アルミニウムアノード酸化皮膜に粘土鉱物が接触したときの電気化学的挙動. 第33回金属のアノード酸化皮膜の機能化部会(ARS)熱海コンファレンス, 伊豆山研修センター. 2016.
キーワード[アルミニウム, アノード酸化, 粘土分散液,火花電圧,耐電圧]
皆さん、こんにちは。山形大学理工学研究科からまいりました大沼宏臣です。
本日は、粘土分散液中でのアルミニウムのアノード酸化についてお話させていただきます。 それでは、発表を始めさせていただきます。
白谷らは,アルミニウムの表面に自然酸化皮膜生成されており,その皮膜との接触抵抗が高いため,アルミニウム電池の負極して利用しても,負極の電位が下がらない 粘土鉱物分散水溶性ゲルを使用することで,アルミニウム負極の電位が塩化ナトリウム水溶液より低い電位を示したと述べています. ゆえに,粘土鉱物分散水溶性ゲルを使用した電池ではアルミニウムとの接触抵抗が低下すると結論づけています.1)
静電容量Cの値は、以下の式から求めることができる。 C [F]=(ε₀×εs×S [m2])/d [m] また、アルミニウム電解コンデンサの場合は、化成電圧V [V]とし、 化成によって生ずる皮膜の厚さが化成電圧に正しく比例して、1 Vあたり1.4 nmと仮定すると、静電容量Cの値は、以下の式から求めることができる。 C [F]=(ε₀×εs×S [m2])/(1.4×10-9 [m/V]×V [V]) ここでは、ε₀= 8.85×10-2 [F/m]、アルミニウムのε=8.5 とした。3)
こちらの図にアルミニウムのpH電位図を示します。
アルミニウムのpH電位図によると中性領域では、酸化アルミニウムが生成し、安定である。 そして、酸性領域ではAl3+が、塩基性領域ではAlO2-が発生します。
図の電極電位とpHに関する領域図は基準となる溶存イオン濃度10-6Mの時のものである.通常この領域は溶存イオン濃度によって変化する.
Pourbaix1)によれば中性領域の時にAlの表面に生成する被膜,腐食生成物は熱力学的に最も安定なのがHydrargillite(Al2O3·3H2O)と書かれているが,そのほかにもBayerite(Al2O3·3H2O),Bohmite(γ-Al2O3·H2O),Corundum(α-Al2O3),Amorphous hydroxide(Al(OH)3)が挙げられている.
参考文献
1)M. Pourbaix, Atlas of Electrochemical Equilibria, (Pergamon Press, 1966), 168-176.
また、特願2007-526928によれば,化成処理中のアルミニウム合金上の電食を抑制することができ、アルミニウム合金上の接 触部及び一般部(非接触部)に形成される化成皮膜量の差を小さくすることが可能になる とともに、各種金属材料に良好な化成皮膜を形成することができる表面調整剤が提供されています。 その詳細としては、 リン酸亜鉛粒子、 水溶性有機高分子、及び 層状粘土鉱物 を含むことを特徴とする表面調整剤となっています。 上記の様に粘土鉱物を含む処理液には、表面調整後の錆びの発生を防止することができ、処理浴中での分散安定性に優れ るといった効果があり、利用されています。4)
また、田邉らによると,ヘクトライト水分散液の塩基性によって,アルミニウムの酸化被膜を除去する可能性があると述べています. 1 ) 両性金属であるアルミニウムは,中性領域で緩衝作 用のある電解液を用いることでアノード酸化時にバリヤー皮膜を生成できます. そこで,本実験では中性に調製 した粘土分散液である スチーブンサイト/2wt%水分散液を用いて,アルミニウムのアノード酸化挙動を調査しました.
