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🌡️ 📆 令和6年4月20日

イオン化傾向と実測した電池の起電力があわないのですが?

1.

結果としては、イオン化傾向の差が大きいほど起電力も大きくなったのですが、一部どうしても合わないところが生じました。それはアルミニウムを極板として使用した場合です。銅電極に対し、金属板の種類を変えて起電力を測定すると、イオン化傾向の順がアルミニウムはかなり小さいことになる結果が出てしまいました。なぜでしょう?

                  電池式                  起電力(V)
 (+)Cu|CuSO4aq|MgSO4aq|Mg(-)    1.61
 (+)Cu|CuSO4aq|Al(NO3)3aq|Al(-) 0.15
 (+)Cu|CuSO4aq|ZnSO4aq|Zn(-)    1.07
 (+)Cu|CuSO4aq|FeSO4aq|Fe(-)    0.42
 (-)Cu|CuSO4aq|NiSO4aq|Ni(+)    -0.10
 (+)Cu|CuSO4aq|Pb(NO3)2aq|Pb(-) 0.45
 (-)Cu|CuSO4aq|AgNO3aq|Ag(+)    -0.89

表面に絶縁性の不働態皮膜を作ったりというのも想定できますが、電池系って難しいんですよ。イオン化傾向ってものも、実験で電位を実測して求められたものもありますが、多くは反応に伴う熱エネルギー変化を使って、熱力学的に計算したものがほとんどなんです。

で、何が難しいかと言うと、水溶液系だっていうこと。水
は熱力学的にはpHがゼロのときは0 V~+1.229Vまで
が安定に存在できる領域で、この電位を外れると、熱
力学的には不安定になり、水素発生や酸素発生が起
こります。これは水の電気分解と同じことですね。で、
0 V~+1.229Vっていうのは、pHに依存して、pHが1大
きくなる毎に、そのまま-59mVずつシフトします(25℃の
とき)。ですから、水溶液系での強アルカリの限界値で
あるpH=14では、水の安定領域は-0.826V~+0.403V
になります。実験に使用した溶液のpHがどのくらいだっ
たのかにもよるでしょうけど、アルミの標準電極電位は

Al3+ + 3e → Al, Eo = -1.662V

だから、pHが14のときの水素発生電位-0.826Vよりも、
はるかに低い。ということは、アルミは理論的な電極電
位を示さず、アルミの酸化と水素発生が同じ金属アルミ
上で起こってしまう。だから、アルミが示す電位は、アル
ミのイオン化の反応だけじゃなくて、水素発生反応で電
位がプラス側に引っ張られちゃってるんだな。

しかも、面白いことに、金属の種類によって、この水素発
生反応の起こりやすさが違うんだ。反応速度ってやつね。
亜鉛なんかは、水素発生の活性化エネルギーがものす
ごく高いものだから、かなり電位がマイナス側に大きくて
も、水素発生反応はほとんど起こらない。でも、鉄なんか
は、水素発生の活性化エネルギーが小さいものだから、
簡単に水素発生してしまう。このように、いろんな要素が
絡んで、実験結果が理論的なイオン化傾向に従わない
ことになってしまうんだよ。

ちなみに、亜鉛と同じように水素発生反応が遅いものが
Zn, Cd, Pb, Hgだったりする。全部、電池の負極に利用
されているものだ。逆に、水素発生が起こりやすいもの
が、Pt, Ni, Feだったりする。また、水素発生反応は、

2H+ + 2e → H2, Eo = 0 V

だね。

ところで、もう一つ、酸化皮膜の生成以外の要因がある。
溶液は空気に触れているよね?空気中には酸素がある
じゃない?空気中の酸素は電解液にも溶解していて、
金属の酸化反応の標準電極電位が水の安定領域の中
に入っていたとしても、今度は酸素が金属を酸化させた
りする。

O2 + 4H+ + 4e → 2H2O, Eo = +1.229 V

という反応だ。この場合も金属によって反応速度が大きく
ことなるという問題があって単純じゃないんだけど、Agな
んかは、酸素還元反応に対して触媒能力が良いとされて
いる金属だな。で、この酸素還元反応と金属の酸化反応
の関係が、水素発生反応と金属の酸化反応の関係と同じ
ような問題を起こしかねないんだよ。ただし、水素発生反
応よりも、酸素還元反応のほうが、はるかに反応速度が
遅くて、1/1000以下だね。

Niはどうかというと、ニッケルカドミウム電池だとか、最近
デジタルカメラ用と称して売り出されたニッケルマンガン
電池だとかは、ニッケルを正極に使っている。これはニッ
ケルの酸化物がさらに電極反応するからなんだ。

こんなことが関係して、熱力学的な計算値通りにはいか
ないってのが、現実なんだな。

でも、溶媒系を変えると、また話が変わってくる。たとえ
ば、LiClの溶融塩を高温で融解したものを電解液として
用いると、Li+ + e → Liなんて反応も可能だし、こうして
アルカリ金属の発見と単離が約200年前に実現された
んだよ。だって、LiCl溶融塩の中には水はないから、電
解液の安定領域ってLi+ + e → LiとCl2 + 2e → 2Cl-
になるから、-3.045V~+1.360Vまでが溶媒の分解無し
に使えるんだよ。でも、実験は高温で腐食性も激しいの
で危ないし、大変なんだけどね。



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