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🌡️ 📆 令和6年4月19日

電気エネルギーと物質~電池の系譜~

山形大学  理工学研究科(工学系)  物質化学工学専攻  🔋 C1 立花和宏


電池の歴史

  1  電池の種類
電池 電池式 性質や特色
歴史的電池 1800 ガルバノ電池
ボルタ電堆
Zn|H2SO4aq|Cu 銅は単なる集電体。正極活物質は酸素。
ダニエル電池 Zn|Zn2+aq||Cu2+aq|Cu 正極活物質と負極活物質が分離。集電体は反応系を兼用
一次電池 1888 乾電池 1 ) Zn|NH4Claq|MnO2,C|C 正極活物質に酸化物(固体)とバインダーを採用。正極合材。 負極活物質亜鉛は両性金属なので、アルカリに溶けてしまう。
1950 アルカリ乾電池 Zn | KOHaq | MnO2,C | Ni
1970 リチウム電池 Li | LiClO4,PC | MnO2,C | SUS304 有機電解液 採用。
二次電池 1991 リチウムイオン電池 2 ) (-) Cu | C | LiPF6,EC+DEC | LiCoO2,C | Al (+)
鉛電池 鉛は両性金属だが、硫酸には溶けない。
ニカド電池 * Cd|Cd(OH)2|KOH aq|NiOOH 亜鉛と違って カドミウムは両性金属でないのでアルカリに溶けない。
ニッケル水素電池 MH|KOH aq|NiOOH 水素吸蔵合金はアルカリに溶けない。
https://www.baj.or.jp/battery/knowledge/structure.html 3 ) 4 ) 5 )

イタリアの解剖学者Lugi Galvani(1737-1798)は、蛙の解剖に端を発した二つの異種金属を接触させたときに流れる電流を動物電気と称した(1979)。 この現象は直ちに同国のAlessandoro Count Volta(1745-1827)により追試され、ボルタの電堆として実証された(1800年3月)。 Galvaniの業績をたたえてこの種の電池を ガルバニ電池と呼んでいる。

小沢昭弥ら、 現代の電気化学 6 )

187
電極界面と起電力
©K.Tachibana
電位プロファイル

電池の起電力はどこから来るのか。それは界面電位差でした。横軸に距離、縦軸に電位をとったグラフを電位プロファイルと言います。電位は場所の関数なので、それをどこかの軸に沿って断面を見たグラフと言っていいでしょう。


実用電池

" -3.5" " -3.0" " -2.5" " -2.0" " -1.5" " -1.0" " -0.5" " 0.0" " 0.5" " 1.0" " 1.5" " 2.0" 電位 E / V vs. NHE " Zn 中性 " Cu " ダニエル電池 " Ag|AgCl " Li " Al " Zn アルカリ性 " MnO2 " マンガン電池 " Zn " NiOOH " ニッケル亜鉛 " Pb " PbO2 " 鉛電池 " H2 " O2 " 燃料電池 " Li " LiCoO2 " LIB
  2 実用電池 での電極の組み合わせと起電力
07 13 エネルギー化学 無機工業化学 svg 現代の電気化学p.68 無機工業化学p.46 11円電池

イオン化傾向の大きな物質と、小さな物質の組み合わせです。

電池から電流を取り出すことを放電と言います。 充電できる電池を二次電池または蓄電池と言います。 7 )

今日、実用電池と呼ばれるもののほとんどが、 正極活物質には金属酸化物を、 負極活物質 に亜鉛を用いていること、電解液には アルカリ溶液(KOH)を用いること、 電池の名称に正極活物質の金属名を利用していることなどがわかる。 8 )

鉛電池(Pb酸)はこれまで二次電池の主役を果たしてきた。その最大の理由は電池構成材料コストの低廉さにある。 9 )


ガルバーニ電池
ボルタ電堆

ダニエル電池

  3 15 ダニエル電池の模式図
© K.Tachibana
電池式 アノード (-) Zn | Zn2+ || Cu2+ | Cu (+) カソード

セパレータが採用されています。 エジソンの蓄音機にも使われた歴史的な電池です。


ダニエル電池

  1 ダニエル電池
電池式 Zn | ZnSO4aq || CuSO4aq | Cu
負極 反応 Zn2+ + 2e-  ←    ZnEº = -0.7626V
正極 反応 Cu2+ + 2e-  →   CuEº = 0.34V
全反応 Zn +Cu2+Zn2+ + Cu
起電力 e.m.f. = 1.1026V
エネルギー変換特論 化学実験Ⅰ エネルギー化学

起電力は、電解液中の亜鉛イオンと銅イオンの活量が1であるとしたときの起電力です。 関与する化学種の活量を全て1としたとき、起電力は、酸化還元電位の差になります。

Zn | Zn2+ || Cu2+ | Cu     ( * )


