1.
5.X線回折(かいせつ)5-1 X線回折とは
「結晶構造という”指紋”を既存データと照合して、物質を同定する実験的手法」
・結晶構造という”指紋”とは何か:
→「結晶構造とその中の原子間距離はひとつの物質に特有である。異なる複数の物質が全く同じ結晶構造と原子間距離を持つことなはい。
→「結晶面の間隔の組合せも物質特有である」
例)面心立方構造をもつような物質があるとする。
すると、結晶構造の中には右図のように、
(a)(100)面、(b)(200)面、(c)(111)面など
さまざまな面がある。ところで、原子の大きさは
元素に特有だから、同じ「面心立方構造」をとる
複数の物質であっても、(100)面どうしの間隔は
異なるはずである。
KCl(NaCl型構造)の(100)面の間隔は6.293Å、
(110)面の間隔は4.450Å、(111)面なら3.633Å
であることがすでにわかっている。同じ構造のLiCl
の場合、(100)面の間隔は5.130Åであり、他の
面の間隔もすべてKClとは異なる。従って、
結晶面の間隔の組合せを調べれば、物質が同定
できる。
5-2 面間隔を知る原理(X線の回折現象)
X線とは、波長が0.01~100Åの電磁波。通常は1Å程度のX線を用いる。この波長は、原子の大き
さの規模なので、結晶構造を調べるのに都合が良い。
原子がなしている面にX線があたると、一部は鏡面反射し、一部は透過する。透過したX線は奥の面で
さらに一部透過、一部反射する…。このとき、「すべての角度で鏡面反射が起こるわけではない」。なぜな
ら、最初の面と奥の面の反射光が互いに打ち消す場合があるからである。
反射が起こるのは、最初の面で反射する光(ABC)と奥の面で反射する光(DFH)の道のりの差が波長の整
数倍になるときだけである。
上の図において、結晶面の間隔をd、入射角をθ、X線の波長をλとすると、反射が起こるのは
(Braggの式)
が満たされるときだけである。各自、上の図からBraggの式を導出できるようになること(試験に出す)。
5-3 X線回折の実際
<原理>
・試料を粉末にしてホルダー(板)に詰め、下図左のような装置にセットする。
・試料に対して入射角θでX線を当て、反射角θの位置の検出器で反射光が来たかどうかを検出する。
X線は通常λ=1.5406Åの、Cuから出る単色光を用いる。X線管と検出器は、自動的に計測円上を移
動するようになっている。
・もし(100)面で回折が起こるような角度(θ1)にX線管と検出器が来たときには、試料粉末の中には
(100)面がホルダー面と平行になっているような粒が必ず存在する(粒の数がたくさんあるので、偶然
そのように向いている粒子があるはず)。そのときには検出器に反射光が入る。
・また、(111)面で回折が起こるような角度(θ2)においても、(111)面がホルダー面と平行になってい
るような粒が存在するはずだから、検出器には反射光が入る。このようにして、θを変化させて行けば、
結晶のすべての面からの回折が観測される。そのようにして測定した結果の例を下図右に示す。
・下図右の横軸は反射光が検出された角度(2θ)である。縦軸の反射光強度は(現段階では)意味を持
たない。2θの組合せは面間隔の組合せと同じ意味なので、物質特有である。
<物質の同定のしかた>
・非常に多くの物質について、その結晶面間隔のデータが「JCPDS (Joint Committee on Powder
Diffraction Standards)カード」に収録されている(例を宿題に示す)。例えばKClについては(100)
面が6.293Å、(110)面は4.450Å、(111)面は3.633Å…というように。
・Braggの式を使えば、X線の波長が装置によって異なっていても、その都度2θが計算できる。
JCPDSカードには、n=1として計算して良いようにデータが記載されている。λ=1.5406Åなら、
2θはそれぞれ14.06°、19.94°、24.48°…であることがわかる。測定された2θがそのようにな
っていれば、物質はKClであることがわかる。
・JCPDSカード(本学図書館にも所蔵)に収録されていない物質は同定できないことになるが、実際には非常に沢山の物質のデータが入っているので、そのようなことは事実上ない。全く未知の物質の結晶構造もX線回折で解析することができるが、それについては講義の範囲を越える。
<X線回折の使用目的>
1.目的物が合成できたかどうかの確認
例:CaOとTiO2を反応させて(混合物を長時間加熱して)、CaTiO3という化合物を作る。CaO、TiO2、CaTiO3は皆結晶構造が違うので、もしまだCaOやTiO2の回折ピークが観測されれば「反応は完結していない」とわかる。化学分析ではそのようなことは知り得ない。
2.不明な物質の同定
化学分析しようにも、どんな元素が入っているのかわからない。→X線回折ピークから同定する。
(JCPDSカードには、検索インデックスもついている。)
マンガン酸リチウムのX線回折1)