Fig. 5に活物質としてコバルト酸リチウムとマンガン酸リチウム, 集電体に金とアルミニウムを使った電極の硝酸リチウム水溶液中でのサイクリックボルタモグラムを示す. 活物質にコバルト酸リチウムを使った場合,集電体が表面に酸化皮膜を持つアルミニウムでも,それなりに電流を流した.酸化皮膜,すなわちイオン結合をしている酸化アルミニウムに電子伝導が起きていることが示唆される.活物質にマンガン酸リチウムを使った場合,電流はほとんど観察されなかった.酸化皮膜を作らない金を集電体に使った場合には電流が流れていることから,酸化アルミニウムに接触している活物質によって,酸化アルミニウムによる接触抵抗が大きく変化していることがわかる. なぜ集電体をアルミニウムにすると活物質の種類の影響をこうも大きく受けるのであろうか?
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Fig. 5 Voltammograms of each cells using combination of current collectors and active materials.
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Fig. 6 Mechanism of resistivity change of aluminum oxide by active materials.
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酸化アルミニウムは電気を流す.もちろん,無条件ではない.リチウムオン二次電池の正極集電体に使われるアルミニウムは,その表面が常に酸化皮膜で覆われている.ここで言う酸化アルミニウムとはその酸化皮膜である.その酸化皮膜の厚みはせいぜい数nmと極めて薄い.だからたとえ酸化アルミニウムが数GΩmのような大きな抵抗率だったとしても,その接触抵抗は数Ωm2となる. 酸化アルミニウムは金属ではない. イオン結合結晶である.だから自由電子はいない. しかしアルミニウムの表面に存在する酸化アルミニウムは,イオン結合結晶と言っても酸素欠損型の不定比化合物半導体であると考えられる.熱励起による電子が酸素欠損の電荷補償をしていて,これがキャリアとなってわずかな電子伝導が起きると考えられる.
Fig. 6に活物質の種類によって接触抵抗が変化するメカニズムを示す.不定比化合物半導体である酸化アルミニウムにマンガン酸リチウムのような表面極性の大きな化合物が付着すると,その表面電荷によってその近傍に空乏層(空間電荷層)が形成される.そうすると酸化アルミニウムの表面付近のキャリア濃度が減少する.仮に数倍程度キャリア濃度が変化したとしても,同じ電流が流れていれば,数倍の電圧降下になる.数倍の電圧降下は電池が生きるか死ぬかと言った違いである.
リチウムイオン二次電池の正極集電体の表面に存在している酸化アルミニウムは電気を流している.そしてそれは電池の性能を左右する大きな要因のひとつである.リチウムイオン二次電池の熱損失をわずかでも抑え,より高出力化するためには,酸化アルミニウムの電気伝導について議論することはとても重要なことと言えよう.