大原則:イオン結晶は、①陽-陰イオン間の静電引力が最大に、陽-陽、陰-陰イオン間の静電反発力が最小になるような構造をとる。 CsCl型構造:「陰イオンのつくる単純立方の体心に陽イオンが入る構造」 (陽イオンは8個の陰イオンに囲まれている) 問:CsClはNaClと同じく1-17族化合物なのに、なぜ NaCl型構造をとらないのだろう?NaClはなぜCsCl 型構造をとらないのだろう? 答:CsClの場合、NaCl型構造よりもCsCl型構造を取っ た方が静電引力が大きくなるから。NaClの場合、Cs Cl型構造を取ると陰イオン同士の静電反発力が大きく なってしまうから。これらは、イオン半径比を考える とすっきりと説明できる。 説明 ①今、陰イオン(大きな円)がある規則構造をとっているとする。陽イオンのサイズがたまたま3個の陰イオンにちょうど内接しているとする(上図(b))。このときr+/r- = 0.155である。このときには、静電引力は満足している(陽イオンと陰イオンが接触できているから)。 ②もし、r+/r-が0.155よりも大きいような場合(上図(c))、陰イオン同士の反発力が小さくなるから、(c) の構造は(b)より安定であるといえる。 ③もし、r+/r-が0.155よりも小さい場合(上図(a))、陰イオン同士の反発力が大きくなりすぎるから、(a)の構造は不安定になる。 ④もしr+/r-が0.2247よりも大きい場合、平面内にある3個の陰イオンに囲まれているよりも、陰イオンを「4面体的に」周囲に配置するような位置(4配位サイト)に陽イオンが入ったほうが、静電引力をより大きくできる(d)。 ⑤r+/r-が0.414よりも大きい場合、陰イオンを6個周囲に配置するような位置(6配位サイト)に陽イオンが入ったほうがより安定になる(e)。 ⑥r+/r-が0.732より大きい場合、ちょうどCsClにおけるCs+のように、8配位サイトに入ったほうがより安定になる(f)。 r+/r- 0.155 < 3配位 < 0.225 < 4配位 < 0.414 < 6配位 < 0.732 < 8配位 検証1:Na+, Cs+, Cl-のイオン半径から、 r(Na+)/r(Cl-) = 1.16/1.67 = 0.6946 → Na+は確かに6配位位置を好む。 r(Cs+)/r(Cl-) = 1.81/1.67 = 1.084 → Cs+は確かに8配位位置を好む。 *CsClの場合は、陽イオンが陰イオンよりも大きな特例。r(Cl-)/r(Cs+)の比をとっても、Cl-は8個のCs+に囲まれた位置を好むことが分かる。 検証2:別な構造でもイオン半径比則はなりたつか? 例)閃亜鉛鉱(ZnS)型構造(右図参照) 「陰イオンの作る面心立方構造の4配位サイトの半分に 陽イオンが入った構造」 イオン半径比則の検証: r(Zn2+) = 0.70Å(Arlensの半径) r(S2-) = 1.73Å(Arlensの半径) r+/r- = 0.405 → Zn2+イオンはS2-イオンの 4配位サイトを好む 検証3:KClはNaCl型構造、CsCl型構造のどちらを取るだろう? r(K+)/r(Cl-) = 1.52/1.67 = 0.91。ここからだとCsCl構造をとりそうなものであるが、実際はNaCl型構造をとる。これは実はK-Cl間の結合に若干「共有結合」の性質が入りこんでいるためである(詳細には触れない)。このように、ときにはイオン半径からだけでは結晶構造を説明しきれないこともあるが、大抵のイオン結晶においては、「イオン半径比則」は成り立つ。 ここまでのまとめ: ①イオン結晶は「陰イオンの作る規則構造がまずあり、陽イオンがそのすきまのどこかに入っている」という表現方法をとると、構造を説明しやすい。 ②陽イオンが入る場所は、陰イオンの半径に対する陽イオンの半径でおおむね決まる。ある物質の結晶構造は、イオン半径比の影響を大きく受ける。