなジャンルがあるが、 今言われているのは、機械学習とディープラーニングと言われるもの。 ビッグデータの存在が前提となる。 ビッグデータを扱うのに配列(行列)の演算をやらないとならない。

数式 例えば数学の知識が必要となるのは、ゲーム開発や人工知能、統計学などで、とても限られています。そのため、文系でもプログラミング習得を諦める必要は全くありません。

Phthon (パイソン)は、多様なデータ構造が組み込まれているので、データ処理しやすい 言語です。 Anaconda(アナコンダ)や、 Google Colaboratoy などの開発環境があります。 Phthonには、数値計算ライブラリNumPyがあります。 NumPyは、CやふFORTRANで、実装されていて、高速で実行できます。 ほかにも、Matplotlib(グラフ描画ライブラリ) pandas(データ分析ライブラリ) TensorFlow(機械学習ライブラリ) OpenCV(画像処理ライブラリ) など便利なライブラリが多数あります。

tensorflow.org 文系

電池評価のための交流インピーダンス測定の基礎と応用
  • 1. 電気化学と電池の基本 🔁 (10:30~12:00)
    • 1.1 モノに電気が流れる仕組み―電子とイオン―
    • 1.2 電気でモノを作る―水電解―
    • 1.3 モノから電気エネルギ-を取り出す―電池の放電―
    • 1.4 電池のリユース―充電式電池の課題―
    • 1.5 モノとモノとが触れ合うところ―界面―
    • 1.6 固体接触は点接触―全固体電池の課題―
    • 1.7 電池のカタチ―形状と性能―
    • 1.8 二酸化炭素はどこで出る?―効率と劣化―
  • 2. 電気化学測定の基本 🔁 (13:00~14:30)
    • 2.1 コイン電池の落とし穴―フルセルとハーフセル―
    • 2.2 はじめに測定すること―電池の起電力と内部抵抗―
    • 2.3 過電圧と電流密度―LSV―
    • 2.4 反応電位と反応の可逆性―CV―
    • 2.5 充電曲線と放電曲線―CP-
    • 2.6 実用的な充電―CCCV-
    • 2.7 初期充電の異常を見逃すな―サイクル試験―
  • 3. 交流インピーダンス法と材料評価 🔁 (14:40~16:10)
    • 3.1 電池の特性から材料物性へ
    • 3.2 直流と交流―時間と周波数―
    • 3.3 等価回路の要素―電気抵抗と静電容量―
    • 3.4 ボーデプロットとコールコールプロットの読み解き方
    • 3.5 デジタルフーリエ変換の落とし穴―AD/DA変換―
    • 3.6 電池とバッテリー-組電池―
    • 3.7 バッテリマネジメントシステム(BMS)
    • 3.8 データベースとビッグデータ―AI時代へ向けて―

表紙
https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/54299/c1/Extra_Syllabus/2021_R03/20211217.asp
1.電気化学と電池の基本
https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/54299/c1/Extra_Syllabus/2021_R03/20211217/20211217_01.asp
2.電気化学測定の基本
https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/54299/c1/Extra_Syllabus/2021_R03/20211217/20211217_02.asp
3.交流インピーダンス法と材料評価
https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/54299/c1/Extra_Syllabus/2021_R03/20211217/20211217_03.asp