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🌡️ 📆 令和6年4月19日

化学工学とリチウム電池~分散・スラリーの作成と塗布乾燥~

山形大学  理工学研究科(工学系)  物質化学工学専攻  🔋 C1 立花和宏

電池は、正極、負極、電解質からなります。 二次電池では活物質にセラミックを使うので、セラミックスラリーから電極の形状を作ります。

電極は電池活物質を外部回路に接続する部材である。 電池の寸法や規格にあわせて、電極も形状を整える。 形状を整えるのに、金属やプラスチックでありば塑性変形を使い、あるいは溶融して型に流し込み、または切削や研磨などの機械加工を行う。 しかし一般に電池活物質はセラミックスであり、それらの加工方法が使えない。 そこでセラミックスを粒子として液体に懸濁させたセラミックススラリーとして塗布し、しかるのちに乾燥固化することで形状を整える。 この考え方は伝統的な陶器や磁器の作り方となんら変わらない。

しかしながら、電池の電極は形状だけ整えれば終わりではない。 電極には活物資の反応場としての機能が求められる。 活物質が効率よく反応して、活物質の持つ化学エネルギーで無駄なく電気エネルギーとして外部に取り出せなくてはならない。 そこで、電極スラリーの設計には、機能を発現するための電極の理解が必要となる。

電池の中では バインダーセパレータ高分子材料が使われることが少なくありません。 高分子材料は共有結合性化合物が多いので、電気を流さず電気化学的に不活性かと思われがちですが、 実際には電池の性能を大きく左右することがあります。


調合・混合・攪拌・分散・塗布・乾燥・プレス・注液

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調合・混合・攪拌・分散・塗布・乾燥・プレス・注液
©K.Tachibana

イオンの移動

  1  イオンの移動
形態 説明 流動
対流 重力・動力(撹拌)
🖱 泳動 電位勾配/ クーロン力/導電率 位置エネルギーを最小に 慣性支配
🖱 拡散 濃度勾配/拡散係数 エントロピーを最大に 拡散方程式 拡散過電圧 粘性支配

拡散と対流は、イオン移動だけでなく物質移動でも起こります。拡散はイオン移動だけでなく 熱移動でも起こります。


電極の構造

スラリー中の粒子サイズのイメージ

  2 スラリーを塗工した電極をさらに拡大した図 赤は活物質、青は 正極集電体、黒はアセチレンブラック、緑はSBR
© D.Kurosawa , C1

電極は、活物質、導電助剤、バインダーを混錬し、塗工して作られます。異なる粒子サイズのもので、電池として動作できるように設計しなければなりません。 図は、活物質、導電助剤、バインダーの粒子サイズを3D-CADアプリ、 ソリッドワークスで、3D表示したものです。

1 )


炭素材料とバインダー

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炭素材料とバインダー
©K.Kawada

バインダーのスプリングバック

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バインダーのスプリングバック
©K.Tachibana

電池の組み立て

電池を作るには集電体に合材を塗布・乾燥して電極を作成し、 セパレーターを挟んで巻き取り、パッケージに封入し、電解液を注入するといった工程が必要になります。


電気化学 セルの組立―電池式の書き方と電極の呼び方―


粉体としての材料

  2   粉体と比表面積 2 )
量名 記号 単位
密度 ρ kg/m3
比表面積形状係数 φ φ=6(、立方体、直径と高さが等しい円柱
直径 d m d=2×半径(
比表面積 S m2/kg S=φ÷ρ×(1/d)
比表面積 S m2/kg S=φ÷ρ×∫1/d(w)*dw
08 12 15 エネルギー化学特論

単位質量の 粉体 の全表面積を、 粉体 の比表面積と言います。 一定量の固体を粉砕すると、 その表面積は粒径にほぼ反比例して増加します 3 )


正規分布-平均値と標準偏差-

  5 正規分布
© K.Tachibana

ヒストグラム

  6 ヒストグラム

合材スラリーの調整

電池は固相反応を使うことが多いので、活物質は固体粒子を扱うことになります。 活物質自体が電子伝導性があればよいのですが、十分な電子伝導性がない場合は、導電助剤を使うことになります。 塗布のための粘度調整や、乾燥後の接着のためにバインダーや溶媒も加えて合材スラリーを作成します。 (機能界面設計工学特論)


電極合材スラリー中の成分

  7 電極スラリーの構成材料と相互作用
© K.Tachibana , C1

活物質表面での電子パスとリチウムイオンパス

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活物質表面での電子パスとリチウムイオンパス
© K.Tachibana

表面積よりコンタクトラインの長さ

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表面積よりコンタクトラインの長さ
© K.Tachibana

電池反応には、活物質、電子伝導パスの導電材、イオンパスの電解質の 3相界面が必要です。

たとえば、コバルト酸リチウムの粉とアセチレンブラックの粉を混ぜて、 PVDFのNMP溶液を加えてよく練って、正極合材スラリーとします。 活物質の量で電池容量が決まるので、できるだけ活物質の割合は多くします。

