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電池の起電力

物質化学工学実験U WebClass 53204 Files Google+ C1

電池の起電力 は電流を流さずに測定せねばなりません。そのための工夫を理解した上で、まずはダニエル電池の起電力 EV〕を測定しましょう。次に参照電極として銀塩化銀電極を使って単極電位を測定しましょう。最後に活物質の体積モル濃度 Mmol/m3〕を変えてネルンストの式が成り立つをことを確認しましょう。

講義ノート 詳細なテキスト

ダニエル電池の組み立てと塩橋


先生:「 まずはあの エジソン蓄音機 にも採用された ダニエル電池 を作ろう。ダニエル電池は隔膜、つまりセパレータが採用された画期的な電池だ。さて硫酸銅と硫酸亜鉛はどこいったっけ?」
学生:「あそこの試薬だなです」
先生:「セロハンを隔膜に使おう」
学生:「セロハン?」
先生:「硫酸銅と硫酸亜鉛の水溶液が混じりあわないようにね」
学生:「なるほど」
先生:「隔膜、セパレータには素焼きの器を使うほか、液絡として寒天、ガラスフリットなどいろいろあるね」
学生:「そいうの、塩橋って言うんですよね!」
先生:「よく知ってるね!リチウムイオン二次電池のセパレータには温度でシャットダウンする多孔質フィルムが使われるんだよ」




ダニエル電池の 電池式 は下記のとおり。

Zn | Zn2+ || Cu2+ | Cu    式 ( * )

( Zn | 0.01 mol・dm-3 ZnSO4 || 0.01 mol・dm-3 CuSO4 | Cu )

反応式
Cu2++2e-↔Cu E0Cu=+0.337V
Zn2++2e-↔Zn E0Zn=-0.7627V


「ダニエル電池が組みあがったら、早速電圧を測定してみよう」
「最近のテスターは入力インピーダンスが大きいから簡単に電圧測定できるね」
「時間にゆとりがあったらダニエル電池を2個直列にしてLEDを点灯させてみよう」
「2個直列につないだときの電圧が2.07Vです」
「ダニエル電池の起電力のほぼ2倍だね。LEDを点灯したときの電圧は?」
「1.77Vです」
「100Ωの両端の電圧は?」
「0.01Vです」
「ということは回路に流れている電流は?」
「0.1mAです」
「電池の内部抵抗が求まるね?」
「なるほど3kΩです」





ダニエル電池は電池なのか?

回答

標準電池を使って電位差計を使った電位測定にトライしよう


先生:「これが標準電池だ。さっそく内部を見てみよう」
学生:「赤い物質や黄色い物質がH字型のガラス管に入れられていますね」
先生:「このH字型のガラス管が作れたら、ガラス細工の腕もまあまあなんだがね・・・」
学生:「自作できるんですか?・・・いやあ、ガラス細工もやってみたいす」
先生:「まずはともあれカドミウム標準電池、別名ウエストン電池、20℃で1.0183ボルト」
V=1.0183+0.00004(20-t)
先生:「温度係数が非常に小さい。不飽和型のウエストン電池というのもあってこちらは1.0186ボルトで温度のほとんど無関係*
学生:「ふへえ、安定しているんですねえ」
先生:「これが電圧の基準になるんだから、横にしたりしないようにね!」
学生:「はい!」
先生:「抵抗尺を使って電位差計を組み立てる。抵抗尺上に長さに比例した電位が生じるように電池をつなぐ。」
学生:「電位差計?」
先生:「英語だったらポテンショメーター。」
学生:「はい!」
先生:「抵抗尺の一方の端を電位の共通の電位基準としてつなぐ。標準電池を使いたいところだけど壊れやすいのと数がないのでダニエル電池を標準電池として使おう。」
学生:「はい!」
先生:「検流計を介してダニエル電池と抵抗尺をつなぎ、電流が流れない場所を探し出す。電流がながれないということは電位が等しいということ。つまりそのときの長さに相当するのがダニエル電池の起電力というわけだ。」


銀塩化銀電極(基準電極)の作成とエレクトロメータの較正(こうせい)

「さあ、電位の概念がわかったところで銀塩化銀電極を作ろう」
「銀塩化銀電極は参照電極としてよく使われる電極で銀を塩酸中でアノード酸化することで作ることができる」
「参照極ができたところでさっき作ったダニエル電池の正極と負極のそれぞれの単極電位を測ってみよう」
「電気化学の実験では電池全部(フルセル)を作ると手間がかかるので、このように半電池(ハーフセル)を作って実験することが多いんだ」