🌋 粘土含む | 💧 粘土含まない | |
---|---|---|
😋pH=7 | 中性粘土分散液 スチーブンサイト2wt%/水分散液+硫酸,7.4 mS/cm | 0.8wt%AA水溶液 0.8wt%アジピン酸アンモニウム 7.4 mS/cm |
😰pH=10 | 粘土分散液 スチーブンサイト2wt%/水分散液 | NaOH+NaHCO3緩衝溶液 (NaHCO3, NaOH,濃度即答不能) |
アノード酸化に用いた電解液として、こちらの表1に示した4種類のものを準備しました。 まず、粘土を含む溶液として,スチーブンサイト2wt%/水分散液に硫酸を滴下し,pHを7 付近に調製した中性粘土分散液(7.4 mS/cm)と pHの調整を行っていないスチーブンサイト2wt%/水分散液である粘土分散液を使用しました。 次に粘土を含まない溶液として、導電率を中性粘土分散液と同じに調整した 0.8wt%の濃度のアジピン酸アンモニウム水溶液(0.8wt%AA 水溶液,7.4 mS/cm)及び、 NaOH+NaHCO3緩衝溶液を使用しました。
また,表2に示すようにコンデンサ成分の評価のために使用した電解液として、 15wt%の濃度のアジピン酸アンモニウム水溶液を使用しました。
測定セルの電極として,作用極に4N のアルミニウム箔を旗形にハサミで切り出した.電極面積が 1 cm2 (片面 10×5 mm)の旗形電極になるようにした. 対極にはSUS 容器(コーヒーミルクピッチャー,内径 30 mm)を用いて,これに 電解液 を満たして、 作用極が1 cm2になるように浸して、測定用セルとした。
次に、準備した 測定セル を高電圧電源と電流、電圧測定用のテスターに接続しこの図に示したような回路を組んだ。 そして、1 mA/cm²の電流密度で,10 V までの条件で 電流を通電して、化成処理を行った。 化成処理を開始したら、ストップウォッチで時間を計測しながらそれぞれの溶液中でのクロノポテンショグラムを作成した。 そして各電圧上昇速度をdV/dtの式より求めた.
次に中性粘土分散液、0.8wt%AA 水溶液,粘土分散液、NaOH+NaHCO3緩衝液を用いて、 測定セルを高電圧電源と電流、電圧測定用のテスターに接続し回路を組んだ。 そして、低圧用化成箔の皮膜耐電圧試験法に従って,アノード酸化限界電圧 Vfeの測定を行った。 また、皮膜耐電圧測定中に、気泡の発生の有無の確認及び、実験室の明かりを消しての火花発生の様子の観察、 そして実験終了後の 箔表面の観察を行った。これらの観察はいずれも目視により行った。
また、皮膜耐電圧測定中に、気泡の発生の有無の確認及び、実験室の明かりを消しての火花発生の様子の観察、 そして実験終了後の 箔表面の観察を行った。これらの観察はいずれも目視により行った。
次に中性粘土分散液、0.8wt%AA 水溶液,粘土分散液、NaOH+NaHCO3緩衝液を用いて、 測定セルを高電圧電源と電流、電圧測定用のテスターに接続し回路を組んだ。 そして、低圧用化成箔の皮膜耐電圧試験法に従って,アノード酸化限界電圧 Vfeの測定を行った。 また、皮膜耐電圧測定中に、気泡の発生の有無の確認及び、実験室の明かりを消しての火花発生の様子の観察、 そして実験終了後の 箔表面の観察を行った。これらの観察はいずれも目視により行った。
その後、低圧用化成箔の静電容量試験法に従って,15wt%AA水溶液を調整し、 LCRメーターを測定セルに繋ぎ、各種化成箔の静電容量 C を測定した 3).
続いて、 15wt%AA水溶液中 で,先ほどの各化成箔を再度化成処理して, クロノポテンショグラムから電圧上昇速度dV/dt と皮膜耐電圧Vfをそれぞれ求めた.
🌋 粘土含む | 💧 粘土含まない | |
---|---|---|
😋pH=7 |
中性粘土分散液
Vfe=20V,
泡なし、火花なし、
η=30%
|
0.8wt%AA水溶液
Vfe=420V,
🥂細かい泡、💥火花あり、
η=100%
|
😰pH=10 |
粘土分散液
Vfe=230V,
🥃大きい泡、火花なし、
η=90%
|
NaOH+NaHCO3緩衝溶液
Vfe=300V,
🥂細かい泡、火花なし、
η=90%
|
こちらの表に,各化成液の評価(アノード酸化限界電圧 Vfe、電流効率η、火花と泡の発生の有無)の観察結果を示す. 0.8wt%AA 水溶液中では,電極表面に細かい泡が発生した.電圧が 420 V で電圧の上昇が止まり, 火花が観察された. 一方, 中性粘土分散液では,電圧上昇速度が徐々に緩やかになり 20 V で電圧 の上昇が止まった.電極表面には,泡もなく,火花も観察されなかった. また,粘土分散液中では,100 V の電圧まで,電圧上昇速度 dV/dt=0.3 V/s で上昇し,徐々に緩やかになり,230 V で電圧の上 昇が止まった.電極には大きい泡が発生していたが,火花は観察されなかった. pH10 の緩衝溶液では,細かい泡が発生した.300 V で電圧の上昇 が止まり,火花は観察されなかった.
