語釈1.
6.d-ブロック、f-ブロック元素<この項目のポイント>
①元素の各論よりも、遷移元素の電子配置やイオンの価数が典型元素と異なることを認識する。
②遷移元素の錯体の色の原因についてその基本的なしくみを理解する。
6-1. 3d遷移元素(Sc~Zn)の一般的性質 … すべて金属元素なので、遷移金属とも呼ばれる。
○ 電子配置: 規則性と不規則性
1s→2s→2p→3s→3p→4s→ 3d →4p
        Sc    [Ar] 3d(1) 4s(2) Ti    [Ar] 3d(2) 4s(2) V    [Ar] 3d(3) 4s(2)
Cr    [Ar] 3d(5) 4s(1) ☆ Mn   [Ar] 3d(5) 4s(2) Fe   [Ar] 3d(6) 4s(2)
Co    [Ar] 3d(7) 4s(2) Ni    [Ar] 3d(8) 4s(2) Cu   [Ar] 3d(10) 4s(1) ☆
Zn    [Ar] 3d(10) 4s(2) 
          … CrとCuでは、本来3d(4)と3d(9)になると予想されるが、「早く軌道を半分(または全部)満たそう」と
いう傾向がはたらき、不規則な電子配置になる。
*もともと3d軌道と4s軌道のエネルギー差は小さい。
○ 主なイオンの価数 カッコ内は特殊な場合の価数
Sc: 3+、 Ti:(2+)、(3+)、4+、 V:2+、3+、4+、5+、 Cr:(2+)、3+、4+、6+、
Mn: 2+、3+、4+、(7+)、 Fe:2+、3+、 Co:2+、3+、 Ni: 2+、(3+)、 Cu: 1+、2+、 Zn:2+
       … イオン化するときは、まず4s電子から失われる。
【注意】 原子の電子配置を考えるときには、3dよりも4sの方が安定だと考えると良いが、イオン化すると
きには4s電子が先に失われる。 ⇒ 3d遷移元素は、族に関係なく2+の状態をとりやすい。
例) Fe2+:[Ar] 3d(6)、 Fe3+: [Ar] 3d(5)
<問> Cu2+、Cu+イオンの電子配置を推定せよ。
○ イオン半径
1.同じ価数のイオンの半径を比較した場合、原子番号が大きいほど半径は小さくなる傾向がある。
例) Ti2+: 100pm、 V2+: 93pm、 Mn2+: 81pm、 Fe2+: 75pm、 Co2+: 79pm、 Ni2+:70pm
<問> 上の理由は何か?
2.価数の高いイオンほど、半径は小さい … その分電子が少なくなるから、直感的に理解可能。
例) Cr3+: 76pm、 Cr4+: 69pm、  Cr6+: 40pm
○ 遷移元素イオンの錯体と色 … 詳細は無機化学Ⅱ(尾形先生)で学ぶ。
遷移元素イオンは、満ちていない軌道4s、4p、5s、4d … が3d軌道のすぐ上にある(ルイス酸)。
⇒ 孤立電子対をもった分子(ルイス塩基)が、空の軌道を借りて配位する(配位結合)。
*配位結合は、典型元素のような「混成軌道」で考えるよりも、無機化学Ⅱで学ぶ「配位子場理
論」で考えるほうが良い。
右図のような錯イオン(錯体)を考える(図中の「点電荷」
は、配位子の孤立電子対と考える)。
遷移元素イオンには5本のd軌道があり、
(i) x軸とy軸方向に伸びたもの(dx2-y2)
              (ii) z軸方向に伸びたもの(dz2)
(iii) xy平面内で軸間方向に伸びたもの(dxy)
(iv) yz平面内で軸間方向に伸びたもの(dyz)
(v) zx平面内で軸間方向に伸びたもの(dzx) がある。
配位子がx, y, z軸方向に配位結合すると、(i)と(ii)の軌道は孤立電子対に近づくので、そこに入っている
電子は、静電反発を感じて居心地が悪くなる。(別な表現をすると、(i)と(ii)の軌道のエネルギーだけが
高くなる。
⇒ もともと同じエネルギーだった5本のd軌道は、エネルギーの高い2本と低い3本に分かれる。
→「d軌道の分裂」
