電極スラリーを電極にするには塗布したのちに1)、乾燥固着のプロセスを経る必要がある。それに至ってはじめて電極の形状を維持できるのである。乾燥の途中で溶媒は蒸発し、それまで分散していた粒子同士が凝集し、バインダーによって結着し、そして基板の上に接着される。このプロセスは自己組織化ともいうべきプロセスであり、乾燥条件も去ることながら電極スラリーの配合によるところも大きい。
では一体、どのような成分がどう影響するのだろうか?それを議論する前にスラリーの乾燥途中で一体何が起きているのかを議論してみる。
決して粉体の特性=電極の特性ではないのである。
一般的な乾燥は材料に吸着、混合、溶解している水などの溶媒を除去するために、加熱したり、減圧したりして、材料に含まれている液体を蒸発させて気体にしたのち、その気体を物質輸送して除去する。電極の乾燥で必要なことは溶媒を除去すると同時に粉体粒子間の必要な電気的接触を行って電気回路を構成しなければならないことである。
最終的には集電体|導電助材|活物質|電解液の電気回路を構成するわけだが、乾燥が終わった状態では、まだ電解液の含浸が終わっていないので集電体|導電助材|活物質|空隙の状態を構成しなければならない。集電体|導電助材や導電助材|活物質は、スラリー中で液橋が維持されているうちは付着しているが、液橋が破断されると付着も崩壊するので、乾燥後にはバインダーによって接着状態を維持しなければならない。
したがって、集電体|導電助材は厳密には集電体|バインダー、導電助材なのであって、バインダーが接触を阻害するようなことがあってはならない。
また導電助材も粉体であり、粒子間の接触を考えるとバインダー、導電助材|バインダー、導電助材なのである2)。
もっとも重要な活物質|導電助材3)の接触はスラリー中の粒子の再凝集のもっとも初期の段階で行われる必要がある。溶媒が蒸発とともに除去されて分散質濃度が次第に大きくなる中、活物質は安定して分散していなければならず、このことは活物質の表面電荷が失われることなく安定に存在してることを意味する。
最終的にはバインダーが炭素表面全体を覆うことなく、活物質|導電助材を結着している必要がある。
乾燥が終わって溶媒が十分に除去されたとしても、最後の電解液の含浸の過程で、それぞれの粒子間で剥離が起こり、電気的接続が失われてしまっては意味がない。実際、粒子間の空隙に対する電解液の含浸は必須のプロセスであって、粒子間が酸素分子や水分子を介して接着していたりすると電解液の含浸の過程でまさに剥離が起きてしまう。つまり電解液の溶媒が水分をローリングアップして液体架橋が崩壊しまうのである。
スラリー→キャピラリー→ファニキュラー→ペンジュラー
○柳沼雅章,…らは、2009年に国立京都国際会館(〒606-0001 京都市左京区宝ヶ池)で開催された第50回電池討論会においてリチウムイオン二次電池合材スラリーのin-situインピーダンス測定による乾燥プロセスの解析について報告している4)。
やぎぬまは、2010年に、それまでの研究をリチウムイオン電池合材スラリーの最適化というテーマで修士論文としてまとめ、山形大学を卒業した5)。
ながせは、2007年に、それまでの研究をバインダ乾燥過程における電極表面の可視化というテーマで卒業論文としてまとめ、山形大学を卒業した6)。
小原 大佑は、2006年に、それまでの研究をリチウムイオン二次電池正極における炭素/アルミニウム界面の接触抵抗を低減させるバインダーの塗布条件と乾燥温度というテーマで卒業論文としてまとめ、山形大学を卒業した7)。
○小原大佑,…らは、2005年に東北大学 川内キャンパス(宮城県仙台市青葉区川内)で開催された平成17年度 化学系学協会東北大会においてリチウムイオン二次電池正極における炭素/アルミニウム界面の接触抵抗を低減させるバインダの塗布条件と乾燥温度について報告している8)。
○武田浩幸,…らは、2009年に日本大学工学部(福島県郡山市田村徳定字中河原1)で開催された平成21年度 化学系学協会東北大会においてリチウムイオン二次電池の正極活物質と集電体界面の密着性について報告している9)。
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