電気化学セルを組み立てて銀線を塩酸中でアノード酸化して1本だけ作ります。その作り方は次の通りです。
銀線を紙やすりで研磨し、清浄な金属面を露出させます。その金属面を3M HNO3で前処理し、水洗いします。

その電極で以下のセルを作成し、 ノギスを使って銀電極の面積を求め、求めた電極面積から、電流密度 J=0.8mA/cm2となる電流 IA〕の値を求める。
求めた電流を抵抗尺の長さを操作して通電する、15分ほど電解(通電)して、表面に塩化銀を析出させます。電解セルには10mLビーカーを使います。転倒防止のため電解液を注ぐ前に底に両面テープを貼っておき、電解液を注ぎ終わったビーカーは実験台にしっかり固定します。電極はダブルクリップで固定します。 同じ手順でもう1本作成する。

Ag | 0.1 mol·dm-3HCl | Pt

反応式
AgCl+e-↔Ag++Cl- E=+0.22V



→参考書:電気化学測定法(上)技報堂出版、p97「銀|塩化銀電極の作り方」
→参考書:電気化学測定法(上) 技報堂出版、p96「新しく作った電極の電位チェック」
→参考書:電気化学測定法(上) 技報堂出版、p94「塩橋の作り方」


2本の電極を飽和KCl溶液(KClがビーカーの底に沈んでるくらいの溶液、濃度計算とか今は気にしなくていいよ。)に浸漬し下記のような電池を作成し、電位差(両端の電位)を測定し、デジタルテスターで確認する。電位差が5mV以内であることを確かめる。
もし、2本の電極電位が5mV以上ある場合は、うまく出来ていないと思われる方を作成しなおし、電位差が5mV以内になるまで繰り返す。
10mLビーカーを2個用いて塩橋で接続する。
塩橋にはシリコンゴム管もしくはセロハンチューブを用いる。シリコンゴム管を使用する場合は、煮溶かした電解質-寒天溶液を専用スポイトで吸い上げて固め、ゴム管の両端をカットする。(駒込ピペットは使わない、寒天が詰まるので注意) 使用済みのマッチ(マッチの燃えさし)は,その辺に置かずに,燃えさし入れに入れる。


寒天溶液専用スポイト

セロハンチューブを使用する場合はページ上(ダニエル電池の組み立てと塩橋)を参照。

Ag | AgCl | KCl || KCl | AgCl | Ag  (※ ||=塩橋)



抵抗尺とポテンショメーター


ネルンストの式を用いてできるだけ正確にダニエル電池の起電力を計算する。


ECu-EZnが作成した電池の起電力。
E0Cu-E0Znが理論的なダニエル電池の起電力となります。理論的な起電力は何Vでしょう?

以下のダニエル電池を作成し*1)、標準電池の代用とする。白金以外の金属は測定直前に研磨後、0.1 mol・dm-3 HClで前処理を行い、水で十分に洗浄する。電極の研磨・前処理した後すぐ測定する。放置しない。

Cu | 0.01 mol・dm-3 Cu2+ || 0.01 mol・dm-3 Zn2+ | Zn


計算した起電力とダニエル電池を用いて、抵抗尺の目盛りを較正する。
抵抗尺の較正を行うために電位差計(ポテンショメータ)を作成する。
ポッゲンドルフの補償法による電位差測定の回路を組む(ポテンショメーター)。(参考:[新訂物理図解]p.103または[応用物理化学U]p.191の図10・2を参照,学生の作った電位測定用抵抗尺開発日記)
検流計の代わりにコンパレータを作って使う。なお,コンパレータを自作できないとき,TAが準備している検流計をつかってもよいが,検流計は破損しやすいのでTAの指導のもと検流計を使ってください。
(ポテンショメータの標準電池には本来ならウェストン電池を用いるが、ウェストン電池は水銀やカドミウムを使用するため取り扱いに注意を要する。そこで、ここでは標準電池をダニエル電池で代用し、電位や電圧の概念を習得する)。
可変抵抗と電源には抵抗尺とNiCd電池2本を用いる。

標準電池を使ってLEDの色が切り替わる地点(抵抗尺の長さ)l0を見つける。(この地点が検流計の針が触れない点と同じである)その地点が、電流が0になり流れなくなる地点です。
電池には内部抵抗があるので、電池に電流が流れてしまうと電圧降下が起こり正しい起電力を測ることが出来ません。なので、電流が0になる地点を見つける必要があるんです。
標準電池の起電力(ダニエル電池の起電力)は先ほど求めているので、標準電池の起電力E0は抵抗尺の長さがl0の時と決めることが出来る。