← egまたはdγ
← t2gまたはdε
(d軌道の分裂の幅(10 Dq)は、配位子の種類によって変化する)
*d軌道の分裂の仕方は、錯体の形(何個の配位子がどのような形で結合しているか)によって異な
るので注意。上の図は正8面体型6配位の場合である。詳細はp.109図10.9参照。
分裂の幅は、可視光のエネルギーに対応することが多く、相当する波長の可視光線を吸収しながら、電子がt2gからegへ移る(遷移する)。このとき、吸収された光の色の「補色」が錯体の色として感じられ
る。
<問> テトラアンミン銅(II)イオンは濃い青紫色を呈している。この錯体は何色に相当するエネルギ
ーの光を吸収していることになるか、無機化学序説p.103の補色関係を示す色相図を参考に
して推定せよ。
○ 電気陰性度、ルイス酸の性質
電気陰性度:Sc→Niまで、原子番号とともにわずかに増加していく。しかしその程度は典型元素における
変化よりもずっと小さい。遷移元素の電気陰性度は「大して変化しない」と見なしても、さほど
不都合はない
ルイス酸の性質:遷移元素はすべて金属なので、陽イオンになる(ルイス酸として振る舞う)。
◎1族元素(Li, Na, K…)と11族元素(Cu, Ag, Au)および
2族元素(Be, Mg, Ca…)と12族元素(Zn, Cd, Hg)の比較:
⇒遷移元素のほうが軟らかい酸。
◎3族と13族、4族と14族、5族と15族元素の比較
⇒遷移元素のほうが硬い酸。
6-2 f-ブロック元素(ランタノイドとアクチノイド)
○ 電子配置(p.135) [Kr] 4d(10) 5s(2)5p(6) = [Xe]。ランタンの直前の、Baは[Xe]6s(2) … 構成原理通り。
その後、4f軌道と5d軌道のエネルギー差が小さいために、ときどき5d軌道に電子が出入りしながら4f
軌道が埋まっていく。
○ 主なイオンの価数
ランタノイドのイオンはすべて3+の状態をとる。(そのほかに2+や4+をとるものもある)
3+の状態の電子配置は、きわめて規則的。
○ アクチノイド元素:すべて放射性元素。名称と元素記号を覚えるだけでよい。
○ ランタノイド(ランタニド)収縮とアクチノイド(アクチニド)収縮
f電子による原子核の電荷の遮蔽は弱いので、原子番号が増すにつれてイオン半径が小さくなっていく。
○ f-ブロック元素の工業的用途
蛍光材料(レーザー)や磁性材料の原料として使われている。f電子の振る舞いの特殊性に起因。
例) Ndレーザー、Nd-Fe-B磁石、Sm-Co磁石、カラーブラウン管の発光体など
宿題
1. <問>を解答せよ。
2. d-ブロック元素が錯体を作るとき、そのd軌道のエネルギーが複数に分かれることを授業で説明した。
d電子を3個以上もつような遷移元素(イオン)が八面体型6配位の錯体を作るとき、分かれたd軌道に電子が
配置される様式には2種類ある。たとえば、Fe3+ (d電子5個)ならば、
の2種類である。
このとき、左側(不対電子が多いほう)を「高スピン」といい、右側を「低スピン」という。どちらの電子配置をとるか
は、錯体の配位子の種類に依存する(詳細は無機化学Ⅱ)。
さて、不対電子をもつ分子は常磁性をもつことを、酸素分子の分子軌道で学んだように、不対電子の数は分子の
磁気的性質に影響する。そこで、下記のイオンが高スピンおよび低スピンの両方の電子配置を取るとき、それぞれ
の不対電子の数を答えよ。ちなみに上の例では、不対電子はそれぞれ5個(高スピン)、1個(低スピン)である。
(i) Mn2+ (ii) Cu2+ (iii) Cr2+ (iv) Co2+ (v) Zn2+    (vi)  Ni2+
3. Zn2+を含む酸性水溶液に、アンモニアを加えていくときに起こる化学反応を反応式で書いて、現象を説明せよ
(高校で学習済みである)。
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