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令和6年11月21日 (木)
機能界面設計工学特論
リチウムイオン二次電池の構造と材料設計の考え方

電気化学測定と電極構造


2-1 ビーカーセルによる部材特性の理解とコイン電池によるデバイス評価


セルとセル定数

  1 102 セルとセル定数
©K.Tachibana

平行平板電極であれば、
セル定数a=電極間距離d÷セル断面積S
です。 一般的には、導電率既知のKCl溶液などを使って、セル定数を較正します。

コンダクタンス=導電率
電気抵抗=抵抗率×長さ÷電極面積

導電率の測定では、 セル定数が必要です。


セル定数に関わる物理量と物性

  1   セル定数 に関わる 物理量バルク の 材料 物性
物理量 単位 凡例
電極間距離 d mメートル 電界の強さ=電圧÷電極間距離
セル断面積 S へいほうメートル 拡面倍率1で、平板モデルのとき電極面積≒セル断面積
電極面積 A へいほうメートル 実験室でよく使う旗型電極の電極面積は 1cm²
セル定数 a 1/mまいメートル セル定数a=電極間距離d÷セル断面積S
コンダクタンス G 導電率 σ ÷セル定数
電気抵抗=抵抗率ρ×セル定数a
バルク電流密度j A/m2 バルク 電流密度 j 電流I÷セル断面積
界面電流密度j A/m2 界面 電流密度 j 電流I÷電極面積
電界の強さe V/m 電界の強さe電圧V÷電極間距離
🖱セルとセル定数

電池・電解槽の種類

  2 電池・電解槽の種類
分類 種類 備考
セル(単電池) 二極式 フルセル 実用電池(コインセル、円筒型電池)、メッキ試験(ハルセル)、電解槽など。 アノード カソードのみ
三極式 ハーフセル 作用極 、対極、 参照極
バッテリー(組電池)
電解槽
単極式(モノポーラ)
複極式(バイポーラ) 液を通しての短絡電流を防ぐなどの工夫が必要となる。 トヨタ 古河電池

  2 電極の接続様式

バイポーラ接続では、ブスバーなどの重量を低減できるため、 バッテリーだけでなく、 水電解の電解槽などでも、応用が考えられるが 液絡のリスクを減らすのが課題です。 1 )


セル内部の等電位線

  3 303
平行平板電極の間の等電位線
© K.Tachibana

等電位線(等電位面)は、平面上(空間中)の電位の等しい点をつないだ線(面)です。 等電位線は、気象の天気図の等圧線、地図の等高線と同じ概念と思ってさしつかえありません。

大きな平行板電極を小間隔で向かい合わせると、電界の強さおよびその方向が、均一になります。 これを平等電界と言います。 でも、板の端の部分では電界が両電極板の外側に出る形になり平等電界ではなくなります。 この現象を端効果たんこうか(縁効果えんこうか)と言います。 https://em.ten-navi.com/dictionary/1763/


二極式セル(フルセル)と三極式セル(ハーフセル)

  3  半電池(ハーフセル)と全電池(フルセル)
セルのタイプ 説明
半電池(ハーフセル)

ひとつの電極(作用極)と電解質 の界面を持つ。 作用極 試料極 ) に参照極を組み合わせた3極式セル。作用極の電位を単極電位と言います。

リチウムイオン電池の試作では、金属リチウム負極で組み立てた電池をハーフセルと呼ぶこともあるようですが、 金属リチウム負極を使ったフルセルと呼ぶべきでしょう。

全電池(フルセル)

