語釈1.
2.16族元素(酸素と硫黄族、硫黄族はカルコゲンとも呼ばれる)(無機化学序説p.60~65、およびテキストにない内容を含む)
*テキスト第5章、5.1~5.3については各自自習のこと。5.4は「生物無機化学(尾形先生)」で詳説。5.5以降は本講義の他のところで適宜説明。
2-1 単体の構造と性質
○ 酸素: O2およびO3(オゾン)
硫黄: S8 (「斜方硫黄Sα」と「単斜硫黄Sβ」などがある。S8分子の集合状態(結晶構造)が違う。)
ゴム状硫黄 … S8分子の結合が切れて、S原子が直鎖状に結合。
室温では斜方硫黄(Sα)が最も安定。ゴム状硫黄は準安定。
【重要用語】同じ元素同士が結合して長く連なることを「カートネーション(catenation)」という。
セレン: 安定なものは直鎖状に連なったもの。俗称「金属セレン」と呼ばれるが本当の金属ではない。
Se8(S8と同じ構造)は準安定。(硫黄とは安定な構造が異なる)
テルル: 「金属セレン」と同じ構造。
○ 構造の違いの原因 … 2原子分子→8原子分子→直鎖状分子と構造が変わるのは何故か?
<問>酸素がカートネーションしない(たとえばO8分子を作らない)理由を考察せよ。また硫黄がS2の
ような2原子分子を作らない理由を考察せよ。
(奈良女子大院理1997)
○ 周期表のタテの関係:金属的性質の顕著化
セレン: 光があたったときだけ電気を通す
テルル: 常に電気を通す
*いずれも「半導体」(「無機固体化学(鵜沼)」で詳説)
○ 生体との関係
硫黄:成人の体内に0.2重量%。→メチオニン、システインなどの含硫黄アミノ酸の構成成分
セレン: グルタチオンペルオキシダーゼ(細胞膜保護の酵素)の構成成分。一日必要摂取量19μg摂取。
過剰摂取は視力障害、肝臓壊死などの中毒症状。
2-2 水素との化合物(H2X)
○ 沸点の比較 … 高校で水素結合の観点から学習済み。
○ 水溶液の酸性: H2Te > H2Se > H2S > H2O … ハロゲン化水素と同じ理由。
○ 還元力の強さ(酸化力の弱さ): H2Te > H2Se > H2S > H2O … 酸化力と酸の強さとは別である。
H2X → X + H2になりやすさの順と考えてよい。下の元素ほど電気陰性度が低くなり、電子をほしがら
なくなる。(下の元素ほど陰性でなくなる。還元すれば金属的になる。)
<問> 硫化水素が還元剤として作用する例を高校で学習している。その例を記せ。
○ 過酸化水素(H2O2)  酸化剤としては H2O2  + 2e- + 2H+ → 2H2O 多くの場合酸化剤として振舞う
 還元剤としては H2O2 → O2 + 2H+ + 2e-
<問> 過酸化水素が還元剤として振舞う例を高校で学習している。その例を記せ。
<問> 過酸化水素の反応しやすさは、いずれも HO-OH結合の切れやすさと関係している。
この結合が何故切れやすいかという理由は、フッ素(F2)の結合の切れやすさと同様である。
その理由を述べよ。
2-3 ハロゲン化物
○ O:OF2のみ。
 ○ S:SF6とSF4    Sの基底状態
Sの励起状態
Sのより高い励起状態
<問> SF4は(正三角形の)1隅を1個の孤立電子対が占めるsp3d混成軌道の形を、またSF6は
sp3d2混成軌道の形をそれぞれ反映した分子構造をもつ。それぞれの構造を推定せよ。
【不活性電子対効果】なぜSの酸化数が+4だったり+6だったりするのだろうか?
SF6: 混成軌道を作るためのエネルギーをたくさん投資すれば、多くのS-F結合を作って安定になれる!
SF4: 無理して混成軌道を作るより、数少ないが強い結合を作ったほうがいい!
