サイクル特性の劣化には二種類ある。ひとつの劣化はみかけの内部抵抗が大きくなる劣化である。これは電流経路に対する直列等価抵抗が増大するように見える。この場合は電流特性が悪くなり過電圧が大きくなるため充電電圧の上限や放電電圧の下限にすぐに達してしまうため、充放電可能な容量も小さくなってしまう。もうひとつの劣化はみかけの容量が減る劣化である。これは等価並列容量が減少するように見える。直列等価抵抗の主な要因としてはアルミニウム集電体と合剤の接触抵抗1)や電解液バルクの溶液抵抗が考えられる。従って等価直列抵抗の増大の原因はアルミニウム集電体と合材の剥離などが考えられる。また等価並列容量の主な要因は活物質の容量が考えられる。従って等価並列容量の減少の原因は有効な活物質量の減少すなわち活物質と導電助材の剥離などが考えられる。実際、サイクル特性が劣化した電極を再び混練圧着することで容量の復活が見られることがある。 このように、集電体と合材の接触抵抗は直列等価抵抗となり密着性が悪く剥離したりすると電流特性およびサイクル特性の劣化につながる。したがって集電体と合材の密着性を向上させることは電池性能を向上させる上で重要である。集電体と合材の密着性をあげるには集電体の表面処理、合材に混合する結着材の種類や混合比、合材の集電体への塗布や乾燥、プレスなどの条件を最適化する必要がある。接触抵抗を低減する効果だけを考慮すると集電体の表面の不働態皮膜は存在しない方が良いのであるが、その不働態皮膜は前述のとおり集電体を腐食から保護すると同時に電解液の酸化分解を抑制する機能を併せ持っている上、真空中で塗工しないかぎり必ず存在する。密着性を向上させるために意図的にポーラスな皮膜生成を行って合材とのアンカー効果を期待することも可能であるが、接触抵抗の低減という視点では逆効果になるので設計には最適点を見出す必要がある。またこの不働態皮膜は結着材に対しての接着効果を減衰させてしまうため、結着材も工夫が凝らされている。結着材はPVDFをNMPに溶解したものが多く使われているが接着効果を高めるためにPVDFに様々な化学修飾が施されているようだがその詳細はメーカーのノウハウにとどまっている。また結着材中の水分は乾燥時に集電体の皮膜生成にかかわるため電池性能に影響を及ぼすがこの点についての研究は少ない。結着材は集電体、炭素導電助材、電池活物資を結着させるものであるが、それぞれの表面物性はまったく異なるためそれぞれに対する接着性もまったく異なるものと考えられる。またPVDFのような結着材は電子伝導性がないので混合比が多すぎると活物質/炭素導電助材や集電体/炭素導電助材の間に必要以上に入りすぎて電子伝導性を阻害してしまう恐れがある。 ゆきひで2) (1) R, 接触抵抗, , オーム平方メートル, (物理量).(2) 電気二重層キャパシタ集電体における表面接触抵抗の極性と非直線性西川 幸秀, 修士論文, (2009).