1章 序論


デジタル化から起きた問題

情報通信技術の発展と共に、音楽、テレビ放送、書籍、測定装置のオシロスコープまでもがデジタル化の一途を辿っている。その世の中でデジタルディバイドという言葉がある。これは「インターネットやパソコン等の情報通信技術を利用できるものと利用できないもののとの間に生じる格差」のことをいう1) 。その一方ではデジタルデトックスという言葉もあり、「デトックス=解毒」の言葉が示すとおり、ネットやスマホといったデジタル環境の持つ負の側面から「少し離れる習慣」をとり入れようというものと述べられている2)

格差の中に過剰が起こり離れているという現象が起きている。高等教育機関である大学は技術の最先端に生きつつも、それらの技術か有効かどうかの判断をしなければならいない。よって正道から外れる(Astray)ことはあってはならず、つねにデジタル化の正しい道を指示さなければならない。

本論文では正道から外れているデジタル化をデジタルアストレイと呼び、デジタルアストレイの解消とは情報技術を活用した最適化を指す。

山形大学工学部内のネットワークインフラ

 インフラとはインフラストラクチャー(Infrastructure)の略であり、基盤や下部構造などの意味を持った英単語であり、日常的には水道や道路など社会基盤のことを指している。ネットワークインフラとなると主にICTといわれる情報通信技術の基盤を下支えしているものである。大学内においては、情報ネットワークセンターが担っている。学内のネットワークインフラで言えば、インターネットサービス、学内ネットワーク、無線LANの設置、メールサービス、e-ラーニングシステム、データベースサーバなど多岐にわたっている。ICTの発展とともに情報ネットワークセンターの役割は大きくなってきている。

山形大学工学部内のネットワークインフラとして工学部にある学術情報基盤センター内には132台のパソコンが学生向けに開放されており、データベースサーバや3Dプリンターなどを備えている。また、山形大学工学部内には50箇所以上の無線LANポイントがあり、設定さえ行えば誰でも使用できるようになっている。各研究室にもインターネットがつながるようにLANコンセントがあるなど学内のネットワークインフラは充実している。

1.5 ITの歴史

図 4に1970年から現在までのITの歴史を示す11) 。情報の保存という点で見れば4つに分けられる。最初は紙に書いて保存していた時代である。次にフロッピーディスクに保存する時代である。これは1982年にNECからPC-9801というパソコンが発表され、1982年当時では高解像度の表示が可能になり、RAM(Random Access Memory)も最大640KBになったことで、日本語の表示が可能になった。また、同じ年にはMS-DOS(Microsoft Disk Operating System)というオペレーティングシステム(以下OS)が登場した。MS-DOSの登場によりパソコンからフロッピーディスクを利用できるようになり、ワープロソフトの一太郎や計算ソフトであるロータス1-2-3、データベース管理システムであるdBASEで作成したデータが、フロッピーディスクに保存することが可能になった。1995年になり、ネットワーク機能が強化されたWindows95(OS)が登場した。この頃のパソコンにはハードディスクドライブ(HDD)の搭載が標準となった。ハードディスクの時代の到来である。また標準でネットワークに対応しており,サーバのハードディスクにデータの保存やインターネット利用が可能になった 19)。またそのころ、学内でも赤塚孝雄らが中心となってシラバスや教員要覧といった情報をデータベース化する動きが起こり16)、山形大学の学術情報基盤センターも時代にあわせて学内情報インフラの環境を整えていった15 。一方で携帯電話の普及と多機能化に伴い、パソコンと携帯端末のギャップが埋まりつつあった。2006年にGoogle社CEOであるエリック・シュミット氏が「クラウド・コンピューティング」と発したように、インターネットに接続できればどんなデバイスでもインターネット上にある雲(クラウド)のように浮かぶコンピュータ群に接続し、ファイルにアクセスできるようになった 17,18)。クラウドの時代が到来した。山形大学の学生もご他聞に漏れず、ほとんどの学生がスマートフォンを利用するようになった。

4:ITの歴史

1.6 データベースの発展

図 5に時代によるデータベースシステムの発展を示す。パソコンの使い方やデータベースの実装や運用形態は時代とともに変遷した。フロッピーディスク期では、データは主にテキストでフロッピーディスク(1980年代当時約2万円)にデータを保存した。パソコン(約30万円)は1台が複数のオペレータで共有されdBASEなどのデータベースアプリケーションが普及した。ハードディスク期は1人1台のパソコン(OSとハードディスク付で約30万円)を持ちWindowsに代表されるマウスとグラフィックスを使ったユーザーインターフェイスが普及し、Microsoft Accessのようなデータベース管理ソフトが普及した。図3に示すように本館にも時代とともに小さくなってゆくハードディスクが展示されている。一方ネットワークが普及しはじめOracleのようなUnix(OS)で動作するデータベースサーバも普及してきた。Accessはパソコンのハードディスクにデータを保存することもできたが、ネットワークを介してデータベースサーバに接続するフロンドエンドデータベースとしても利用できた。このようなネットワークを介して多数のユーザーがデータベースを利用するクライアントサーバーシステムにおいては、共有されるパソコンのセキュリティ機能が強化されていった。クラウド期では1人が複数のデバイスを持ち、インターネットさえできればクラウド上に書き込みができるようになった。無線通信が一般的となり、わざわざパソコンの前まで戻らなくても現場でデータベースの更新が行えるようになった。

5:時代によるデータベースの発展

今の時代の情報の流れとして、吉見は、知識の再生産プロセスが、<生産→流通→消費>の空間軸での素子化をベースにした仕組みから、<蓄積→検索→再利用>の時間軸による組織化をベースにした仕組みへと転換する可能性があると述べている26)

参考文献

1) 平成23年版 情報通信白書(2011)

2) 米田智彦著, デジタルデトックスのすすめ(2014).