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有機電解液中におけるアルミニウム不働態皮膜の生成
リチウムイオン二次電池の正極集電体
の単元です。
小単元
概要
・不働態皮膜の生成の速度論
不働態皮膜の生成のしくみ
電池における不働態皮膜の生成の役割
・不働態皮膜のキャラクタリゼーション
皮膜の組成
皮膜の厚み
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リチウム二次電池1)では電解液に有機電解液が使われるため、アルミニウムと反応するのは溶質でありフッ化物を生成する。反応は高電場機構によって進行し、緻密なバリア型の不動態皮膜を生成する。このバリア皮膜は絶縁性で電解液を電気分解から保護するが、後述のように電池活物質への伝導経路も確保するため事情は複雑である。
アルミニウムはアジピン酸アンモニウムなどの水溶液中でアノード酸化したとき緻密なバリア型の不働態皮膜を生成するバルブメタルとして知られている3)。一般に水溶液中におけるアルミニウムのアノード酸化は次のような反応で進行し、Al2O3の酸化皮膜を生成する。このときアルミニウムは溶媒の水を酸化物イオンの供給源としている。
2Al + 3H2O → Al2O3 + 6H+ +6e- …(1)
このようなアルミニウムをはじめとするバルブメタルのアノード酸化に関する研究は古くからあり、それらの要点は不働態皮膜中を横切るイオン電流密度jと皮膜に印加される高電場eとが非線形な関係にあるということで、それに類した理論は高電場機構と呼ばれている。そのもっとも典型的な関係として(2)式を示したのがA. GunterschulzeとH. Betzであり、1934年のことである4)。
…(2)
リチウムイオン二次電池に使われる有機電解液の溶媒は水ではないから、水溶液とちがって酸化物を形成するための酸化物イオンの供給源がない。有機電解液中で生成した不働態皮膜を分析したところフッ素を多く含んでいた。また表 2に示すように有機電解液中でのアルミニウムの不働態化は水溶液中同様に高電場機構に従っていたが、それらの速度論的パラメータは水溶液中の値とは大きく異なっていた。これらのことを考慮すると、アルミニウムはLiBF4、LiPF6、(C2H5)4NBF4などのフッ素系アニオンからなる電解質を含む有機電解中で、次のような反応により不働態化が進行し耐食性が与えられると考えられる。
Al + 3BF4- → AlF3 +3BF3 + 3e- …(3)
Al + 3PF6- → AlF3 +3PF5 + 3e- …(4)