… どちらの言い分も理に叶っている。ただし、下の周期の元素ほど、できる結合が弱くなるので、少ない投
資で数少ない結合を作る傾向が増す。
<問> SF4やSF6はあっても、SH4やSH6はない。その理由については講義でも触れておらず、テキストに
も書かれていないが、自分なりに理由を考察せよ。まじめに考えること。
2-4 酸化物とオキソ酸
○ 硫黄のオキソ酸はp.64図7.4のように数多くあるが、p.64下段の点電子式が描かれた5種類と亜硫酸イ
オンについては覚えること。
○ 硫黄の酸化物の構造
SO2:
O原子とπ結合を作る(混成に参加せず)。
1隅に孤立電子対をもつsp2混成。
SO3:
sp2混成 π結合(混成に参加せず)
SO32-
sp3混成(1隅に孤立電子対)。 酸素とπ結合(混成に参加せず)
SO42-
sp3混成 酸素とπ結合(混成に不参加)
<問> SO32-とSO42-イオンの構造を推定せよ。
<問>硫酸分子中のS-O結合には153.5pmのものと142.6pmのものとがある。その理由を説明せよ。
○ オキソ酸の酸化還元反応
硫酸イオンには酸化力があるが、反応性はあまり激しくない。
「ペルオキソ」とついたものは酸化力が強く、反応性が高い。亜硫酸イオンやチオ硫酸イオンは還元力があ
る。いずれも、自分自身は硫酸イオンに変化する。
【分子の形に関する2,3の補足】
① H2OはOのsp3混成軌道の反映。H2S以下はカルコゲンのp軌道(直交)のみを利用。
H-O-H角:104.5°。H-S-H角:92°。H-Se-H角:91°。
② VSEPR理論(基本無機化学p.62):「孤立電子対(非共有電子対)同士の反発 > 孤立電子対と結合電子対の
反発 > 結合電子対同士の反発」 これらの反発がもっとも少なくなるような形をとる。またはこれらの反発によ
り、分子の形はゆがむ。前回のClF3の分子構造はVSEPR理論から説明される。基本無機化学p.62~65を各
自自習のこと。
③ 結合を作る原子の軌道は、互いにエネルギー的に近くないといけない。例えば、Oの2p軌道はSの3d軌道とエネルギーが近いのでπ結合を作れるが、Seの4d軌道とはπ結合を作れない。そのため、SeO2とSO2とは
分子の形が異なる。
宿題
1.授業範囲に出てきた、<問>にすべて答えよ。
2.H2O中のHはOのsp3混成軌道と結合しており、2組の孤立電子対と2個のHが4面体の頂点に位置するよう
な構造をとっている。一方、H2SではHはSの2本の(混成していない)p軌道と結合しているとみなせる。このこと
に基づいて、H2Oは強い水素結合を作るがH2S(およびH2Se、H2Te)はそうではない原因を説明せよ。
3.高校では「同じ族の元素は化学的に似た振舞いをする」と習ったはずである。それは一面正しいが、同じ族でも上
の周期の元素と下の周期の元素とでは性質の違いがある(その傾向は17→…13族となるにつれて顕著になる)。
16族元素について、今日の講義で話題にしたいろいろな性質のうちのひとつを取り上げ、周期表の上と下の元素
でその性質がどのように変化していくか、またその原因は何か、A4用紙の3分の1ページ程度で論ぜよ。ただし各
自、自分なりに考えること。他人と同じような内容のレポートはみな減点する。
4.(復習と予習)リンの工業的合成法とその過程の化学反応式を記せ。得られるリン(黄リン)は反応性に富み、自
然発火しやすいが、同素体である赤リンはそうではない。両者の反応性が違う原因を各自考察せよ。【ヒントと注
釈】同素体の構造(結合角)から考えよ。ちなみに、現在は多くの資料には黄リンは白リン、赤リンは紫リンと表記されている。同素体には、もうひとつ黒リンがある。
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