塗布厚みが不均一になると電流分布にムラを生じて 電池の劣化の原因となるので、エッジのカタチが崩れないように 適度なチクソトロピーを持たせるように設計します。

学会発表

単位操作

  3 単位操作
単位操作の分類 背景 特徴
溶解 溶かす
分離・抽出 濾す
加熱 🔥 温度 茹でる、煮る、蒸す
🏞 製鉄
1500℃
冷却 💪 第一次産業革命 冷ます 酸素
加圧 💪 第一次産業革命 つぶす、圧力釜 🏞 アンモニア
撹拌・混合 混ぜる
解砕・分散 4 ) 砕く、マヨネーズ、チョコレート
乾燥 干す
蒸留・分留 🏞 ナフサ ウイスキー
ろ過・再結晶・塩析
電解・電析 第二次産業革命 🏞 アルミニウム q.64 めっき

化学反応を起こさせる操作すなわち反応操作(unit process)のほかに、いろいろな物理的な操作を必要とする。この物理的な操作を単位操作(unit operation)という 5 ) 6 )


分散

混合と解砕は別物です。

  4 界面活性剤・分散剤
種類 構造 特徴 用途
アニオン界面活性剤
(陰イオン界面活性剤)
親油性(非極性)のはじっこがアニオンの親水性(極性) 石鹸 親水基がイオン 洗剤
カチオン界面活性剤
親油性(非極性)のはじっこがカチオンの親水性(極性) (陽イオン界面活性剤)
両性界面活性剤
ノニオン界面活性剤
(非イオン界面活性剤)
高級アルコール系 親水基と疎水基のバランスを変える

界面活性剤は、懸濁液などをつくるときに大きな役割を果たします。

HLB、クラフト点、曇り点などが指標として使われます 7 )


レオロジー

粘性と弾性が非線形です。


粘性率

10-410-2100102104106108101010121014101610181020 空気 マヨネーズ ハチミツ 溶岩
  10 📏 粘性率 η/Pa s
©K.Tachibana
不均一混合物 せん断応力σ=粘性率η×流束γ1/s

弾性率

100102104106108101010121014 空気 マヨネーズ ガラス
  11 📏 弾性率 η/Pa
©K.Tachibana
不均一混合物

液体の流動パターン

  5 液体の流動パターン
分類 流動形式
ニュートン流体
非ニュートン流体 疑塑性流動
塑性流動 (非ビンガム流動) 塗料 インキ マヨネーズ サスペンション
チキソトロピー 塗料 インキ
ダイラタンシー かたくり粉水溶液 餅 粘土スラリー 濡れた砂


様々な状態

  12 物質の三態と可塑性と弾性
物質の状態

分子が自由に動き回っているのが気体です。

元素が秩序正しく格子点に固定されているのが固体の 結晶です。

温度や圧力 によって、物質が固体、液体、気体、 超臨界流体のいずれの 状態を示した図を 状態図と言います。 分子結晶は、昇華しやすく、 イオン結晶は、融点や沸点が高いです。

乳濁液(エマルション)や懸濁液(サスペンション)などの コロイド溶液 を安定化するのに、 界面活性剤が使われます。

p V = n R T

アセチレンブラックとPVdF

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アセチレンブラックとPVdF
©

  13 226
アノード分極による剥離
©M.Morita, C1

合材スラリーの集電体への塗布・乾燥

集電体単位面積あたりの活物質の量を最適設計することで、 高出力設計か高エネルギー密度設計かが決まります。 溶液抵抗は電極間距離が小さいほど小さくなるので、 電極層の厚みとセパレータの厚みを最適化します。

乾燥は合材の分散媒を分離し、分散質を集電体に固着することだ。 PVDF+NMP系の場合は、NMPを乾燥するし、水系バインダーの場合は、水を乾燥することになる。 自由水が残留しているあいだは、乾燥温度で水の蒸気圧が決まる。 あとは大気圧あるいは減圧下で蒸発が進む。 蒸発した蒸気を拡散あるいは対流で物質移動する。 ただし、スラリー内部は対流が到達せず、拡散に頼らざる得ない。 タクトタイムを上げようとして熱風の風量をあげると 表面に被膜が形成して残留する溶媒が多くなる。 電極厚みが増すほど、電極内部の溶媒の物質移動が困難となる。 そのような場合、電極内部まで放射によって熱を伝える赤外線加熱を使うのもひとつの方法だ。


  14 290
スラリー乾燥過程のアドミタンス
© F.Sato

コンダクトメトリーによる炭素材料分散スラリー乾燥過程における導電ネットワーク形成の解析

リチウムイオン二次電池合材スラリーのin-situインピーダンス測定による乾燥プロセスの解析


伝熱

  6 伝熱
量名 記号 単位 備考
総括伝熱係数
(熱貫流計数) *
Ua W/(m2・K) q=UaA(t-t')
熱流量 q W
伝熱面積 Aa m2

住宅では、断熱性能が求められます。 自動車用の電池では、放熱性能が求められます。



©2024 Kazuhiro Tachibana

参考文献


エネルギー化学特論
✍ 平常演習
💯 課外報告書 Web Class


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