アルミ電解コンデンサの耐電圧を決める因子は何か:絶縁破壊とは@第16回ARS琵琶湖コンファレンス

https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/54299/c1/Extra_Syllabus/1999_H11/19991104/files.asp
機能界面設計工学特論 の単元です。

小単元

概要

【学会】第16回ARS琵琶湖コンファレンス@滋賀県長浜市

アルミ電解コンデンサの耐電圧決める因子は何か絶縁破壊とは

若手研究者の立場から

16回ARS琵琶湖コンファレンス

山形大学工学部 物質工学 立花和宏

〒992-8510 山形県米沢市城南丁目3-16

緒言

アルミニウムが単離されてから100年以上が経過している1920年台には既に電子デバイスへの応用が検討されはじめたその整流作用がアノード酸化皮膜の存在によるものだということがわかるとただちにその絶縁性利用して電解コンデンサへの応用がなされた新しい方式のコンデンサ次々に開発される中アルミ電解コンデンサはその優れた特徴活かし70年にも及ぶ歴史刻んできた1980年台にはリチウム次電池集電体としてアルミニウムが注目されたアルミニウムリチウム電池の高い起電力に耐えうることが重要な点であった電解コンデンサリチウム電池アルミニウム不働態皮膜耐電圧高さ利用した電子デバイスであるアルミニウムの電子デバイスの応用の歴史はその不働態皮膜の耐電圧に関する研究の歴史とも言えるこのような研究は現在も発展続けているしかし明確にアルミ電解コンデンサの耐電圧決める因子は何か絶縁破壊とは?問いに応えるまでには至っていない

耐電圧アノダイジングレシオ

デバイスとしてのアルミ電解コンデンサーにおける耐電圧は主に化成箔の耐電圧に依存する従ってアルミ電解コンデンサーの耐電圧は化成箔の耐電圧より小さくなるのが普通であるここでは主に化成箔の耐電圧について述べる化成箔の耐電圧は主に2つの概念からなる1番目はブレークダウン電圧呼ばれているこれは陽極酸化可能な最大電圧意味それ以上の電圧では火花発して陽極酸化反応が進行しないことから火花電圧とも呼ばれる希薄電解液中でAl陽極酸化させると火花電圧の高い化成箔が得られる2番目は化成箔の再陽極酸化開始電圧である化成箔の再陽極酸化開始電圧はいくつかの定義が考えられるが本質的には漏れ電流無視できる最大電圧いうことができる化成箔の耐電圧と言った場合はこの再陽極酸化開始電圧意味することが多いのでここ耐電圧して再陽極酸化開始電圧について述べる

漏れ電流は実際には0成り得ないので化成箔の耐電圧の測定規格として0より大きい所定の電流通電したときの電圧測定するEIAJ RC-2364などが定められているまたこの再陽極酸化開始電圧は膜厚に比例しその比例係数はアノダイジングレシオなどと呼ばれ1.4nm V-1値が知られている1)従ってアノダイジングレシオは皮膜の耐電圧と非常に密接な関係があり古くから現在に至るまでその精密な測定が試みられ続けている2-3)

このアノダイジングレシオの逆数は皮膜内部の電場強度意味する皮膜内部の電場強度と皮膜生成機構については古くから論じられてきたこれらは高電場促進イオン移動機構(HFM)呼ばれ1934年のGunterschultze Betz 研究にまで遡る4)彼らは酸化物内の電場強度が非オーミイオン電流密度 j と指数関係にあるという実験的関係導いたその後1948年にCabrera Mott この数式イオン金属酸化物の界面泳動するのに必要な障壁の高さにもとづく電界の影響仮定するモデルより理論的に誘導している5)この後Vermilyea6)Dewald7) Winkel8)Young Zobel9)Fromhold10)ら多数の研究者によってHFMが検討されDignam11) よってほとんど徹底的に考察されたしかしアノード皮膜の特性説明するもうひとつの理論Macdonaldらによる点欠陥モデルPDM理論12-13)によって現在もさらに検討が加えられ続けてている14)

アノダイジングレシオとHFM

アノダイジングレシオもHFMも陽極酸化のある側面についての数学的取り扱いとみなすことができるアノダイジングレシオ漏れ電流が無視できる仮定の下に皮膜膜厚と耐電圧の比例関係表しているHFMは電場強度電流密度関数関係表しているしかしこれらのつの数学的取り扱いはお互いに相容れないそれぞれ関係付けようという試みは歴史上いくつか存在しているアノダイジングレシオ逆数電場強度表すのでYoungはHFMからアノダイジングレシオについて考察している15)また小野らはTEMによる皮膜断面写真から皮膜膜厚測定アノダイジングレシオ電流依存性について検討している3)しかしいずれの場合もアノダイジングレシオとHFMの両方記述できる数学取り扱い得ようという目的ではないこれらのつの数学的取り扱いが相容れない理由は独立な物理量の違いによるアノダイジングレシオの概念では耐電圧が独立変数なのである耐電圧に対して皮膜膜厚は意に決まるHFMの概念では電場強度が独立変数なのである耐電圧に対して任意の皮膜膜厚仮定できるすなわち関数関係与えられた数学的構造が異なる

このように陽極酸化というひとつの現象においてアノダイジングレシオとHFMという相容れない2つの数学的取り扱い50年間にもわたって統合することなしに並列して存続させ続けてきたことが耐電圧考察する上での混乱招いてきたひとつの原因であると考える従って耐電圧考える上でアノダイジングレシオとHFMする数学的取り扱い考察することは重要であるそれにより耐電圧の定義明確にでき耐電圧実験的に正しく評価する方法論が吟味されひいてはアルミ電解コンデンサ耐電圧決める因子は何か絶縁破壊とは問いに対する回答得る第歩となると考える

ではアノダイジングレシオとHFMして数学的に取り扱うことは可能だろうか?その手がかりは1948年のCabrera Mott 論文既に存在しているのだが5)当時は現在のようなコンピュータ無かったこととHFMの議論が高度化しその研究専門家以外が取り扱うことが困難になっていったことなどから現在に至るまでほとんど議論されなかったのではないかと思われる結論から言えばアノダイジングレシオHFMして数学的に取り扱うことは可能であるまた陽極酸化というひとつの現象記述するだけのことだから従来存在する理論否定するようなことはない

さてアノダイジングレシオのように耐電圧と皮膜膜厚が比例するとしたとき電場強度と電流密度の関係はどうなるだろうか?耐電圧の定義から電場強度アノダイジングレシオ逆数未満のときは漏れ電流が0であり電場強度アノダイジングレシオ逆数より大きいと急激に限りなく大きな電流が流れるような関数fになると思われるこの関係数式で形式的に表すと

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