ダニエル電池

  4 186
ダニエル電池
© K.Tachibana

ガルバーニ電池、 ボルタ電堆、 ダニエル電池と発展します。

ダニエル電池では、正極も負極もカタチが変形するのです。 しかも、カタチの変形可逆でないのです。 可逆でないカタチの変形は、充電式電池(二次電池)にとって、致命的です。

  1. 小野寺伸也, 正極内部抵抗から見るリチウムイオン二次電池正極材料の最適な組み合わせ ,,山形大学 工学部 物質化学工学科 卒業論文.
  2. 伊藤智博,学生実験: 電池の起電力 ,,山形大学 工学部 物質化学工学科 シラバス.
電気化学セルの組立―電池式の書き方と電極の呼び方―

ウェストン電池(標準電池)

  2 ウェストン電池(標準電池)
電池式 Hg | Hg2SO4+ CdSO4 |sat. CdSO4 aq.|Cd+Hg
起電力 e.m.f. = 1.01866V
エネルギー変換特論 エネルギー化学

起電力は 20℃において 1.01866V です。1990年まで、 電圧基準として使われました。

*

ウェストン電池(標準電池)

  5 ウェストン電池(標準電池)
©2024 K.Tachibana , C1 Lab.

電池


乾電池

  6 86
乾電池(ルクランシェ電池・屋井電池・ガスナー電池)の模式図
©K.Tachibana
電池式 アノード (-) Zn |KOH | MnO2, C| Ni (+) カソード
リチウム電池

アルカリ乾電池

  3 アルカリマンガン乾電池 (実用電池) の放電
電池式 Zn | KOH | MnO2 , C | Ni
カソード 反応(正極) 2MnO2+ 2H2O+ 2e- → 2MnOOH+2OH-Eº = 0.215V
アノード 反応(負極) Zn(OH4)2- +2e- ← Zn+4OH-Eº = -1.285V
全反応 2MnO2+ Zn+ 2H2O+ 2OH- → 2MnOOH+ Zn(OH4)2-
起電力/V Eº = 1.5V (公称電圧)
理論容量 電力原単位 224.0mAh/g
理論重量エネルギー密度 336.0mWh/g
形状・寸法 円筒(AM3、AM4)、ボタン(LR44)
用途 リモコン、電動ハブラシ、玩具、懐中電灯、時計

1950ぐらいから。


リチウム電池

  7 51 リチウム電池の模式図
©K.Tachibana Copyright all rights reserved.
電池式 アノード (-) Li |LiClO4/PC+DME |MnO2,C|C (+) カソード
乾電池

もしダニエル電池を充電したら-充電式電池へ-

反応は可逆でも、形状が可逆とは限らない。特に負極に金属を使っている場合、放電して腐食溶解した負極が、充電によって完全に元の形状に戻ることはまずない。 少しでも形状変化を小さくするために、電池活物質には固体材料が使われることが多い。

  8 もし ダニエル電池 を充電したら
K.Tachibana

リチウムイオン二次電池

リチウムイオン二次電池(1991)

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リチウムイオン二次電池
©K.Tachibana
png

リチウム電池を二次電池化するには、負極の充電時の形状変化を可逆にする必要がありました。 放電時に金属リチウムがリチウムイオンとして電解液に溶解すると、 充電時に元の形状に戻るとは限りません。 そこで、炭素のインターカレーション反応を利用し、負極反応を固相反応とすることで、 負極の充電時の形状変化の可逆性を実現しました。


リチウムイオン二次電池

51 リチウム電池の模式図
©K.Tachibana Copyright all rights reserved.
電池式 アノード (-)Cu| C6Lix | LiPF6/EC+DEC | Li1-xCoO2, C | Al (+) カソード
※充電式電池では、充電時にカソードとアノードが入れ替わります。

リチウムイオン二次電池 では、 正極活物質負極活物質も、 固相反応にすることでカタチが変形を最小限にしています。 しかし、反応生成物の化学組成が違う以上、密度が変化するので、カタチの変形から逃れることはできません。 カタチの変形によって、固体と固体の 接触状態が変わるため、 電池の内部抵抗の増大の原因になります。