皮膜耐電圧試験後の各種化成箔の表面の観察結果を示す。 0.8wt%AA 水溶液箔の表面には茶色っぽく焦げたような箇所がみられた。 中性粘土分散液箔では、表面に変化や付着物などの確認はされなかった。 粘土分散液箔では、粘土分散液がゲル状になって,付着していた.取り出した箔には,浮島模様があり,表面には, 50 ?m の穴がまばらに存在した. 緩衝溶液箔では,箔の下の部分が黒色になっていた.このため,火花が観察できなかった可能性も考えられる.
中性粘土分散液中でアルミニウムに1mA/cm2通電すると、時間に対して直線的な電位の上昇がみられた。ゆえに、中性粘土分散液中でもアノード酸化が進行すると考えられる。 アルミニウムのアノード酸化反応を仮定すると、その電流効率は,0.8wt%AA 水溶液中の 3 分の 1 であった. 電圧上昇速度 dV/dt は,0.8wt%AA 水溶液中では,0.3 V/s,中性粘土分散液では 0.1 V/s であった.
SFJ2021A_アノード酸化 クニミネ報告書SEM写真からは、中性粘土分散液中でも、極端に腐食している様子はうかがえない。粘土分散液中で、アノード酸化時の電位上昇速度が小さいのは、腐食以外の要因と思われる。
次に、10 Vまで化成処理を行った0.8wt%AA 水溶液箔と中性粘土分散液箔のSEM観察の結果を示す。 0.8wt%AA 水溶液箔では表面に付着物などは特に確認できなかった。また、いくつかの細孔が空いている様子が観察できた。 一方、中性粘土分散液箔では、表面に斑点状の付着物や浮島模様状の付着物が付いているのが確認できた。 この付着物からは、中性粘土分散液に含まれているものが検出されており、この付着物は中性粘土分散液由来のものだと考えられる。 また、視点をずらしながら表面を隈なく観察したが、穴が空いている様子は観察できなかった。
粘土分散液中では、AA中にくらべて、アノード酸化時の電位上昇速度が小さいのは、 腐食が起きたためではないと考えられる。
→表ではなく棒グラフでの比較のほうが良い。 0.8wt%AA 水溶液 による化成箔の静電容量 C₀は,600 nF を示し,理論静電容量と同じで あった. 中性粘土分散液の化成箔では静電容量 C₁は,900 nF となり,中性粘土分散液のが,0.8wt%AA 水溶液のものと比較して1.5 倍 の静電容量の値を示した.
中性粘土分散液と 0.8wt%AA 水溶液による化成箔において,再化成開始時の電圧の値は,8.8 V, 10 V と大きな差はなかった。
再化成処理時の電圧上昇速度は,それぞれ0.3 V/s,0.4 V/s であった.
🌋 粘土含む | 💧 粘土含まない | |||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
😋pH=7 |
|
|
||||||||||||||||||
😰pH=10 |
|
|
ご清聴ありがとうございました!😄
・粘土粒子はアルミニウムの地に付くのか、皮膜に付くのか?それとも皮膜に取り込まれるのか?
・(SEM写真の情報より)アルミニウム表面の粘土はまばらに付いているのか?そしてそれは成長するのか?
・粘土分散液中で化成した箔で静電容量が増加するのは間違いないのか、またそれはなぜ?
・中性粘土分散液の調整方法は?またその液の経時変化は?
・静電容量が増えるが、粘土分散液を化成に使用した際の産業化における問題点は?
・AA水溶液中での皮膜耐電圧測定中に火花が観測されるメカニズムは?
・粘土分散液と緩衝溶液中での皮膜耐電圧測定後の箔の様子はそれぞれ同じなのか?
・泡と火花が観察されたとき、どちらから発生したのか?
・粘土分散液中ではなぜ火花が観察されないのか?
アルミニウムアノード酸化皮膜に粘土鉱物が接触したときの電気化学的挙動. 第33回金属のアノード酸化皮膜の機能化部会(ARS)熱海コンファレンス, 伊豆山研修センター. 2016.
アルミニウムの表面酸化皮膜が有機電解液中でのアノード酸化に及ぼす効果. , . 2010.