Power to Gas(P2G)は、 早い話が水電解。Power-to-Xだの、Power to Chemicalsだの、新しい流行語が飛び交っていますが、 振り回されることがないように、電気分解の基礎をしっかりおさらいしておきましょう。
現代の電気化学p.127表 5.5 の水電解槽の例からひとつ選び、理論分解電圧、過電圧、電圧効率と、電気で水素を得たときのエネルギー変換効率を求めてみましょう。 その結果について考察してみましょう。
演習例)
表5.5の水電解槽から、Electrolyzer Corp.の 電解槽 を選んだ。
過電圧は、槽電圧から、 理論分解電圧を差し引いて 求める。 現代の電気化学p.91の (4.5)式、 (4.7)式 からわかるように、理論分解電圧はpHに依存しない。 水の標準生成ギブズエネルギーΔfG°は、237.2kJ/molであり、 標準生成エンタルピーΔfH°は、285.8kJ/molである。 標準状態は、1atm,25℃であるので、298.15Kである。 ΔG°=ΔH°-TΔS°であるから、298.15Kのときのエントロピー変化ΔS°は163J/mol/Kである。
Electrolyzer Corp.の電解槽の温度は、70℃であるので、そのときの理論分解電圧を求める。 水(液)、水素(気)、酸素(気)の標準定圧モル熱容量Cp°は、それぞれ75.3J/mol/K、28.8J/mol/K、29.4J/mol/Kである。 簡単にするため、定圧モル熱容量の温度依存性はないと仮定する。 Electrolyzer Corp.の電解槽は、加圧していないので、力学エネルギーの収支はないと仮定する。 以上の仮定とヘスの法則を使って25℃から70℃まで必要な熱エネルギーを収支をとる。
よって70℃での生成エンタルピーΔHは284.3kJ/molとなる。 これをファラデー定数Fと反応に関与する電子数2で割ると、70℃での理論稼働電圧1.47Vが得られる。
最新工業化学p.40図3.2の傾きが一定のことから、ΔSの温度依存性はないと仮定し、ΔS°を使うこととする。 すると70℃の生成ギブズエネルギーΔGは生成エンタルピーΔHからTΔSを引いて228.4kJ/molとなる。 これをファラデー定数Fと反応に関与する電子数2で割ると、1atm、70℃での理論分解電圧1.18Vが得られる。 この理論分解電圧は、1atm、25℃の1.23Vより低く、現代の電気化学p.126図5.3や最新工業化学p.41図3.3に示されている通りである。
表5.5に槽電圧1.90Vとあるので、これより理論分解電圧を引き、過電圧ηは0.70Vとなる。 よってp.124の式より、電圧効率は62%である。 この過電圧には、溶液抵抗による抵抗過電圧のほか、電気化学p.51式2.116や最新工業化学p60図3.24などに示される、活性化過電圧、濃度過電圧が含まれる。
表5.5に電解電力4.9kWh/Nm3H2とあるので、水素を理想気体として単位換算すると 395.2kJ/molとなる。これで先に求めた生成エンタルピーΔHを割れば、 エネルギー変換効率72%が得られる。 このことは太陽光発電や洋上風力発電などの再生可能エネルギーを利用して、水素を製造した場合、 エネルギーの28%が廃熱となってしまうことを意味する。
なお、この演習は、応用化学・化学工学コースの化学実験Ⅰ(エネルギー分野) 「電気分解」 のテーマに対応しています。 実験テキストは、ホームページに公開されていますので、バイオ化学工学コースの方も閲覧できます。
電極反応 |
電位
/ V |
/ mV/K |
/ mV/K |
|
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2H2O + 2e-  →    2OH- + H2 | -0.8285 | 0.037 | -0.834 | アルカリ性 |
H+ + 2e-  →    H2 | 0.000 | 0.871 | 0.000 | 酸性 |
O2 + 2H2O + 4e-  ←    4OH- | 0.401 | -0.809 | -1.680 | アルカリ性 |
O2 + 4H+ + 4 e-  ←    2H2O | 1.229 | 0.025 | -0.846 | 酸性 |
pH0(酸性)では、1.229(酸素)-0.000(水素)≒1.23、pH14(アルカリ性)では、0.401(酸素)-(-0.8285(水素))≒1.23となって どちらも同じ1.23Vです。 電位-pH図でみると、 水の電位窓がpHによらず1.23Vです。 この1.23Vが、水電解の電解槽における水の理論分解電圧であり、酸素水素燃料電池の電池の起電力です。
水を水素と酸素に熱分解しようとしたら、2500度もの高温が必要です。 電気を使えば、室温で乾電池をふたつ直列につなぐだけで、水素と酸素に 電気分解できます。
25℃、1atmでの 平衡電位の差を理論分解電圧と言い、1.23Vです 1 ) 。 理論分解電圧は、自由エネルギーより計算され、理論稼働電圧は、 エンタルピーから計算されます 2 ) 。
かつては水素は水を電気分解して得る水電解が重要なプロセスであった 3 ) 。
水電解ではなくトルエン電解?