ふたつのの電極と 電解質 の界面を持つ。 正極負極、あるいは アノードカソードを持つ 2極式セル電気化学の三要素がそろっているセル。

初めての電気化学 電極類選定のポイント https://www.bas.co.jp/2559.html

主な電気化学測定法

  4 主な電気化学測定法
名称 概略 制御 測定 装置
クロノポテンショメトリー (CP 電圧電気量曲線 電池充放電曲線 過渡応答 など 電流 電圧 ( 電位 )、時刻 🚂 ガルバノスタット、データロガー
クロノアンペロメトリー 電流絞り込み曲線など 電圧 電流、時刻 🚂 ポテンショスタット 2 ) データロガー
リニアスイープボルタンメトリー (LSV) 分解電圧の測定など 電圧、掃引速度 電流 🚂 ファンクションジェネレータ、 🚂 ポテンショスタット、データロガー
サイクリックボルタンメトリー ( CV) 3 ) 電圧、掃引速度 電流 反応種の特定など
電圧電流曲線 電流 電圧 電池の内部抵抗
コンダクトメトリー 導電率 誘電率 の測定など 電圧 電流 🚂 ファンクションジェネレータ 4 ) 🚂 ポテンショスタット、データロガー
交流インピーダンス法 導電率 の測定など 電圧 周波数 電流 ファンクションジェネレータ、ポテンショスタット、データロガーオシロスコープLCRメータ * *

電池の直流評価と交流評価

  5   電池の 🖱 直流評価🖱 交流評価
直流 交流
主な対象 界面 バルク
主な評価項目 直流抵抗( DCR イオン導電率
主な評価方法 短絡試験、定負荷試験、定電流試験 交流インピーダンス法 過渡応答試験

交流インピーダンス法 で測定した、 コールコールプロット の切片は、バルク抵抗(溶液抵抗など)です。 複雑な 電池の内部抵抗 は、 バルク抵抗より界面抵抗に支配されます。 周波数が高いと、界面抵抗と 並列の容量が比較的小さくても(皮膜、 空間電荷層リアクタンスが小さくなってしまうため、 内部抵抗の推定は、直流抵抗の評価が大切です。


2-2 充放電曲線から読む放電容量と内部抵抗

電池の内部抵抗と充放電曲線

  4 198 🖱 電池の内部抵抗とSOC- OCV曲線
© K.Tachibana * , C1 Lab.

電池の内部抵抗 が大きくなると、カットオフ電圧に到達する時間が短くなり、電池の容量が小さくなります。 電池の内部抵抗 は、溶液抵抗( 抵抗過電圧)と接触抵抗からなります。 接触抵抗は、オーミックコンタクトでは、固体間接触の集中抵抗からなり、 またショットキーコンタクトでは、反応抵抗( 活性化過電圧)や皮膜抵抗となります。 SOCの推定に使われます。


2-3 サイクリックボルタモグラムから読む放電容量と内部抵抗


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RC直列回路のサイクリックボルタモグラム(CV)
©K.Tachibana
https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/54299/Common/Chart/CV-RCs.asp

2-4 交流インピーダンス法による電解質の導電率

コールコールプロット(ナイキストプロット)とボードプロット

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コールコールプロット(ナイキストプロット)とボードプロット
© K.Tachibana * , C1 Lab.

交流の電流と電圧の比を インピーダンスと言います。

インピーダンス は複素数なので、実部と虚部があります。 実部をリアクタンスと言い、虚部をレジスタンスと言います 5 ) 。 各周波数での インピーダンスの軌跡を複素平面上にプロットしたものを コールコールプロットあるいはナイキストプロットと言います。

*

パイソンで描いたコールコールプロット

  6 コールコールプロット(ナイキストプロット)
©K. Tachibana

python では、複素数が使えるので、短いプログラムでコールコールプロットのシミュレーションができます。


ランドルス型等価回路

反応抵抗 界面 電解質
  7 典型的な電極界面の等価回路
14.エネ特 03.エネ特 1217 1224 0216

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電極内部の界面の数
©K.Tachibana

2-5 固体材料の交流インピーダンス法による界面評価

固体電解質の界面

固体電解質の粒界をインピーダンスで調べようとすると、誘電分極ではなう電子分極させなければならないため、かなり高い周波数が必要です。 もっとも、そうやって調べる粒界抵抗は、電子抵抗であって、電子の2000倍もの質量をもつイオンが、粒界を通過できる保証はありません。結局、テストセルを作って、直流分極するしかありません。


