しずかなしずかな里の秋
おせどに木の実の落ちる夜は
ああ母さんと ただ二人
栗の実 煮てます いろりばた
ビデオ通話には、AIノイズキャンセラーを搭載されている。風情あふれる木の実がおせどに落ちる音は、容赦なくノイズとして消去される。母の歌声ばかりが、不自然に明瞭だ。しかも、いっしょに歌っているはずの歌声は、デジタル遅延のせいで、遅れて聞こえる。それでも、画面越しの母の表情は、私といっしょに歌っているつもりとみえて、無邪気で楽しそうだ。
記録された文字には、記憶が残されている。遠い祖先のはるかなる記憶だ。写真がなかったころでも、亡き人の面影を、戒名から慮ることができる。それどころか、万葉の時代の、遠い記憶を、文字から呼び覚ますことさえできる。その文字を、いともたやすく、地球の果てから、瞬く間に、機械が書き写す社会。それがデジタル社会だ。
ありがとう。