語釈1.
語釈2.
1.原子の構造と電子配置(基本無機化学p.10~p.17)
<この項目のポイント>
① 原子と元素の違い、原子の構造と核子、原子量と質量数の違いについて認識する。
② 電子の軌道の名称と電子配置の三大ルールについて覚える。
③ 量子数について理解する。
1-1 原子と元素
原子: 原子核と電子からなる粒子
元素: ①原子の種類、 ②同じ種類の原子のみからできている物質(「単体」と同義)。
<確認> 次の空欄に「原子」または「元素」の言葉を正しく入れよ。
「ベンゼンは12個の ① からできている。また、2種類の ② を含んでいる。」
「炭素の ③ 記号はCである。」
原子の大きさ: 原子核からもっとも遠い軌道に入っている電子の位置で決まる。
元素によって異なるが、おおむね10-10m(100pm)のオーダー。
原子核の大きさ: 元素によって異なるが、おおむね10-15m(1fm)のオーダー。
<確認> 黒板に原子核を直径10cmの円で描いたとき、原子核からもっとも遠い軌道はおよそどれくらいの直
径の円で描くことになるか。
1-2 原子の構造
原子 … 原子核 + 電子 電子は素電荷「e」の負電荷をもつ。便宜上「-1」とも表わす。
素電荷: 約1.602×10-19 [C]
電子の静止質量: 約9.11×10-31kg (「静止質量」という意味は今は気にしなくてよい)
原子核 … 陽子(p) + 中性子(n) これらを総称して「核子」という。
陽子は素電荷「e」の正電荷を持つ。便宜上「+1」とも表わす。
陽子の静止質量: 1.6726485×10-27kg 中性子の静止質量: 1.6749543×10-27kg
核子は電子の約1840倍の質量を持つ。
○ 原子番号: 原子核の中の陽子の数。 中性原子では、陽子と電子の数は等しい。
○ 質量数: 原子核中の核子の総数 … 当然、かならず自然数になる。
☆ 原子量: 質量数12の炭素原子の質量を「12」としたときの、原子の相対質量。原子量には電子の重さも
入っている。
【注意: 原子量は基本的には自然数にはならない】
原因1: 同位体の存在
原子番号が同じでも、質量数の異なる元素(同位体)が存在する場合がある。
例) 炭素には12Cと13Cの安定同位体が存在する。それぞれの存在比はそれぞれ約
99%、1%である。12C、13Cの原子量を12.00、13.00としたとき、炭素の原子量(平均原子
量)を求めよ。
原因2: 質量欠損の影響(高校の物理Ⅱで学習)
安定同位体が存在しなくても、原子量は自然数とはならない。リン(P)は31Pしか存在しない
が、その原子量は30.97である。
1)陽子や中性子の質量は、それらが含まれる原子の種類によってわずかに減少する。
質量の減少はエネルギーに変換され(Einsteinの式)、核子同士を結合するために使わ
れる。
… 高校で物理Ⅱを学ばなかった学生は、その詳細をあえて知る必要はないが、少なくと
も「原子量は、厳密には質量数とは異なる」と認識すること。
1-3 電子の軌道と量子数
○ 高校では、原子中の電子はK, L, M…殻に入ると学習した。今後は「殻」の概念だけでは不十分であり、
「軌道」の概念を理解する必要がある。
○ 1本の軌道には最大2個まで電子が入ることができる。
☆ 主量子数
K殻に「1」、L殻に「2」、M殻に「3」…という数字を割り当てる。この数字は「主量子数」と呼ばれる。
☆ 方位量子数
主量子数nの殻には、n種類の「軌道」がある。この軌道を区別するのに、0からn-1までの「方位量子数
が割り当てられる。方位量子数0, 1, 2, 3, 4…に対して、それぞれs, p, d, f, (以下アルファベット順)の軌
道の名称が与えられている。
例 K殻(n=1)には、方位量子数0の軌道がある。この軌道の名称は「1s」である。
L殻(n=2)には、方位量子数0と1の軌道がある。これらの軌道の名称は、それぞれ2s、2pである。
☆ 磁気量子数
方位量子数lの軌道は、(2l + 1)本あり、それぞれに磁気量子数m(-lからlまで)が割り当てられている。
例 s軌道(l=0)は、(2l + 1 = )1本、p軌道(l = 1)は3本、d軌道(l = 2)は5本、f軌道は7本。
まとめると、
K殻 : 1s軌道(×1) 軌道の総数=1、電子の最大収容数=2
L殻 : 2s軌道(×1)、2p軌道(×3) 軌道の総数=4、電子の最大収容数=8
M殻 : 3s軌道(×1)、3p軌道(×3)、3d軌道(×5) 軌道の総数=9、電子の最大収容数=18
N殻 : 4s軌道(1)、4p軌道(3)、4d軌道(5)、4f軌道(7) 軌道の総数=16、電子の最大収容数=36
☆ スピン量子数
これは軌道の量子数ではなく、電子に与えられるもの。1本の軌道に入る2個の電子に対して、それぞれ
+1/2と-1/2の「スピン量子数」が与えられる。便宜上、「スピンの向き(上または下)」ということもある。
1-4 電子配置 【最重要】
① 構成原理(Aufbau principle) : 電子はエネルギーの低い軌道から順番に入っていく。
1s 2)2s 3)2p 4)3s 5)3p 6)4s 7)3d 8)4p 9)5s 10)4d 11)5p 12)6s 13)
p.15、図1.9の方式を覚えること。
② Pauliの排他原理(Pauli exclusion principle) : 1本の軌道に入ることができるのは、スピン量子数の異な
る2個の電子までである。
③ Hundの規則(Hund's rule) : エネルギーの等しい複数の軌道に(たとえば2p軌道に)、2個以上の電子
が入るときには、電子はできるだけ分かれた軌道にスピンの向きをそろえて入ろうとする。
○ 電子配置の表わし方: いろいろな表わし方があるが、要するにまぎれなくわかればよい。
例 N: 1s2 2s2 2p3 あるいは 1s(2) 2s(2) 2p(3)
C:
1-5 軌道の形
【重要】 電子の軌道は、高校の教科書にあるような「同心円(あるいは同心球)」ではない。図1.7、図1.8のよ
うであることを認識すること。
宿題
1.次の元素の電子配置を書け。書き方は上記の例の後者(軌道を○印などで表す方法)を用いよ。
(a) S (b) Ca (c) As
2.次の量子数をもつ軌道の名称を答え、それぞれ何本あるか記せ。
(a) n=3, l=2 (b) n=4, l=3 (c) n=5, l=4