立花和宏,
第49回国際電気化学会
,
北九州,
導電助材のカーボンの機能について研究発表した。
第49回国際電気化学会-北九州市1)
【関連講義】リチウム二次電池における電極スラリーの調製と塗布技術,塗布・乾燥プロセスと電池性能 2)
◆1998(平成10)年度ノート3)
●1998年度(平成10)卒業研究4)
第49回国際電気化学会@福岡県北九州市5)
くわばら6)
学会発表1998@C17)
まず、炭素を大量に添加して電池の放電曲線がどう変化するか調べました。すると炭素の量を30倍に増やしても1電子までの特性には大きな影響がないことがわかりました。
では逆にカーボンの量はどこまで減らせるのでしょうか?
カーボンの量を減らして行くと、IR降下が大きくなって、充電時放電時ともに電位がシフトします。さらに充電時と放電時の容量比が小さくなります。アルカリ電池ではあるスレッショルドを境に急激に放電できなくなります。これらのことは単なるIR降下だけでは説明できません。
また、粒径を変えた活物質を用いた場合、粒径に応じて電池動作可能な炭素量が異なることがわかります。このことは炭素が体積要素に関係していることを意味します。
これらのことも、炭素が単なる活物質と集電体との電子伝導性の向上のみでないことを示します。炭素を極限まで減らすことはできず、必ず最小値が存在し、活物質の空間配置に重要な役割を果たしていると言えます。このことは立体構造のない薄膜電極が炭素なしでも動作可能であることと関連しています。
次に炭素の替わりに導電助剤に使える金属を調べました。導電助剤は集電体同様、電解液に不溶性でなければなりませんから、それだけでも選択の範囲が狭まります。
その結果、たとえ集電体金属と同じ金属でも導電助剤になりえないことがわかりました。また金粉以外の金属はほとんど導電助剤としての使用に耐えないことがわかりました。このことは、金属表面の酸化皮膜が不働態皮膜として働き活物質と金属の界面を絶縁状態にしているためと考えられます。それでは、なぜ集電体の表面の酸化皮膜は問題にならないのでしょうか?
そこでアルミニウム集電体をあらかじめ陽極酸化することで意図的に陽極酸化皮膜をつけてみました。アルミニウムの陽極酸化皮膜は電解コンデンサの誘電体に応用される絶縁体です。その厚みは、陽極酸化電圧によって制御でき、ここでは、280nmの陽極酸化皮膜をつけました。
その集電体を使用して電池を作成すると、IR降下は若干おおきくなりますが、その電池は動作しました。
そこで陽極酸化したアルミニウム電極に種々の物質を圧着させてアジピン酸アンモニウム中でサイクリックボルタモメトリを行ったところ、酸素過電圧の小さい物質を圧着した場合に電流がながれることがわかりました。これは、二酸化マンガン電析のアノードに酸化ルテニウムをコーティングするのとにています。なおこのときアルミニウムの溶解は起きません。
酸素供給源のない有機電解液中では、皮膜の修復は起きませんが、それでも物質によって過電圧が異なることがわかりました。このことはタンタル固体電解コンデンサの漏れ電流低減のため、陽極酸化皮膜に二酸化マンガンをコーティングするのと似ています。
このように炭素には不働態化している集電体酸化皮膜に導電性を与えます。
アルミニウムの酸化皮膜には無数の欠陥が存在します。このうち特に格子点に固定された酸素空孔は、伝導帯の下に空孔準位を形成し、それらのネットワークはアルミニウム金属クラスターのような挙動を示すと考えられます。
アルミニウム集電体の酸素過電圧よりも接触物質(炭素)の酸素過電圧が小さい場合、接触物質表面での酸素発生が優先的に起こり、アルミニウム集電体の欠陥部は修復されません。このことは炭素を接触させて定電位に保持した場合、いつまでたっても電流が減少しないことや(皮膜成長なし)、溶液中にアルミニウムイオンが溶出しないことから推定できます。
逆にアルミニウム集電体の酸素過電圧よりも接触物質(二酸化マンガン)の酸素過電圧が大きい場合、アルミニウム集電体の欠陥部の修復が優先的に起こり、アルミニウム酸化皮膜は本来の絶縁体としてふるまいます。
しかし、電池の正極活物質について、その酸素過電圧が議論されているのは、二酸化マンガンの電析プロセスぐらいであり、厳密な定義もあいまいなので、今後の検討が必要です。
活物質もアルミニウム陽極酸化皮膜同様金属酸化物ですから、活物質にも炭素接触による何らかの影響があるかもしれません。
ESR測定では、活物質単独(LiMn2O4)で観察されたブロードなピークが、炭素との接触によって消失してしまいます。LiCoO2でも似たような現象が見出されている。また、アルカリ水溶液中における二酸化マンガンの放電時には、炭素のESRシグナル強度が放電深さとともに変化してゆく現象が見出されています。
