第3章 電池とエネルギー

3.1 化学エネルギー変換装置としての化学電池

 化学電池を、酸化還元反応に伴う自由エネルギー変化を電気エネルギーとして取り出す仕組みをもつ装置、すなわち化学エネルギー変換(energy conversion)デバイスと呼ぶことにしよう。これは太陽電池などの物理現象を利用する物理電池とは異なる。電池は本来、独立電源としての機能を有し、コンデンサーのような従属的・受動的な電気エネルギーの一時的な溜池とは異なる。また、最近の電池は益々小型・軽量化され腕時計・カメラ・メモリー・のバックアップ等では、数年から10年間もの寿命が保証されている。まさに、コードレス化エレクトロニクス時代を支える電源であり、能動的なデバイスである。  本章ではその化学エネルギー変換の原理と仕組み、電池内酸化還元物質の化学、変換家庭のキネティクス、代表的な実用電池と実用化の期待されている新型電池について学ぶ。

3.1.1 電池におけるエネルギー変換

 常温等圧化における化学反応の最大エネルギー変化はギブズの自由エネルギー変化(ΔG)に等しい。ある化学反応が完結するまでに放出されるであろうこのΔG(Jまたは、KJ/mol の単位をもつ)がすべて電気エネルギー(クーロンボルト、CVの単位をもつ)に変換されたとすると、

-ΔG=nFEcell (3.1)

 Fはファラデー定数(電子の電荷(C)×アボガドロ数(N))。ここで、電子数(n) と電圧(E)の意味について以下のような電池反応を想定して検討してみよう。 電池反応は必ず2つの半反応(half action)の組合せからなる酸化還元反応で あり、半反応1と半反応2を次のように表わして、為とnの最小公倍数を用いて電 子を含まない反応式を作れば、これが電池反応式(3.4)に他ならない。

Ox1+ne1=Red1 Ox2+ne2=Red2 n2×(3.2)-n1×(3.3)2nOx1+nRed2=n2Red1+n1Ox2

ΔGは(3.Δ)式のそれであり、nは(3.Δ)式に関してやり取りされる電子の数であ るから、ここではn=n1n2である。また、E cellは(3.2)、(3.3)式の平衡電位(ネルン スト電位)の差、E1=E2-E1になる。ここで、nの方にはn1,n2が含まれるの に、E。の方にはそれらが含まれないのは不思議に思うかも知れない。これは、 と(3.3)の間の引算をΔGに注目して行ってみるとよく理解できる。

(3.2)×n2 n2Ox1+n1n2e=n2Red1 -ΔG1=n1n2FE1 (3.3)×n1 n2Ox1+n1n2e=n2Red2 -ΔG2=n1n2FE2 -ΔG=nfE cell =ΔG1-(-ΔG2)=n1n2F(E1-E2) (3.5)

このように電位は示強因子であるから、量論的な数には無関係である。

E cellを(3.Δ)式の電池反応で示される電池の起電力という。これらを標準状態で扱えば、E cellは標準電極電位の差(E2-E1)で与えられる(図3.1参照)。

上の説明は、(3.1)式が与えられるとして、電池反応を想定してnおよびE cellの後付けしたものであるが、(3.2)、(3.3)式の半反応から出発して(3.1)式を導くのが本来のやり方である。他の成書を参考にされたい。(3.1)式は酸化還元反応のΔGが直接電気エネルギーに変換されることを意味しており、熱エネルキギーを経由しない(燃焼反応も、燃料の酸化、酸素の還元からなる酸化還元反応である)高効率なエネルギー変換の可能性を示している。

電池の理論エネルギー変換効率(theoretical energy conversion efficiency)は、 熱エネルギー(ΔH)をベースにとれば、

εth=ΔG/ΔH (3.6) Eth=ΔG/ΔH

すなわち、熱として利用できるのはΔHであるが、電気化学的にはΔGがそっくりそのまま電気エネルギーに変換できると言うわけである。ΔG/ΔHは多くの場合ほとんど1に近い値で、電気化学的エネルギー変換の効率が100%に近いというせっかちな結論がここから出てきてしまう。周知のように、ΔGはあくまでも熱カ学的量であって、定義の中には「可逆変化に際して」という注釈が入っている。したがって、ΔGに対応する(3.1)式のE cellに対しては、「電流ゼロにおける電位差の極限値を持ってE cellと定義する」という電気化学的注釈が入る。現実には、E cellとは電流を流さない開路状態の電圧であって、電流を出力しているときの電池の出力電圧(E)と同じではない。実際の電池効率(s)は電圧効率(E/E cell)と電流効率を含む。電流効率は電池活物質の利用効率で置き換えることができるから、

Εac=(ΔG/AH)(E/E)(Q/Qo) (3.7)

QとQoとは、それぞれ現実に電池から取り出された電気量と電池内に有する活物質(active material)の理論電気量である。また、Eは電流(I)の関数であり、これらについては後段で触れる。電池のエネルギー変換の効率は、したがって、出力が電流ゼロに近づくほど、理論効率に近づくと言い直すべきである。ところが、これから述べる電池はすべて電流を出力する(出力W=IE)ことを目的とする実用電池であって、電流を取り出すことを目的としないタイプの電池(イオン電極など電位差を読み取る形式のセンサー類も基本的には電池の構成をしている)とは区別される。実用電池のおもしろさと難しさとは、この(3.7)式中の(E/E cell)と(Q/Qo)をいかに1に近づけるかにある。

3.1.2 電池の表記

 電池には固有の表記法があり、それには電池の原理と仕組みに関する合理的な内容が盛り込まれている。電気化学の学び始めのつまずきは、この表記法の煩雑さ極性の混乱にあるが、整理してみると実に明快であり、その運用法を是非理解してほしい。

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