  4 リチウムイオン電池 実用電池
電池式 組み立て後:Cu|C|LiPF6 EC+DEC|LiCoO2,C|Al
充電後:Cu|C6Lix|LiPF6 EC+DEC|Li1-xCoO2,C|Al
負極 反応 6C+xLi++xe-←C6Lix Eº = -3V
正極 反応 LiCoO2←xLi++xe-+Li1-xCoO2 Eº = 0.7V
全反応
起電力/V 3.7 (公称電圧) 18650リチウムイオン電池は1セルの公称電圧が3.6Vまたは3.7V
最低放電終了電圧/V 2.5~2.75V
実用電池容量/mAh 1200~3300mAh
理論電池容量/mAh
サイクル寿命/回
理論重量容量密度
理論容量 電力原単位
/mAh/g
157.7mAh/g
理論重量エネルギー密度
/mWh/g
583.5
実用 重量エネルギー密度 200~250Wh/kg 程度 *
形状・寸法 円筒型 (18650の例 18は直径18mm、65は長さ65mm、0は円筒形) 2170や4680も * * 、 ラミネート型
重量
用途 住宅自動車スマホ

10 ) https://led-outdoorgear.biz/wp/18650-pse/ F=96485.33212331

電池活物質が100%反応したときの電気量を理論容量と言います。

理論容量 :電池活物質が100%反応したときの電気量

これはファラデー定数を式量で割れば求めることができます。 慣例的に電池の電気量は、〔mAh〕で表現されます。 ファラデー定数は、慣例的に〔C/mol〕で表現されますが、 ここでは、〔mAh/mol〕で表現した方が、計算に便利です。

  5 ファラデー定数
数値(概数) 単位 説明
96485.332 C/mol
26.801 Ah/mol
26801.481 mAh/mol
0.027 kAh/mol

96485.33212331は、アボガドロ数×電気素量で、それらはSIで定められた 定義定数 です。

、爆鳴気などで、電気量を較正します。

ファラデー定数は、 エネルギー密度や理論容量の計算にも使います。

例二酸化マンガンMnO2 正極活物質 の理論容量=FdyC/(Fwp/zp)
308.3mAh/g

でも二酸化マンガンは、MnO2-xのように 非量論化合物なので、厳密に式量は定義できない。 電池で使う活物質は、非量論化合物が多い。

電池活物質の式量Fw/g/mol
例LCO:97.873[g/mol]、C=12.011[g/mol]
反応に関与する電子数zp=1,zn=1/6

リチウムイオン電池 11 ) の正極として使われる コバルト酸リチウムの式量は、97.873である。 よって、理論容量は、273.9mAh/gとなる。 でもコバルト酸リチウムは、厳密には、酸化してはじめて正極活物質となる。 その場合式量としてリチウムが抜けた状態の量を使って282.6mAh/gとなる。 実際には100%リチウムを抜くことはできない。 そこで慣例的に、コバルト酸リチウムを正極活物質として計算することが多いようである。*

電池の容量

  6 電池の容量
項目 説明
活物質の理論容量 コバルト酸リチウムの式量は、97.873を 273.9mAh/g
正極の容量密度 mAh/g
正極活物質 の理論容量=FdyC/(Fwp/zp)
273.8mAh/g
負極活物質の理論容量=FdyC/(Fwn/zn)
371.9mAh/g
電池の論重量容量密度=FdyC/(Fwp/zp+Fwn/zn)
157.7mAh/g
  7 電池のエネルギー
説明
E= Vo Q Q

電気エネルギーEは、電気量Qの関数であるところの作動電圧Voを電気量で積分して得る。 理想的な電池では、電気量Q=電池容量× SOCである。

E = Va Q Q = VaQ

電池の作動電圧を 平均作動電圧として一定 とみなせば、電気エネルギーEは、平均作動電圧と電気量の積で近似できる。

Vo Q = Ve.m.f. Q - η I 作動電圧(Q)は、電池の起電力(Q)から電流の関数であるところの過電圧を差し引いて得る。
Vo Q = Ve.m.f. Q - η Q t 電流と電気量の関係を使って、全て電気量で記述できる。
Vo Q = Ve.m.f. Q - rI 過電圧が、 電池の内部抵抗だけで近似できるなら、
作動電圧(Q)= 電池の起電力(Q)±過電圧(I)
電流は電気量の時間微分なので、 作動電圧(Q)=電池の起電力(Q)±過電圧(dQ/dt)

リチウム電池の仕組み はどうなっているのでしょうか?

電池 @C1卒業研究
立花研究室(要認証) 学生実験

リチウムイオン電池は、組み立てた直後は、放電できない。 初期充電して、材料を活物質に電解合成しないと放電できないのだ。


参考文献


エネルギー化学特論
✍ 平常演習
💯 課外報告書 Web Class

QRコード
https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/56307/56307_04.asp
名称: 教育用公開ウェブサービス
URL: 🔗 https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/
管理運用 山形大学 学術情報基盤センター

2024年1月21日 松木健三名誉教授がご逝去されました。

名称:C1ラボラトリー
URL:🔗 https://c1.yz.yamagata-u.ac.jp/
管理運用
山形大学 工学部 化学・バイオ工学科 応用化学・化学工学コース
C1ラボラトリー ( 伊藤智博立花和宏

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