またカーボンの接触によってXRDピークがシフトする現象も見出されています。炭素接触による触媒的効果があるのかもしれません。しかし、その詳細な機構はまだ不明です。
薄膜電極は三次元空間構造を持たないため、導電助剤なしでも電池動作が可能です。インピーダンスの解析の結果から、溶液抵抗に次ぐ第二の律速過程が、電荷移動過程であることがわかりました。
このことは、合材電極においても炭素/活物質界面における電荷移動が重要であることがわかります。
しかし、合材電極でそれを確認するためにインピーダンスを測定してもほとんど特性がでてきません。これは炭素の大きな表面積が二重層容量を形成しているからと考えられます。つまり炭素は炭素/活物質界面で電荷移動を起こすばかりでなく、大きな二重層容量で電池の急激な負荷の変化を緩衝しているとも言えます。
実際のところ、溶液抵抗が律速になっているため、合材電極が界面電荷移動反応であることを直接確認するのは困難です。
合材電極では、電位掃引速度を早くするとすぐに溶液抵抗の影響があらわれてしまいます。そのときの抵抗は電極の幾何学的形状と電解液の導電率から推定される値にほぼ一致します。
しかし、アルカリ二酸化マンガンのような溶液抵抗の小さい系では、多数のサンプルを測定することで界面電荷移動反応を確認できます。この場合の放電曲線は、電極の幾何学的形状からさだめた面積当たりの電流密度よりも、活物質の重量当たりの電流密度の方が良い一致を示します。
このことは、合材電極において、溶液抵抗は電極の幾何学的な表面(2次元)、電荷移動抵抗は、電極内部の空間的配置(3次元)を持つ活物質粒子表面によって決定されると言えます。薄膜電極では、溶液抵抗と電荷移動抵抗の次元が等しいため、見かけ上、高速な測定が可能であり、合材電極では、溶液抵抗と電荷移動抵抗の次元が異なるため、狭い空間に活物質を高密度に充填できると考えられます。実用的な電池では、レート特性だけでなく寿命(容量)との兼ね合いも考えなければなりません。
この次元の変換を行っているのが導電助剤であると考えられます。
断面をみてわかるように合材の内部は、かなり密に充填されています。しかし、活物質粒子の表面の一点から放出されたカチオンは、必ず合材電極の幾何学的表面の一点を通過することになります。言いかえれば活物質粒子のひとつひとつを空間内の微小点電極(3次元)としながら、全ての活物質粒子が合材電極の幾何学的形状で決まる電解液との接触面(2次元)を共有しているといえます。
しかし、そのためには、導電助剤粒子の間の非常に狭い隙間を高速にリチウムイオンやプロトンを輸送する必要があります。わずかな量で導電助剤になりうる材料は炭素だけでした。炭素はなにかカチオン輸送ための特別な加速機構をもっているのかもしれません。また結着材の存在も気になるところです。
金は酸化皮膜を作らず、化学的にも安定なので、大量に添加すれば導電助剤として動作します。しかし、その場合、体積、重量、コストともに最悪になります。
さらに、サイクル試験を行った場合、アルミニウム集電体に炭素を組み合わせた通常の系に比べてはるかに性能が劣ります。
結局、炭素の選択はベストであり、炭素にはまだまだ隠された機能があるように見えます。
このように炭素には単なる電子伝導性の付与のほかにさまざまな機能があると考えられます。
しかし、不幸なことに、どんな種類の炭素をどれくらい混ぜれば、電池として最適なのかを知るには至っていません。
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立花和宏.
<a href='https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/developer/Asp/Youzan/Academic/@Meeting.asp?nMeetingID=51'>
<q><cite>
The true function of carbon conductive additives to the cathode of recent high-performance batteries
</q></cite>
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第49回国際電気化学会, 北九州.
1998.
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