ワークショップを楽しみましょう 4 ) 。 グループ人数は、5〜6名とします。 7名を超えないようにしてください。
初対面の場合は、自己紹介をしましょう。 雑談をして、アイスブレイクしましょう。
リーダー(司会進行)を決めてください。 そのほかのメンバーの 役割(記録係、資料作成係、プレゼンター( 登壇者))を決めてください。
グループ名を決めてください。
記録係は、試験答案用紙表面の最上部に、授業科目名、グループ名を記入してください。 メンバーは、記録係に従い、学籍番号、氏名、役割を直筆署名してください。 その際、 筆頭著者を登壇者の氏名の前に〇をつけてください。
討論を開始したら、記録係は討論の内容を裏面に記録してください。
討論がまとまったら、資料作成係は、試験答案用紙表面に グラフィカルアブストラクト に表現してください。
グラフィカルアブストラクトを撮影し、WebClassにアップロードしておくと復習に便利です。
登壇者は、プレゼンテーションのイメージをしましょう 5 ) 。 メラビアンの法則を意識して、 非言語表現も工夫しましょう 6 ) 。
グループ名が指名された後で、じゃんけんなどで登壇者を決めるのは、授業進行の妨げとなりますので、 必ず、討論前に 登壇者を決めてください。
記名だけして、討論に参加しない場合、不正行為として扱うことがありますので、必ず討論に参加してください。 自分から参加できなそうな人には、積極的に声がけをお願いします。 期末の 成績評価申請 時に、グループ名やメンバー、討論の内容を思い出せるよう、答案用紙を撮影することを推奨します。
ランダムにグループを指名し、壇上で、 プレゼンテーションしてもらいます 7 ) 。 質疑応答の際も、グループを指名しますので、指名されたグループのプレゼンターが質問、コメント、アドバイスをしてください。 ディベートとしての反対意見は、大歓迎です。
資料作成係は、討論の内容をポスターとして、試験答案用紙の裏面にまとめてください。 資料作成係に従って、他のメンバーが代筆してもかまいません。
*平常演習の配点は、授業1回ごとに、一律加点です。 平常演習には、ワークショップ、意見交換、発表、質疑応答など授業時間内の学習活動を含みます。 そのほかに授業時間外の0.5時間の学習活動を含みます。 平常点は、学期末に WebClass の 成績評価申請書 に申告していただき集計します。
授業時間外の活動の一助としてWebClassへの提出を推奨します。〆切は講義後1週間です。 ただし平常点の加点は、授業時間内の学習活動も含みます。 WebClass への提出のみでの、平常点の申告はご遠慮ください。
WebClass への平常演習提出は、推奨しますが、必須ではありません。 提出されていなくとも、 成績評価申請書 に、各回の授業時間以外の0.5時間の取り組みが申告されれば十分です。未提出だからと心配することはありません。
成績評価申請書 では、それぞれの授業で何を学び身につけたかを申告してもらいます。 WebClass に提出したかどうかより、身につけることを優先してください。 授業で取り上げたトピックや、グループワークの意見交換の内容は、期末までノート 8 ) などに記録しておくことを推奨します。 逆に授業に参加していないのに、WebClassの出席や提出だけの場合は不正行為として扱うことがあります。 平常の取り組みだけで、「到達目標を最低限達成している。成績区分:C」となります。 評点が60点に満たない場合は、不合格となります。 欠席した場合、課外報告書へ取り組むことで挽回してください。 出席が60%に満たない場合、課外報告書を提出しても、単位認定できません。
2024年1月21日 松木健三名誉教授がご逝去されました。