もし、起電力の分からない未知の電池があるときに、標準電池の代わりに未知の電池をポテンショメータにつなぐことで、l0との抵抗尺の長さの比から未知の電池の起電力を求めることが出来る。(下図の、電位差計の図の横にある式)
つまり、抵抗尺の長さから電池の起電力を求められる。
テスターを買い忘れた人でも電池の起電力を測ることが出来るんです。
抵抗尺を使っている様子
抵抗尺の図面(高橋 宏義.試薬管理日記.卒業論文2017.)
図. 抵抗尺


図. コンパレータの実体配線図


図. 電位差計(ポテンショメータ) (©2015  小野寺伸也

エレクトロメータ(これ以降の実験ではボルテージフォロワとも呼んでいる)は、ポテンショメータを電子部品を使って作り出す回路です。
エレクトロメータを作り、標準電池用に作成したダニエル電池につなぎ、電圧計で電池の起電力を測ってみてください。ポテンショメータで測った時と同じ電圧が計れるはずです。

では、電圧計の部分に10kΩの抵抗を並列につないで見ましょう。すると、電池の起電力はどうなるでしょうか?
電池の起電力が下がりませんでしたか?これは抵抗を並列につないだことで電圧計の内部抵抗が下がって電流が流れるようになってしまうため、電池に電流が流れ電圧降下が起こったんです。
ポテンショメータでは抵抗尺を使って電流が0の地点を探していましたが、エレクトロメータではオペアンプがその地点を探してくれます。つまりエレクトロメータはポテンショメータ(ポッゲンドルフの補償法)の機能をオペアンプで電子的に瞬時に実現する装置と言えるんです。

テスターの電圧計で代用可なのは、この回路がテスターの中に組み込まれているからです。テスターの中には実際こんな回路が入っているんです。
電圧計が電池の起電力を測ることが出来るのは、電池に電流を流さないようにエレクトロメータが制御してくれているんです。
電圧計便利や!!

図. エレクトロメータ(ボルテージフォロワ)


銀 | 塩化銀電極の標準電極電位を計算する*2,3)
まず、塩化カリウム水溶液の濃度は、実測した室温と塩化カリウムの溶解度から、飽和濃度を求める。(参考:「改訂版 フォトサイセンス化学図録」 p.58 固体・気体の溶解度)
飽和塩化カリウム水溶液の濃度は非常に濃いので活量係数による補正が必要である。
求めたKCl水溶液の飽和濃度と下記の表に対応する平均活量係数の積から活量を求める。(参考:「現代の電気化学」 p.32) あれ・・・濃度が。
実測した室温と求めた活量を用いてネルンストの式から銀 | 塩化銀電極の標準電極電位を求める。 


以下のような電池を組み、その起電力を補償法(ポテンショメータ)およびエレクトロメータを用いて測定し、それぞれの単極電位の測定結果からダニエル電池の起電力を計算し、一致することを確かめる。(E0Cu-E0Znになっているかな?)

Cu | 0.01 mol・dm-3 Cu2+ || KCl | AgCl | Ag
Zn | 0.01 mol・dm-3 Zn2+ || KCl | AgCl | Ag


電極電位の濃度依存性


「いよいよ大詰め、電極電位の濃度依存性の確認だ」
「ネルンストの式は知ってる?」
「はい、電極電位は濃度に依存するっていう・・・ああ、その実験ですか」
「そのとおり。濃度を変化した溶液を作りやすいように鉄の2価と3価の溶液を使うことにしよう」

ネルンストの式を使って*5)、鉄イオンの濃度を変えたときの酸化還元電位を計算する。

反応式
Fe3++e-↔Fe2+E=+0.77V
AgCl+e-↔Ag++Cl-E=+0.22V

Fe3+とFe2+の濃度比が1:1のとき、+0.55V(上式の電位差)

0.025M鉄イオン(U)と0.025M鉄イオン(V)の溶液を調整していく。
最初に、空の秤量瓶(ふた付き)の重量を精密化学天秤で求めておき、硫酸鉄アンモニウム(U)、および硫酸鉄アンモニウム(V)の質量をそれぞれ上皿電子天秤を使って量り取る。
その後、精密化学天秤で再び全体(秤量瓶と試料)の質量をそれぞれ求め、差し引きから硫酸鉄アンモニウム(U)、および硫酸鉄アンモニウム(V)の正確な重さをそれぞれ求める。(この操作を精評と言う)
*本当に厳密に行う場合は、試料を乾燥させて水分を飛ばし重さが全く変わらなくなった重量を正しい質量とする。これを恒量と言う。今回この操作は割愛します。

