十年前の電池を作ろうとすれば,三十年前の先人の知恵を借りねばならず,三十年前の先人の知恵を解ろうとすれば,百年年前の先人の知恵を学ばねばならない.儚い権威や名誉にうつつを抜かし,巧言令色に踊らされ,ただ徒に時を過ごそうものなら,殆ど数知れぬまでの未知の世界を知るには程遠いと言わざるを得ない.このところ電池研究の根っことも言うべき,電気の流れ方の議論が等閑になっているように思える.願わくは, 先人の知恵たる基礎に立ち返り上辺だけに留まらない電池研究を中興していただきたいものである.
電池研究は奥が深い.本稿をひとことで言えば,酸化アルミニウムは電気を流し,導電性高分子は電気を流さず,有機溶媒は電気を流す,ということである.但し,それは,あくまでそれなりの議論を尽くした後の話である.電池に限らず何事も良い悪いだけのひとことで済ますのは十分とは言えない. 賢明なる読者諸君には決して結言だけを読むような紋切り型のやり方をしないことを切望する.
初学者の混乱を招かないよう少し議論を付け加える.高校生や中学生には,教科書にあるとおり金属結合は電気を流し,イオン結合や共有結合は電気を流さないと教えれば良い.しかしながら,それがさも百点満点であるとして,その先の議論が無いような誤解を与える試験のやり方は良くない.そのような試験のやり方は,初学者の好奇心を封じ,学問の自由に至る道を閉ざすからである.残念なことにそのような試験で高得点を取った初学者に無責任な拍手喝采を送る無知蒙昧なる輩が,巷に少なからず存在するようだ.そのような輩によって,将来の電池研究を担うべき若者が,邪道に引きずり込まれることが無いよう切に願うばかりである.