粉体混合による活物質表面の変化と電池性能への影響

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©C.Honda

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©C.Honda

2-6 分散材料の交流インピーダンス法によるポットライフ管理

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©F.Sato

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©F.Sato

269
©F.Sato

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©C.Honda

2-7 過充電による電解液分解と炭素材料の膨張・集電体からの剥離


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©M.Morita

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©M.Morita

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©M.Morita

2-8 塗布ムラによる電極の凹凸からくる選択的電流集中と電解液の電気分解

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©K.Tachibana

2-9 活物質の表面誘電率が炭素アンダーコートによる接触抵抗低減効果に及ぼす影響

界面

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©K. Tachibana

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©C.Honda

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©C.Honda

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©C.Honda

2-10 集電体表面処理と電極スラリー密着性

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©

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リチウムイオン二次電池の電気化学測定と材料設計の考え方
~材料と構造と電池性能の関係性とは!?~
  • 1 電池の動作原理と電気化学の基礎
  • 2 電気化学測定と電極構造
    • 2-1 ビーカーセルによる部材特性の理解とコイン電池によるデバイス評価
    • 2-2 充放電曲線から読む放電容量と接触抵抗
    • 2-3 サイクリックボルタモグラムから読む放電容量と接触抵抗
    • 2-4 交流インピーダンス法による電解質の 導電率
    • 2-5 粉体混合による活物質表面の変化と電池性能への影響
    • 2-6 電極スラリーの経時によるゲル化とインピーダンス測定によるポットライフ管理
    • 2-7 過充電による電解液分解と電極材料の膨張収縮・集電体からの剥離
    • 2-8 塗布ムラによる電極の凹凸からくる選択的電流集中と電解液の電気分解
    • 2-9 活物質の表面誘電率が炭素アンダーコートによる接触抵抗低減効果に及ぼす影響
    • 2-10 集電体表面処理と電極スラリー密着性
  • 3 材料から見た電池の構造設計と工程設計
    • 3-1 材料が同じでも電池性能は変わる?
    • 3-2 電極内に存在する材料同士の界面
    • 3-3 充電式電池に求められる材料と形状の可逆性
    • 3-4 スラリー塗工工程と乾燥工程による電極と導電ネットワークの形成
    • 3-5 過充電時におけるバインダー樹脂の挙動と炭素粒子界面破壊
    • 3-6 分散剤や界面活性剤の残存や異物と電池性能
    • 3-7 導電助剤と集電体との接触抵抗
    • 3-8 電解質とマイクロショートやデンドライド形成の関係
    • 3-9 活物質表面の空間電荷層やSEIが電池性能にに与える影響
    • 3-10 タブリードやパッケージが電池性能にに与える影響
  • 4 リチウムイオン二次電池のパワーマネジメント
    • 4-1 組電池としてのバッテリー-モノポーラ電極とバイポーラ電極-
    • 4-2 バッテリマネジメント-パワーエレクトロニクスとインターネット-
    • 4-3 バッテリーの熱管理と内部抵抗-組電池としてのエネルギー密度-
    • 4-4 電池の容量減少と内部抵抗上昇-劣化診断と寿命評価-
    • 4-5 脱炭素社会に向けた再生可能エネルギー利用とV2H/V2Gにおける蓄電システム

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2024年1月21日 松木健三名誉教授がご逝去されました。

名称:C1ラボラトリー
URL:🔗 https://c1.yz.yamagata-u.ac.jp/
管理運用
山形大学 工学部 化学・バイオ工学科 応用化学・化学工学コース
C1ラボラトリー ( 伊藤智博立花和宏 ) @ 米沢

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