語釈1.
身の回りの酸と塩基を、身の回りの物質を使って判定する。洗剤、果汁、なんでもあり。ただし、「変色させよう」発表されたネタは使わないこと。意表をついた物質を、意表をついた方法で判定した人に得点加算。【酸;塩基;イオン;電解質;電離平衡】1)
語釈2.
4.酸と塩基(基本無機化学p.117~p.123。4.1.4は授業範囲から除く)
<この項目のポイント>
① アレニウス、ブレンステッド、ルイスの酸・塩基の定義。特にルイスの定義は重要。
② ルイス酸・塩基の硬さ、柔らかさ(HSAB)
③ ブレンステッドの酸・塩基の強弱に影響する因子
4-1.酸・塩基の定義(最初の二つは高校で履修済み)
・アレニウス: 水中でH+を放出するものが酸、OH-を放出するものが塩基
例) CH3COOH + NaOH → CH3COONa + H2O
(酸) (塩基) (塩) 水
・ブレンステッド(・ロウリー): (水中に限らず)H+を放出するものが酸、H+を受け取るものが塩基
*「共役」酸、「共役」塩基の概念がある。
*酸・塩基の強さを、Ka、Kb(電離定数)で定量的に表すことができる。
例) CH3COOH + NaOH ⇔ CH3COO- + Na+ + H2O
(酸) (塩基) (共役塩基) (共役酸)
H2SO4 + NaCl ⇔ HCl + NaHSO4 … 濃硫酸中での反応。HClは気体。
(酸) (塩基) (酸) (塩基)
CH3COOH + H2O ⇔ CH3COO- + H3O+
(1-α) (α)
α:電離度。酸の濃度(c)によって変わる。
Ka = cα2/(1-α):電離定数(酸解離定数)。物質(酸)に固有の値。温度一定ならcに依存せず一定。
ブレンステッド酸・塩基のより詳しい定量的な扱いは、無機分析化学で学ぶ。
・ルイス:(最も包括的な概念) 電子対に引き寄せられるものが酸、電子対をもっているものが塩基。
1)従って、酸・塩基を判別するには、イオンや分子の電子配置を知っておく必要がある。
* ブレンステッド酸・塩基と異なり、その強さを定量的に表すことはできない。
* 少なくとも、陽イオンは常にルイス酸、陰イオンは常にルイス塩基
例) CH3COOH + NaOH → CH3COONa + H2O
(酸) (塩基)
理由: H+ :OH-
1s軌道が空のプロトンが、OH-の孤立電子対(結合に使われていない電子対)に
引き寄せられるから。
例) Cu2+ + 4NH3 → [Cu(NH3)4]2+ … Cu2+の空の軌道に:NH3の電子対が配位する。
(酸) (塩基) 錯体の生成反応は常にルイスの酸・塩基反応である。
例) ベンゼンのクロル化(有機化学で学ぶ) …FeCl3はルイス酸触媒である、という。
C6H6 + Cl2 + FeCl3 → C6H5Cl + HCl + FeCl3
この過程では、FeCl3はCl2に対してルイス酸として働き、FeCl4-とCl+(クロロニウムイオン)ができる。
Cl+がベンゼンを攻撃してクロル化が起こる。このような途中の過程も酸・塩基反応とみなせる。
「概念の広さの関係」 アレニウスの定義<ブレンステッドの定義<ルイスの定義
<練習問題1> 次の反応式の中のルイスの酸・塩基を示せ。
(a) NH3(気体) + HCl(気体) ⇔ NH4Cl(固体)
(b) Al3+ + 6H2O → [Al(H2O)6]3+
(c) BF3 + NH3 → F3B-NH3
(d) Ag+ + 2NH3 → [Ag(NH3)2]+
4-2 ルイス酸の硬さ、軟らかさ(Hard and Soft Acid and Bases, HSAB)
*この概念は、無機分析化学の領域では特に重要。
例) Ca2+イオンを含む水溶液(A)と、Ag+イオンを含む水溶液(B)がある。次の操作をしたときに沈殿が
生じるのはそれぞれどちらの水溶液か(①の操作の結果は高校で学習済み)。
① H2S気体を通じる ② フッ化アンモニウムを加える(F-イオンを供給)
*Ag+イオン(ルイス酸)はS2-イオン(ルイス塩基)と結びつきやすい(Ca2+イオンはそうではない)
