4.2 腐食電位と腐食電流 -腐食の速度論-

前説での電位pH図は腐食の起こる可能性を述べたものなので、速度に関しては何の情報も与えてくれない。本節では、腐食の速度はどのように決まるのか、また腐 食速度をどのように測定するのかについて考えてみよう。

同一の電極上で二つ以上の電極反応が同時に起こっている系を複合電極系と呼び、それぞれの反応の電流の総和が0になる電位を混成電位(mixed potential)とい う。混成電位は単一電極の平衡電位と対比して理解することができる。平衡電位においては、同一の反応の正・逆(アノード・カソード)電流が等しくなり外部電流 は0になる。たとえば鉄の平衡電位は、Feの溶解とFe2+からの析出の速度が等しくなり、正味の溶解は起こらない。一方混成電位は、例えば鉄を酸性溶液 に浸漬した場合、水素ガスを発生させながら鉄が溶けだすのが観測され、次の二つの反応

Fe→Fe2++2e (4.11)

2H++2e→H2 (4.12)

が同時に進行する。このときもちろん外部には電流は流れないが、(4.11)のアノード電流Jaと(4.12)のカソード電流Jc の絶対値が等しく、観測される電流=JaJcが0になっていることに他ならない。それ故、外部 電流が0であってもJaに相当する鉄の溶解が起こることになる。

 腐食の電流-電位曲線 腐食における混成電位は腐食電位(corrosion potential)Jcorと呼ばれているが、この電位付近での電流-電位曲線 はどうなっているだろうか。(4.11)と(4.12)の電流JaJcは次式で表される。

ここでJ0,Jは鉄および水素電極反応の交換電流密度と平衡電位、αa,αc na,ncはそれぞれの反応のアノード方向とカソード方向の通過係数と反応電子数である。これらの関係は、図4.4に示され、(4.11) と(4.12)のそれぞれの逆反応が無視できる場合には、(4.13),(4.14)は次式となる。