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🌡️ 📆 令和6年4月25日

塩橋の役目は何ですか?

1.

-----Original Message-----
 今、大学の実験で塩橋を使って電位差を測っているのですが
、塩橋の役割というか、塩橋と溶液間との間で起こっているこ
とが、どういうことなのかよく理解できません。+イオンが増
える溶液にはCl-が、-イオンが増える溶液にはK+が流れ
ていくのでしょうか。
----- quote -----

電位差を測っているとしたら、理想的な状態は、系に電流を
流していませんね。平衡電位の測定ならば、アノードもカソー
ドも、電解反応や電池反応は進行していない状態です。

電気分解や電池反応で電流を流しているのならば、溶液中
にはイオンが流れます。電子は電解液中を流れません(昔流
行った溶媒和電子なんて特殊な場合を除く)。電子は、外部
回路を通して電極間を流れて行き、アノードで発生した電子
は、外部回路を通してカソードに流れて行き、カソードで消費
されます。このとき、アノードで電極反応によって生成する電
子の数と、カソードで消費される電子の数は同じです。電解
液の中は、イオンが流れて行きますが、カチオンも動くし、ア
ニオンも動きます。そのときに、カチオンが動きやすいのか、
アニオンが動きやすいのか(輸率ですね)によって、電解液中
での電気を運ぶ割合というものが変わります。そのときでも、
電解液中では、どこでも電気的に中性になるという条件がほ
とんど成立します。

そこで、極端な場合として塩橋の代わりにアニオン交換膜で
仕切ったダニエル電池を考えてみましょう。ダニエル電池は

Zn | Zn2+, SO4 2- || Cu2+, SO4 2- |Cu

Cu2+ + 2e → Cu
Zn → Zn2+ + 2e

という電池です。電池反応の進行に伴い、Cu電極のほうで
は還元反応が、Zn電極のほうでは酸化反応が進行します。
また、アニオン交換膜の中を流れるイオンはアニオンだけで
す。カチオンは通らないので、カチオンの輸率はゼロになりま
す。電解液中のアニオンは、アノード側、カソード側ともに硫
酸イオン SO4 2- です。ですから、この SO4 2- イオンだけ
が、アニオン交換膜を移動できることになります。

さて、電池反応が進行すると、カソードではCu2+が消費され
てカチオン不足が生じ、アニオンの数のほうが瞬間的に大き
くなると考えましょう。アノードでは逆にZn2+が生成してカチ
オン過剰状態になります。このような状態になると、カチオン
交換膜を挟んでカソード側は全体的に負に帯電し、アノード
側はプラスに帯電した状態になります。そうすると、アニオン
交換膜を挟んで、負に帯電したカソード側からプラスに帯電し
たアノードに向かって、静電効果によってアニオン交換膜中
を SO4 2- イオンが移動します。その結果、カソード側ではア
ニオン濃度が減少し、負の帯電は解消されて電気的中性条
件が満足されます。アノード側では、アニオンの数が増える
ため、結果としてプラスの帯電が解消され、電気的中性条件
が満足されます。こうして、電池反応中で、電解液(アニオン
交換膜)中をアニオンが流れることにより、電解液中を電気が

流れて、外部電子回路を通して電子がアノードからカソードに
流れて、目出度く回路が成立します。

さて、この結果、どういうことが起こるか。アノード側ではZnSO4
の濃度が増加し、カソード側ではCuSO4の濃度が減少します。
SO4 2- の濃度がアノード側とカソード側で異なりますので、ド
ナンの膜電位が生じることになり、電池反応に寄与する過電
圧分を減少させることになりますね。しかし、Zn2+イオンが膜
を通ってカソード側に行ってしまうと、Cuの析出よりも先にZnの
析出が起こってしまいます。これは避けたい。似たような話は、
アノード側の電解液とカソード側の電解液が混じってしまうと、
電解液中で自発的に酸化還元反応が進んでしまうような場合
も、似たようなもんで、避けたいですよね。でも、膜電位の発生
は防ぎたい。どうしたら良いでしょうか?永久とも思えるような
長時間ではなく、実験の間だけというような、ある程度もてば
良いという条件で使用できるのが、塩橋と支持電解質の使用
です。

支持電解質と塩橋には、KCl溶液を良く使います。これは、K+
とCl-の輸率がほぼ同じで、液間電位(拡散電位)が発生しにく
いからです。電池反応によってアノード側の正電荷量が増え、
カソード側で負電荷量が増えても、大量にあるKClのCl-がちょ
ろっとアノードに移動し、K+がちょろっとカソードに移動し、つい
でに塩橋の中にアノードからちょろっとカチオンが入り、カソード
からちょろっとアニオンが塩橋の中に入っていっても、塩橋は長
いから、アノード側とカソード側のイオンが互いに混じることは
ないでしょう。また、支持電解質や塩橋の中のKClが大量にあ
れば、電解液中や塩橋の中では、KClがほとんどの電気を運ぶ
ことになるので、イオン強度の差もほとんど出来ないし、液間
電位も無視できるし、いいことばかりじゃん。支持電解質がNaCl
だったりすると、Cl-のほうが動きやすいので、その輸率の大き
さに従って、Cl-が運ぶ電気の量が増えますね。

もう一つ、支持電解質を使う理由があるんです。電解液中のイオ
ンの活量ってのは、イオン強度で決まるんです。だから、電極反
応に寄与するイオンよりも、大量のKClが支持電解質として溶け
ていれば、イオン強度はKClの濃度で決まってしまうから、少しく
らい電極反応に寄与するイオンの濃度が変わっても、活量係数が
変化しないんですよ。ということは、電極反応に寄与するイオンの
濃度を活量として扱っても、オッケーってことになるんですよ。

あ、それから、カチオンが増えるとか、アニオンが増えるとか、ある
一部の局面だけで考えないで、全体的に見通してくださいね。ア
ノードでは、酸化反応が進行するので、瞬間的にはプラスの電荷
量が増え、カソードでは還元反応が進行するので、瞬間的には負
の電荷量が増えます。これが、上に述べたように、電解液中をイオ
ンが移動して電気が流れ、電解液の電気的中性が保たれるんで
す。それに、KMnO4ってカチオンが増えますか?MnO4 - って強
力な酸化剤ですけど、酸化剤ってのは自分が還元して、相手を酸
化するってことですよ。硫酸酸性溶液中でのMnO4 - の還元反応
って、

MnO4 -  +  8H+  +  5e → Mn2+ + 4H2O

だから、電解液中の正の電荷量は確実に減ってますよ。

----- quote -----
また、やはり食塩水などでもほぼ同じ電位差が表れるので
すが、輸率を考えると、KClの方が良いのでしょうか?
----- unquote -----

どのような実験系を作成されているかがわからないのです
が、一般的にはKClを使うほうが良いですね。測定している
起電力の大きさに対して、液間電位のほうが遥かに小さけ
れば、見かけ上の測定電位はほとんど同じになるでしょう。
ちなみに、NaCl | KCl 溶液間の液間電位は、両塩の濃度
が同じ場合で 4.36 mVになります。ヘンダーソンの式から
の計算値です。
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