🏠
🌡️ 📆 令和6年4月26日

鉛電池の電極での反応について

1.

-----Original Message-----
②問題集で演習をしました。その問題集に負極での変化を
Pb→Pb2++2e-とPb2++SO42-→PbSO4
の式を加えて Pb+SO42- →PbSO4+2e-
と導いていました。そこで私はこの変化は最初の式と2番目
の式がずれて起こるのではなく、最後の式(3番目の式)が
起こるのだと言いました。それに対しての質問です。
③なお、1999年のノーベル賞とは化学教室に掲示してある
「フェムト秒分光法」のことです。
④生徒の質問は放電時に使う電子はSO42-の電子なのか
Pbの電子なのかそれとも両方の場合があるのかという意
味だと思われます。
----- unquote -----

まず、④に関してですが、電子はPb金属のものです。電極
反応は酸化還元反応で、上記反応で酸化数が変化するの
は、Pb(0) → Pb(II) です。しかも、電池の外部回路との間で
電子が移動するのはPb金属内です。電気化学ポテンシャル
を用いたネルンストの式の導出でも、電子は金属内に残ると
して導出されています。

次に③に関してですが、「分光法」ってもので化学反応過程
を追跡できるのは、光によってエネルギーが励起されて反応
が進行するようなものが基本的なものでしょう。もしくは、反応
過程に伴い、光の吸収スペクトルが異なるようなものです。
これらは、基本的には非定常法のもので、エネルギーの緩和
過程を追跡するものですが、電極反応は連続的に起こってい
ますので、緩和過程を見ていることにはならないだろうと思い
ます。

最後に②に関してですが、これはどちらも正しいといえます。
問題にしている時間単位の違いによる意見の平行線ってもの
ですね。電極反応を記述するとき、全反応として表現する場
合がほとんどで、反応の始まりと終わりだけを見れば、それ
で十分なわけです。しかし、反応速度というものを考えた場
合、および反応機構というものを対象にする場合には、話は
違ってきます。たとえば、Pb+SO42- →PbSO4+2e-の
反応を、反応機構はどうなってるんだと問題にするときは、さ
らに細かく分解して考えます。

Pb→Pb2++2e-
Pb2++SO42-→PbSO4

ですね。これはさらに細かく分解できて、

Pb→Pb++e-
Pb+→Pb2++e-
Pb2++SO42-→PbSO4

と分解できます。PbSO4にしても、PbSO4結晶表面に核とし
て析出し、これらの原子が表面を拡散し、キンクやステップと
いった結晶構造の欠陥部分にはまっていって、結晶が成長す
るとか、さらに分解して考えることができます。

この中で、Pb+や結晶表面の核といったものは、全反応が進
行する中間の段階で生成する過渡的なもので、反応中間体と
言われるものです。一般的に反応中間体は不安定で、ほぼ
瞬時に次の反応が進行してしまいます。しかし、極短い時間
の瞬間だけを切り出せば、確かにその中間体は存在している
と言えるでしょう。この状況を素反応を用いた記述では、以下
のように書き、議論していきます。

1.初段の反応が遅い律速段になっている場合
Pb→Pb++e-
Pb+ = Pb2++e-
Pb2++SO42- = PbSO4
この場合は、2段目と3段目の反応速度は、初段の反応速度
よりも極めて早いので、電極表面でのPb+濃度やPb2+濃度
に関して平衡状態にあるのと同じ状態になります。また、Pb2+
は直ぐにSO42-と結合してしまうので、Pb2+が電解液バルク
に移動していく時間的な余裕はなく、電極表面で即座に
PbSO4が析出してしまいます。

2.初段と3段目の反応が同程度に遅い律速段になっている場合
Pb→Pb++e-
Pb+ = Pb2++e-
Pb2++SO42- → PbSO4
この場合には、電極反応の進行とともに、電極表面でのPb2+濃
度が確実に高くなっていき、電解液バルク側に拡散していくでしょ
う。そして、電解液バルク中でPbSO4の沈殿が生成するでしょう。
このような現象が起これば、電解液バルク中で沈殿したPbSO4
は、電極に接触していませんので、逆反応(充電)には寄与しなく
なりますから、電池としてはエネルギーロスになり、使い物になら
なくなります。電子移動反応を激しく行うような場合には、それが
顕著に現れることになるでしょう。実際の鉛蓄電池の場合には、
自動車のセルモータを廻すような、とんでもない反応速度でもちゃ
んと追従しますので、こういう状態にはなっていないんじゃないか
と思います。

3.3段目の反応が遅い律速段になっている場合
Pb = Pb++e-
Pb+ = Pb2++e-
Pb2++SO42- → PbSO4
この場合には、2.の状況がさらに激しくなり、電解液中に大量な
Pb2+が存在することになり、電解液バルク中でPbSO4の沈殿
が生成することになります。こんなものは、電池としては使い物
になりません。

たぶん、フェムト秒の分光法を持ち出した学生は、このような反
応中間体の存在を問題にしているんだろうと思います。しかし、
先生は、上記の視点から、鉛蓄電池は上記の1.のものと言える
ので、Pb+SO42- →PbSO4+2e-と言い切っても良いのだ
ということでしょう。その点の認識の相違に互いに気づいていな
いため、議論が平行線に陥っているものと推察いたします。

まぁ、いろんな人との議論の中では、似たような話はあちこちに
出てきますよね。それが互いの誤解を生み、下手すりゃ民族問
題にまで発展したりする。授業で教鞭をとるときに、いつも難しい
と思うのは、この点なんですよね。お互い、大変でしょうけど、少
しずつでも経験値を積み上げていき、良い授業ができるように日
々精進いたしましょう。この質問受付窓口の目的の一つには、
私自身がこのような視点の違いというものに気づき、知るためと
いうのもあるんですよ。
#🗒️👨‍🏫ノーベル賞#🗒️👨‍🏫電池#🗒️👨‍🏫緩和#🗒️👨‍🏫分光