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「科学者になるには『あたま』がよくなくてはいけない」これは普通世人の口にする一つの命題である。これはある意味ではほんとうだと思われる。しかし、一方でまた「科学者はあたまが悪くなくてはいけない」という命題も、ある意味ではやはりほんとうである。そうしてこの後のほうの命題は、それを指摘し解説する人が比較的に少数である。
……(途中略)……
寺田寅彦、科学者とあたまより
科学の歴史はある意味では錯覚と失策の歴史である。偉大なる迂愚者の頭の悪い能率の悪い仕事の歴史である。
頭のいい人は批評家に適するが行為の人にはなりにくい。 すべての行為には危険が伴なうからである。 けがを恐れる人は大工にはなれない。 失敗をこわがる人は科学者にはなれない。 科学もやはり頭の悪い命知らずの死骸の山の上に築かれた殿堂であり、血の川のほとりに咲いた花園である。 一身の利害に対して頭がよい人は戦士にはなりにくい。
頭のいい人には他人の仕事のあらが目につきやすい。 その結果として自然に他人のする事が愚かに見え従って自分がだれよりも賢いというような錯覚に陥りやすい。 そうなると自然の結果として自分の向上心にゆるみが出て、やがてその人の進歩が止まってしまう。 頭の悪い人には他人の仕事がたいていみんな立派に見えると同時にまたえらい人の仕事でも自分にもできそうな気がするのでおのずから自分の向上心を刺激されるということもあるのである。
寺田寅彦、科学者とあたまより