1.緒言
自然エネルギーの利用や電気自動車の普及により、大容量かつ高出力の二次電池が必要とされている。それに伴い高速反応可能なマンガン酸リチウムが期待されているが、なぜ高速なのかは明らかになっていない。また同じ結晶構造を持つマンガン酸リチウムでもその出力特性は大きく異なる。そこで本研究では、活物質の高速性がその表面極性にあるのではないかと考え、その誘電率と電池性能の関係について調べた。
試料極としてAl箔(A1085,厚み30μm,リチウム電池正極用)またはCコート箔(トーヤルカーボ,東洋アルミ)に活物質として2種類のLiMn2O4(以下LMO(A)、LMO(B)と略す)、LiCoO2(以下LCOと略す)、Li2TiO3(以下LTOと略す)を載せて作成した。対極にはAl箔とCコート箔をφ=11 mm皮ポンチ(アークランドサカモト,JAN4904781164622)で打ち抜き、φ=11 mmの円形のアルミニウム箔を用いた。評価用セルは試料極の上に対極を載せて洗濯ばさみで挟んでまな板スタンドに保持して組み立てた。セパレータは使用していない。集電体にはφ=11 mmの真鍮画鋲を用いた。作成したセルにLCRメーター(HIOKI, 3522-50)を用いて周波数37kHz、電圧1Vrmsの交流を印加してインピーダンス|Z|と位相角θを測定した。-X = |Z| sinθより、-リアクタンスXをそれぞれの活物質ごとに求めた。
3.結果と考察
LMO(A)とLMO(B)はLCOに比べてインピーダンス|Z|は小さかった。しかし赤間ら1)の報告によると(Fig.1)、Al線にLCOとLMOを打ち込んだ電極では水系電解液中のボルタモグラムから求めたアルミニウムと活物質の接触抵抗はLMOが大きいと述べている。活物質の粉体インピーダンスとFig.1に示した電池を組んだ時の接触抵抗は異なった。
Fig.2に活物質の-リアクタンスXを示す。LMO(A)とLMO(B)はマンガン酸リチウムであるが、-リアクタンスXはLMO(A)が2kΩ、LMO(B)は11kΩとLMO(B)はLMO(A)に比べて5倍となった。しかしX線構造解析の結果、結晶構造に違いは見られなかった。よってFig.2中の-リアクタンスXは活物質内部の変位分極によるものではなく、表面の極性によることが示唆された。
Fig.3に活物質表面の極性を示す。活物質表面極性が大きいほどAlの表面酸化皮膜と接触したときの空乏層が大きくなる。空乏層は電荷が存在しない領域である。空乏層が大きいほど接触抵抗は大きい。
分子の極性は、双極子モーメントで議論される。しかしながら双極子モーメントは、場所の関数であり、分子のように点と見なせる場合以外は物性値として使えない。活物質表面の極性は、局在している電荷が与える双極子モーメントのばらつきに由来すると考えられ、リアクタンスの大きさは、そのばらつきの大きさを反映しているものと考えられる。
参考文献
1) 赤間未行ら, “電池活物質の種類が集電体アルミニウム表面の接触抵抗に及ぼす影響”. 第138回表面技術協会講演大会要旨集. 13A-24(2018)