○立花和宏,高木泰彦,仁科辰夫,松木健三,
表面技術協会 第98回講演大会
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秋田市文化会館,
アルミニウムの陽極酸化皮膜においては多くの報告があり、古くから皮膜成長機構や構造が広く研究されてきた。しかし、水は酸素供給源であると同時に腐食性であることが知られており、陽極酸化には電解質アニオンの存在が重要な役割を果たしていると言われてきた。(1)しかし、アニオンを含まない純水は溶液抵抗が大きく、腐食作用があるので、(2)通常純水中で陽極酸化を行うことはできない。そこで溶液抵抗の影響を受けにくい微小電極の特徴を利用して、純水中におけるアルミニウムの高速陽極酸化をサイクリックボルタンメトリによって電解質を含む場合と比較検討した。
2.実験方法
試料には、φ25μm、99.999 %のアルミニウム線を用いた。これにφ0.5mmのアルミニウム線を圧着し、リード線とした。この電極をエポキシ樹脂に封入し、端面をアルミナ研磨して、微小電極を作成した。前処理は、0.65M HNO3水溶液で表面酸化・水洗いし、1M NaOH水溶液に浸漬後、空気や水による表面酸化を防ぐために水洗いせずに、ただちに測定に供した。電解液には純水(1μS・cm-1以下)と5wt%アジピン酸アンモニウム水溶液を用いた。トールビーカー内に電解液を約25mL入れてセルとした。対極に白金、参照極に飽和KCl銀/塩化銀電極を用いた。塩化物イオンの汚染を防ぐために、参照極は二重塩橋で接続した。ポテンショ/ガルバノスタット(TOHO 2020)を用い、サイクリックボルタンメトリを行った。電位掃引速度を20~2000 V・s-1でサイクリックボルタモグラムを測定した。
3.結果と考察
図1にアジピン酸アンモニウム水溶液中での100V・s-1における旗型電極と微小電極のサイクリックボルタモグラムを示す。旗型電極では、溶液抵抗の影響を受けて、0V付近からの電流の立ち上がりが緩やかになり、電流平坦部が傾斜を持っているが、微小電極では、電流は急激に立ち上がり、電流平坦部に傾斜を持たない。従って溶液抵抗の影響を受けずに電流平坦部の電流値を読み取ることができる。このように微小電極では溶液抵抗および静電容量成分の影響を受けずに高速陽極酸化挙動を観察できる。ここで陽極酸化効率が100%ならば、電流平坦部の電流密度の値と電位掃引速度から酸化皮膜内部電場強度を計算できる。酸化皮膜内部電場強度と電流密度の関係は古くから検討されており、電場促進イオン移動モデルと呼ばれている。(3)
図2に微小電極を用いて5wt%アジピン酸アンモニウム水溶液中と純水中で電位掃引速度を変えて測定したサイクリックボルタモグラムより求めた電場強度と電流密度の対数の関係を示す。陽極酸化皮膜と耐電圧の関係はアノダイジングレシオとして知られており、1.4nm・V-1である。アノダイジングレシオの逆数は、陽極酸化中の酸化皮膜内部電場強度の目安として使うことができ、1.4nm・V-1の逆数は、0.7GV・m-1である。図2の○で示したようにアジピン酸アンモニウム水溶液中で陽極酸化した場合、20V・s-1から1000V・s-1の電位掃引速度に対応する内部電場強度は、0.5GV・m-1~1.1GV・m-1であった。これは通常の旗型電極に比べると若干小さめであるが1.4nm・V-1から大きくずれてはいない。それに対し、図2の□で示した純水中で陽極酸化した場合の内部電場強度は、0.1GV・m-1~1.0GV・m-1であった。これはアジピン酸アンモニウム水溶液中に比べて明らかにかなり小さい。特に20V・s-1における内部電場強度0.11GV・m-1は、アノダイジングレシオ8.4nm・V-1に対応し、通常の陽極酸化反応とは異なっていることがわかる。そして、純水中における電流密度は溶液抵抗が大きいにもかかわらず、アジピン酸アンモニウム水溶液よりも大きい。これらの結果は、陽極酸化皮膜に取りこまれた電解液中のアニオンが皮膜のバリヤ性を高めていることを示唆している。
表面技術協会 第98回講演大会1)
◆1998(平成10)年度研究ノート2)
【関連講義】卒業研究(C1-電気化学2004~),学会発表1998@C13)
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○立花和宏,高木泰彦,仁科辰夫,松木健三.
<a href='https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/developer/Asp/Youzan/Academic/@Meeting.asp?nMeetingID=52'>
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微小電極を用いた純水中におけるアルミニウムの高速陽極酸化
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表面技術協会 第98回講演大会, 秋田市文化会館.
1998.
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