次に、秤量瓶に入った硫酸鉄アンモニウム(U)、および硫酸鉄アンモニウム(V)に0.1M硫酸を加え、それぞれ30mLビーカーに移す。
その後、秤量瓶を0.1M硫酸で洗い、その洗浄液もそれぞれの溶液の入った30mLビーカーに移す(3回程度繰り返し洗う)。この時、30mLビーカー内の溶液は15mL程度に抑える。
それぞれ30mLビーカーに入った溶液をメスフラスコに移し、0.1M硫酸でメスアップを行う。
メスフラスコは1つしかないので、メスアップしたらポリ容器に移しておく。その後、0.1M硫酸で洗浄し洗浄液は廃液入れに入れる。洗浄を数回行ってから、次の溶液のメスアップに使用する。
※この実験は精度が重要なので溶液調整は正確に行うこと。

次に、調整した0.025M鉄イオン(U)溶液と0.025M鉄イオン(V)溶液を2mLと1mL(濃度比1:0.5)メスピペットを使って量り取り、混合して電解液を調整する。
ダニエル電池の際に作成した銀|塩化銀電極を用いて、下記の電気化学セルを組み、補償法(ポテンショメータ)およびボルテージフォロワによって起電力を測定する。

Pt | Fe3+,Fe2+,0.1M H2SO4 || KCl | AgCl| Ag

その後、0.025M鉄イオン(V)溶液を1mL足し、濃度比1:1とした時の起電力を同様に測定する。
0.025M鉄イオン(V)溶液を2mL足し、濃度比1:2とした時の起電力を同様に測定する。
0.025M鉄イオン(V)溶液を4mL足し、濃度比1:4とした時の起電力を同様に測定する。

測定した4つの電位を鉄イオン(U)と鉄イオン(V)の濃度比1:1を中心に片対数方眼紙上、等間隔になるようプロットする。
片対数方眼紙へのプロットは測定と同時に行うこと。
プロットから最小二乗法によって求めた傾きが、RT/nFになることを確認する。
溶液の濃度比を逆にした時の電位も測定しプロットする。
酸化体が増えると電位が上昇し、還元体が増えると電位が低下することを確認する。



設問:ネルンストの式によれば電位は濃度依存性があるが、それはどうしてか?
設問:0.025M鉄イオン(U)のみ(鉄イオン(V)=0)の場合、あるいはその逆の場合は、ネルンストの式による電位はどうなるか?
設問:鉄イオン(U)と鉄イオン(V)の組み合わせとしてフェリシアン化カリウム/フェロシアン化カリウムの系について行った場合はどうか?

溶解度積および生成定数の決定

以下の電池を組み、補償法(ポテンショメータ)およびボルテージフォロワによって起電力を測定して、水酸化銅の溶解度積を求める。
銅は測定直前に研磨し、水で素早く洗浄する。この電池は特に分極しやすいので、塩橋で電解液をつないだら、できるだけ早く起電力を測定する。放置しない。再び測定したい場合には、銅電極を取り出して再度清浄な面を出す。

Cu | Cu2+ | OH- | Cu(OH)2 | Cu
(Cu | 0.01 mol・dm-3 CuSO4 || KCl || 0.05 mol・dm-3 KOH | Cu(OH)2 | Cu)


計算例

計算例つづき


また、以下の電池を組み、起電力を測定して銅アンミン錯体の安定度定数を求める。
0.1 mol・dm-3アンモニア水50mLに、0.01 mol・dm-3硫酸銅を2.0mL加えて電解液とし、補償法(ポテンショメータ)およびボルテージフォロアによって起電力を測定する。
全てが反応して銅アンミン錯体になるものとして濃度を計算する。銅イオンとアンモニアの濃度から酸化還元電位を求め、安定度定数を計算する。

Cu | Cu2+,NH3 || Cu2+ | Cu
(Cu | 0.1 mol・dm-3 NH3,0.01 mol・dm-3 CuSO4 || KCl || 0.01 mol・dm-3 CuSO4 | Cu)

計算例


?設問:電気化学的に溶解度積や安定度定数を測定するメリットは何か?

テキスト・参考書


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