Ca2+イオンはF-イオンと結びつきやすい(Ag+イオンはそうではない)
2)ルイス酸・塩基には「相性」がある。
☆硬い酸、硬い塩基:電子雲が変形(分極)しにくい。イオン結合性の高い結合を作る。
☆軟らかい酸、軟らかい塩基:電子雲が変形(分極)しやすい。共有結合性の高い結合を作る。
3)p.120、表4.1参照。ただし、この表を暗記する必要はない。
<練習問題2> 次の反応は左右どちらの方向に進みやすいだろうか。p.120、表4.1を参考にして予測せよ。
(a) HgF2 + BeI2 ⇔ BeF2 + HgI2
(b) ZnS + CaCl2 ⇔ ZnCl2 + CaS
<練習問題3> 次の操作をしたときに最初に沈殿してくる化合物を予測せよ。
(a) Ag+イオンとFe3+イオンを含む水溶液にヨウ化ナトリウム(NaI)水溶液を加える。
(b) Ca2+イオンとCu2+イオンを含む水溶液に硫化カリウム(K2S)水溶液を加える。
(c) Zn2+イオンとFe3+イオンを含む水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加える。
4-3 ブレンステッド酸・塩基の強弱
p.121~123、4.1.3は各自読んで学習すること。
【酸・塩基の強弱を支配する要因】 … プロトンとの結合が弱いほど、強い酸。
<要因1> 多段解離(高校では「電離」という)するような酸の場合、解離が進むほど弱い酸になる。
例) H3PO4の「逐次酸解離定数」を参照。
→ 酸解離が進むほど、陰イオンの負電荷が増えて、プロトン(H+)が離れにくくなる。
(用語補足説明) 酸素酸または「オキソ酸」(一部の高校教科書には記述あり)
→ 分子内に酸素を含むような酸(硫酸やリン酸など)。
<要因2> 互いに電荷の等しい酸素酸では、プロトンが結合していない酸素の多い酸ほど強い。
例) HClO4 (ClO3(OH)) > H2SO4 (SO2(OH)2) > H3PO4 (PO(OH)3 > H4SiO4 (Si(OH)4
→ 負電荷を分子全体で担いやすい(共鳴構造をとりやすい)陰イオンができる酸は、強い。
<要因3または要因2の別表現> サイズの大きな陰イオンができる酸ほど強い。
フッ化水素(弱酸) ヨウ化水素(強酸)
F-:119pm I-:206pm
プロトンを強くひきつけるのは(したがって弱い酸を作るのは)、F-とI-のどちらか?
要因2も同様の説明が可能で、負電荷を分子全体で担うということは、サイズの大きな陰イオンを作る
ということと同じ意味になる。
【注意】酸化数が変化する反応はすべて、酸塩基反応からは除外する。
例) Zn + 2HCl → ZnCl2 + H2↑
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宿題
1.練習問題1~3を解答せよ。
2.高校で「硫化水素(H2S)と反応して硫化物が沈殿する」と教わった金属イオンをすべて列記せよ。これらは硬い酸かそれとも軟らかい酸か。
3.Paulingは、化合物ABの結合のイオン結合性の尺度として という式を考え出した。ここでχA、χBはそれぞれ元素A、Bの電気陰性度である。表4.1から硬い酸塩基の化合物(例えばNaF)と軟らかい酸塩基の化合物(例えばCdS)を取り上げ、表1.6のポーリングの電気陰性度の値を用いてそれらのイオン結合性の度合いを比較せよ。
*次回はp.124~129(酸化と還元)を講義します。4.2.3以降は3年生「電気化学」で学習。次回の範囲に関
連して、以下の問題も宿題とします。
4-1 高校で学んだ「金属のイオン化傾向」を列記せよ。
4-2 p.127、表4.3の標準酸化還元電位の表から、上に列記した金属の酸化還元対を拾いだし、イオン化傾向と標準酸化還元電位の順序を比較せよ。
4-3 金属カルシウムは金属鉄よりも容易に酸化されやすい。それでは、金属鉄(Fe)が鉄(II)イオン(Fe2+)
に酸化されるのと、鉄(II)イオンが鉄(III)イオン(Fe3+)の酸化されるのとでは、どちらがより容易か。それは「金属のイオン化傾向」から判断できるだろうか?