修士論文の内容案その1

目次

・いままで2V級水系リチウムイオン電池を作成し、OCVの時間変化、CV測定など行ってきた。充電時のOCVは亜鉛に対して約2.0Vを確認できたが、それが起電力である保証はない。開回路電圧(OCV)は化学反応が起きているかにかかわらず、単純に二極間の電位差である。起電力とはネルンストの式から酸化体の化学ポテンシャル(J)と還元体の化学ポテンシャル(J)の差によって決まる。その差が大きいほど起電力は大きくなる。つまり、それぞれの電極で起きている反応が定義できていなければ、二極間の電位差を測ってもそれはOCVとなる。本研究で作成したセルは、正極に正極活物質(コバルト酸リチウムまたはニッケルマンガンコバルト酸リチウム)、負極に亜鉛、電解液に硝酸リチウムを使用した。 正極活物質の反応

 LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2 ? Li+ + e- + Ni1/3Mn1/3Co1/3O2 Eo = ?

は想定できるが、このセルでは亜鉛の反応が十分にわかっていない。そこで、充電後電位差が2.0Vになったとき、負極ではどのような反応が起こっているか検討していきたい。具体的な案として一つは、以前と同様正極に活物質としてニッケルマンガンコバルト酸リチウムを使用したリチウムイオン二次電池用電極を6M硝酸リチウム水溶液の中に入れる。次に負極に亜鉛電極を使用し、6M 硝酸亜鉛水溶液の中に入れる。それぞれ別々のビーカーで作成し、その二つを塩橋で接続する。これを電解セルとして、アノード側に掃引速度0.5mv/sで電位掃引し、電位差が2.0Vになるか確認してみる。このときの電位差はOCVと異種溶液を使用しているため生ずる液間電位差の和であると考える。以下に作成する予定の電解セルの模式図を示す(かも)。 (液間電位差を考えるとき、ヘンダーソンの式を使うといいらしい・・・・) 以下 電気化学 社団法人電気学会 p52 (昭和47年) より抜粋 イオンには特有の移動度があって、カチオンとアニオンとは濃度こう配の下で同一方向に拡散してもその速度が異なるためにその途中では電位差が生ずる。これを拡散電位差という。電解質MAの水溶液について、希薄側を添字1、濃厚側を添字1で表し、濃度をc、移動度をuで表すとき、

U1=cM+1uM+1 , U2=cM+2uM+2 , V1=cA-1uA-1,   V2=cA-2uA-2 とし、拡散電位差は次式で表される。これをヘンダーソンの式という。

E=RT/F ((U1-V2)-(U2-V2))/((U1+V1)-(U2+V2)) log_e??(U1+V1)/(U2+V2)?

この実験を行うにあたり、ぜひ!!!!新四年生にもご協力をお願いしたい!!!!

・なぜ水溶液系にもかかわらず水系リチウムイオン電池が2.0Vもの電位差を生じたか不思議である。コバルト酸リチウムを使用してもニッケルマンガンコバルト酸リチウムを使用しても2.0Vでた。正極集電体にAl,Tiを使用しても2.0Vでた。活物質とバインダーが接触したときの電池反応への影響を調べたかったので、正極集電体に金線(φ=0.3mm)を使用した。この金線にニッケルマンガンコバルト酸リチウム粉末をハンマーで打ち込んで各バインダー溶液(ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンラバー分散液、ブチラール樹脂)をディップ塗工し乾燥させこれを正極とした。電解液に6M 硝酸リチウム水溶液、対極にSUS304、参照電極に銀-塩化銀電極を使用しCV測定したらPVDFを使用したときだけ活物質の反応と考えられる電流が確認できた。これはどういうことだろうか。まず接着の仕方に違いがあるのではないかと考えた。このとき(ハワイ学会にて発表したとき)は集電体が露出している部分から電気分解が起こり、発生した泡が活物質を集電体から剥離させていると考えていた。その点から、スチレンブタジエンラバー分散液は集電体に点接着し、ポリフッ化ビニリデンは面接着していて集電体を被覆している面積が大きいがために水の電気分解が抑制されたと考えた。しかし、金線のみのボルタモグラムと金線に活物質を打ち込んだ電極を使用したときのボルタモグラムを比較すると、活物質を打ち込んだ電極の方が金線のみの電極よりも低い電位で電気分解が起きていることがわかった。このことから、水の電気分解は集電体表面ではなく活物質表面で起きている可能性が出てきた。(この辺は赤間ちゃんが結構議論を重ねているみたいなので、ここに関して頼っていきたいなぁ)

 また、この電解セルも対極で起きている反応がわかっていないので、対極でどんな反応が起こっているか調べたい。

以前、重畳交流サイクリックボルタンメトリーを試みようとしていた。しかし、まだまともに行えておらず、そもそも何が知りたいがためにこの測定法をとったのかがわかっていない。よってこの件に関しては、なぜこの実験をする必要があるのかある程度明確にした状態で行っていきたい。(せっかく実験装置を組んだので、ムダにするのはいやだなぁ。。)

普段メンディーが行っている、導電性高分子を使用したアルミ電解コンデンサを作成しCV測定、交流インピーダンス法による周波数特性の測定を行った。このとき、導電性高分子(SY-001,ip150)にバインダー(SBR,PTFE,アクリル系,PVDF)を一滴加えて撹拌し、スラリーとしたものを使用した。結果はSY-001を使用したものは、CV測定時そこまで差はみられなかった(定性的で申し訳ない)。しかしip150はSBR,PVDF使用時には電流がかなり暴れているものの、アクリル系使用時にはガタガタとした電流は流れず箱型に近いボルタモグラムを示した。そしてPTFE使用時にはSY-001に近いボルタモグラムを示し、容量が見えた。どうやら導電性高分子は集電体との接触状態を向上(よくくっついている)するとコンデンサとしての性能があがるようだ。電池もコンデンサも接触状態が大事だということはわかった。でもイマイチ電池との関連性が見えていない。またこの実験の再現を増子君にやってもらっている。

自分が四年生のとき、小室が水系リチウムイオン電池の電解液の研究を行っていた。 普段水系電池を作る際6Mの硝酸リチウム水溶液を使用していたが、彼は電解液を混ぜて電池を作成していた。すると、3Mの硫酸リチウム水溶液と1Mの硝酸リチウム水溶液を体積比1:1で混合したとき単一の電解液使用時には見られなかったサイクル特性が現れた。どうやらこの電池にも最適な電解液の設計があるようだ。小室は濃硫酸と濃硝酸を体積比3:1で混合すると混酸という状態になり、混酸中にはニトロニウムイオンが生成し、この比がサイクル特性の現れた電解液の硫酸リチウム水溶液と硝酸リチウム水溶液の濃度比に一致することに気づいた。本当に上記の現象が起きているかは今のところ不明である。したがって、水系リチウムイオン電池に最適な電解液の検討を行っていきたい。 →案1 硝酸リチウム水溶液、硫酸リチウム水溶液、硝酸リチウム水溶液+硫酸リチウム水溶液のIR測定を行う。