無機工業化学

人はなぜ、モノを作らなければならないのか。これを議論してみましょう。

人が、貴重な資源から作った工業製品は、いつかは廃棄物になります。 工業製品が、人々を幸せにするために使われる時間は、ごくわずかです。 そもそもモノを作るということは、環境を破壊することです。 環境を守りたければ、モノを作らなけれはいいのです。

それでも、人々を幸せにしたい。その熱い思いで、技術者が、苦労に苦労を重ね、工業製品を、世に送り出します。 その工業製品は、同じこの世に住む人々の営みによっては、思わぬ展開を迎えることがあります。

そんなドラマを抱えた、工業製品をひとつ選んで、人はなぜ、モノを作らなければならないのかについて 議論してみましょう。


例) 工業製品として2002年に発売された健康エコナマヨネーズタイプを選んだ。

エコナクッキングオイルは、1990年代に メタボリックシンドロームの増加などの課題を予見して開発が始まった。 少子高齢化で、それらの疾病が医療保険財政を圧迫するだけでなく、健康寿命を延ばす意味でも人々を幸せにできると考えたからだ。 今から30年も前の、1990年代に、その研究開発をスタートさせた、その先見の明には、脱帽せざるを得ない。

エコナクッキングオイルは、トリアシルグリセロールのかわりに消化吸収されにくい ジアシルグリセロールを主成分とした食用油で、 健康エコナマヨネーズタイプは、その油を使ったマヨネーズだ。

研究が終盤に差しかかかると、研究所所員全員で、体を張った実証試験にとりかかった。 所員全員が1年以上、同じ献立で、ダブルブラインドテスト(二重盲検)を行った。 その献立を決めるのに、「お酒はどうするか?」でずいぶんと揉めたとのことだ。 結局、お酒はお銚子1本(180mL)と決めた。

「お酒好きの人ならわかると思いますけど、お酒はね、飲まないより、1本でやめる方が難しいんです。 実証試験がはじまったあとで、1本(180mL)にしたのを後悔しました」

と、当時の研究所長が、とある講演会でつぶやいていた。 それでも我慢して、その献立でがんばったのは、 生活習慣病等の予防に役立ちたいという、所員全員の願いだったに違いない。

その効果は実証され、 特定保健用食品も取得した。 4億円もかけてFDAの認証もとった。 健康エコナマヨネーズタイプを発売する前に、待ったがかかった。 エコナクッキングオイルは、工業製品で、農産物でないからJASマーク(日本農林規格)が取れないというのだ。 一般のサラダオイルだってヘキサン抽出するのに、なぜ?思うが、世間はそういう判断だった。 紆余曲折を経て「マヨネーズ」ではなく、「マヨネーズタイプ」として発売し、好評を博し、愛用者も増えていった。

2009年、そのエコナに激震が襲った。 エコナに発がん性があるという噂が流れたのだ。 サラダオイルにも含まれる不純物、グリシドール脂肪酸エステルが、 エコナでは少し多かったのだ。

花王はただちに、製造・販売を自粛し、特定保健用食品を取り下げた。 開発者たちにとっては、ほんとうに断腸の思いだったと思う。

それから6年後の、2015年に花王は、下記のコメントを出している。

実験動物において、グリシドール脂肪酸エステルを不純物として含む経口投与によるエコナ油の発がん促進作用は否定され、問題となる毒性影響は確認されなかった。

©2015 エコナに関するご報告HPより。

噂されたエコナの発がん性は否定された。

そして、さらに6年が過ぎた現在、エコナの行く末は、杳として知れない。

安全でないことのエビデンスを集めることはたやすいが、 安全であることを証明することは、不可能である。 安全か、安全でないか、あるいは、〇か×か、のような画一的な議論は、常にこのような危険をはらんでいる。

それでも、人はモノを作り続けなければならない。 なぜなら、 幸せは何もしないでやってくるものではないからだ。 日常の幸せは、 自ら手に入れる努力をし、痛みを伴う試行錯誤を繰り替す中で、はじめて気づくものだからだ。


✍ 平常演習

平常演習の配点と取り扱いについて

平常演習の配点は、授業1回ごとに、一律加点です。 平常演習には、ワークショップ、意見交換、発表、質疑応答など授業時間内の学習活動を含みます。 そのほかに授業時間外の0.5時間の学習活動を含みます。 平常点は、期末にWebClassの成績評価申請書に申告していただき集計します。

授業時間外の活動の一助としてWebClassへの提出を推奨します。〆切は講義後1週間です。 ただし平常点の加点は、授業時間内の学習活動も含みますので、 WebClassへの提出のみでの、平常点の申告はご遠慮ください。

WebClassへの平常演習提出は、推奨しますが、必須ではありません。 提出されていなくとも、成績評価申請書に、各回の授業時間以外の0.5時間の取り組みが申告されれば十分です。未提出だからと心配することはありません。

成績評価申請書では、それぞれの授業で何を学び身につけたかを申告してもらいます。 WebClassに提出したかどうかより、身につけることを優先してください。 授業で取り上げたトピックや、グループワークの意見交換の内容は、期末までノート 1 ) などに記録しておくことを推奨します。 逆に授業に参加していないのに、WebClassの出席や提出だけの場合は不正行為として扱うことがあります。 平常の取り組みだけで、「到達目標を最低限達成している。成績区分:C」となります。 評点が60点に満たない場合は、不合格となります。 欠席した場合、課外報告書へ取り組むことで挽回してください。 出席が60%に満たない場合、課外報告書を提出しても、単位認定できません。