MC10 大学ネットワークインフラの技術活用推進によるデジタルアストレイの解消

仁科・立花・伊藤研究室 小林 卓巨

デジタル化が進む中で格差と過剰が起きている。本論文では大学ネットワークインフラを用いてデジタル化技術の有効かどうかを見極め、デジタル化の最適化(デジタルアストレイの解消)を試みた。

 2011年3月11日の東日本大震災で、山形大学工学部内にある旧米沢高等工業学校本館(以下本館)も少なからず被害を受け、その補修ならび耐震補強工事が行われる運びとなった。その際、校舎の内部に保存されている展示品の扱いが、大学の運営会議において取り上げられ、それら展示品を全て廃棄するという意見があった。法人化に伴い独立採算を求められている大学としては、維持管理にかかる費用の負担をできるだけ軽減したかったと思われる。維持管理には設備の運用にかかる光熱費に加えて情報の管理にかかる人件費がある。本館内に保存されている3000点を超える展示品は、その台帳を作成するだけでも時間と手間がかかる。そこで山形大学工学部内にあるデータベースサーバを活用することで、情報基盤センターのネットワークやデータベースサーバなどの既存のインフラを活用し、普段の生活にスマートフォンを使う山形大学の学生の協力を得ることで文化財や展示品の管理にかかるコストを低減し、文化財保護のための行動を短期間で行える可能性を見出し試みた。

実験方法

 図 1にシステム全体の概要を示した。従来において、複数人が同時にデータベースにデータを入力する際は、パソコンを人数分用意し、パソコン台数分のライセンスソフトウェアが必要であった1) 。本論文では、スマートフォンや自分のPCでもデータベースの編集や写真登録を試みた。学術情報基盤センター内にあるデータベースサーバの中にテーブルを2つ作成し、1つは展示品の台帳作成のために、もう1つは写真を登録するためのものを作成した。Monacaを用いてスマートフォンで撮影した写真を自動でデータベースサーバに送信するアプリケーションを開発した。Microsoft Accessを用いてID付の調査記入用紙を作成した。これらを用いて本館内の展示品の調査を行った。


1 システム全体の概要

 本館内では調査記入用紙を用いて、展示品にIDを付けた。調査には学生ボランティア総勢60名以上手伝っていただいた。Webページ上にデータベースに書き込めるシステムを作成した。各自学生ボランティアには調査記入用紙を元に作成したWebページからデータを入力してもらった。

 データベース上に入力してもらったデータを元にMicrosoft Accessのレポート機能を用いて台帳の作成を行った。

 控えの調査記入用紙を元にデータ入力に漏れがないか確認を行った。また、引っ越しの際に本論文で作成した台帳を元に引っ越しを行ったのでその際の整合性を確認した。

結果と考察

 本館内には4100点の展示品があった。2ヵ月半で調査を終えることが出来た。うち187点は記入漏れがあった。記入ミスは20件あった。

Monacaで作成したアプリケーションは本館内で有効であり、展示品のうち3506点には写真と展示品の紐付けを行うことが出来た。

Accessのデータを元に台帳を作成した。作成した台帳は大学にも渡し、補修工事のための引っ越しの際に利用して頂いた。

引っ越しの際に作成した引っ越しリストと照合したところ、台帳にあって引っ越しリストになかったものは636点あった。なかったものを見ると書籍が多く、本の間に挟めたものが多く、IDがすぐに確認できなかったため、引っ越しリストに含まれなかったことが考えられる。また、貴重な資料は引っ越しリストに含まれておらず、認定化学遺産は図 2のように管理棟1階ミーティングルームに置かれていた。


2 認定化学遺産が入った箱

 引っ越し後も展示品の貸し出しがあった。このとき台帳に一時置場の場所は記入されていなかったため、引っ越しリストとの照合が必要になった。データベースにフィールドに追加する必要があったと考えらえる。
 展示品の状態を指し示すことが出来なかったため、状態を示す項目も必要であった。日に当たる場所では説明文が日焼けしていて読めなくなっていた。説明文もデータベースに保存の必要が考えられる。また、分類を行うとよりよいデータベースになると考えられる。
 また、本館内ではスマートフォンの電話回線が通りにくい場所があった。また、無線LANルータの電波も設置した部屋内だけしか届かず、壁を隔てた隣の部屋には届かなかった。本館内でネットワークインフラを整える際は電波の届きやすさを考慮する必要がある。
 展示品の取り扱いに関して、情報の共有を行わないと齟齬が発生し展示品の所在等が不明になる可能性が高まると考えられる。使命を終えた工業製品の移ろいを現物で保存し、展示公開することは、次世代が日本の将来を設計する教訓として、必ず役に立つと考えられる。

結言

クラウド時代のITインフラを活用することで文化財保護にかかる管理コストを大幅に低減でき、次世代へ多くの価値ある文化財と情報を継承でき、デジタルアストレイの解消もできる。また、学校の主役である学生が自らの学びのために文化財保護活動に取り組むことで世代を超えて持続的に文化の継承ができる。

参考文献

1) 菅野史朗, 山形県立博物館研究報告, 29 ,41-45(2011).

指導教員:仁科辰夫・立花和宏・伊藤智博

電話:0238-26-3781

E-mail:c1@gp.yz.yamagata-u.ac.jp