評価用電気二重層キャパシターにおけるバインダーとしてのCMCについて

物質化学工学科3年 仲島康平

 

1.     背景と目的

 

絶縁体は送電線などからの高電圧の漏洩を防ぐだけでなく, 電気的にも重要な機能を発現する. 絶縁体の大きな用途のひとつは, 誘電体としての利用である. すなわち, 絶縁体では電子が構成元素の原子核によって強く束縛されているが, 外部から電界を印加することで, 原子核と電子との相対的なずれが生じ分極することになる. この分極した層は電気二重層と呼ばれ, 積層コンデンサーやキャパシター電池として応用される.[1] リチウム二次電池の製造では, 電池反応活物質と炭素材料をバインダーで混練してスラリーとし, アルミニウム箔に塗布することで電極を作成する. 電池反応活物質として使われるコバルト酸リチウムは過充電による劣化が懸念されるため, バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(以下PVDFとする.)が使われてきた. しかしながら, PVDFは処理コストが高く, 環境へ悪影響が少なくないという課題があったため, PVDFに替わって, スチレンブタジエンラバー(以下SBRとする.)やアクリルなどの高分子材料を水に分散させて, バインダーとして使用する試みがなされてきた. また, そのような水分散バインダーを使用した場合, スラリーをアルミニウム箔に塗布する際のレオロジーを制御する必要があった. そこで, 塗布性を向上させるためにカルボキシメチルセルロース(以下CMCとする.)などの増粘剤がスラリーに添加されるようなった. 本報告書では, 各種CMCについて塗布性を評価すると同時に, 電気化学測定を行い, 電池性能を劣化させないCMCを増粘剤とする理想のスラリー設計を模索することを目的とした.


 

2.     実験方法

 

アルミニウム箔として三菱アルミ製(1N99)を使い, 炭素材料のみを含むスラリーを設計した. 設計したスラリーの仕込み組成を表1に示す. 上皿天秤を用いて約5.0mgの増粘剤を量りとり, 500mgの水, 10mgカーボンナノチューブVGCF(以下CNTとする.)を加え, 十分に混練し, さらに2030mgSBR分散液を加えてスラリーを調整した. 調整したスラリーを1.0cm×4.0cmに切り出したアルミニウム箔に塗布・乾燥させて電極とし, そのスラリー塗布性能について評価した.

 実際に近いリチウムイオン二次電池で充放電試験を行うと多様な設計が必要となるため, 作成した電極に評価用の電気二重層キャパシター(以下EDLC: Electric Double Layer Capacitorとする.)としてセルにアセンブルした. セルは, 100円ショップで購入した醤油さしに作用極と対極と取り付け, 電解液である0.5wt%アジピン酸アンモニウム水溶液(以下AAaqとする.)を入れた. 以上のようにして下記に示した電池式のEDLC評価用セルを組み立て, サイクリックボルタンメトリー(以下CVとする.)を用いて, 増粘剤が及ぼす静電容量への影響, 分極抵抗を調べた. また, 条件として, CVの掃引範囲は0V1.0V, 掃引速度は100mV/secとした.

1 増粘剤名とスラリーの仕込み組成

増粘剤名

質量 /mg

*2

CNT /mg

SBR分散液*3 /mg

WSCA-90

4.0

10

11

80

CMC-Li

7.0

10

11

29

酢酸セルロースL-50

6.0

20

22

26

ジェルナーQH300

6.0

10

10

1

HECダイセルSE850

6.0

10

11

1

HECダイセルSE400

5.0

10

10

1

CMCダイセル1260

5.0

10

16

29

CMCダイセル1220

6.0

10

10

1

CMCダイセル1190

5.0

10

10

1

CMCダイセル2200

7.0

10

10

1

 

 

 

 

 

 


      *2
水は10滴で約500mgであった.

      *3SBR分散液は1滴あたり約2030mgであった.

 

電池式を以下に示す.

Al | CMC, CNT, SBR | 5wt%AAaq | SUS

 

3.     結果

 

まず, スラリー調整時およびAlに塗布した時の担当した各CMCの状態, さらにCNTの塗布量について述べる. CMCダイセル1260, 最初はかなりゆるく, 撹拌していくと次第に粘度が増していったが, 最終的にも比較的ゆるくなった.CNTの塗布量は4.7mgであった. 次にHECダイセルSE850, 時間が経つと絵の具のように粘度が増していった.CNTの塗布量は2.9mgであった.

乾燥後のすべてのスラリーの塗布状態を観察すると, CMCダイセル1260, ジェルナーQH300, CMC-Li, CMCダイセル1220, HECダイセルSE850, CMCダイセル1190の順で塗りムラが少なかった.

 

ここで, 2CVから求めたすべてのCMCの静電容量C, 分極抵抗, CNT塗布量及びCNT塗布量1mg当たりの静電容量C を示す.

2  静電容量C, 分極抵抗, CNT塗布量及びCNT塗布量1mg当たりの静電容量C

増粘剤名

静電容量C/mF

分極抵抗 /kΩ

CNT塗布量 /mg

CNT塗布量1mg当たりの静電容量C mg/mF

CMC-Li

0.57

18

4.4

0.13

ジェルナーQH300

0.90

22

3.1

0.29

HECダイセルSE850

0.62

12

2.9

0.21

CMCダイセル1260

1.10

3

4.7

0.23

CMCダイセル1220

0.55

10

4.0

0.14

CMCダイセル1190

0.25

13

8.4

0.03

酢酸セルロースL-50

0.95

7

8.6

0.11

CMCダイセル2200

1.08

2

5.9

0.18

WSCA90

0.50

8

1.3

0.38

HECダイセルSE400

0.25

38

2.7

0.09

 

また, 3に静電容量C, 分極抵抗, CNT塗布量1mg当たりの静電容量Cの各順位を示す.

3 静電容量C, 分極抵抗, CNT塗布量1mg当たりの静電容量Cの各順位

順位

静電容量C

分極抵抗

CNT塗布量1mg当たりの静電容量C

1

CMCダイセル1260

CMCダイセル2200

WSCA90

2

CMCダイセル2200

CMCダイセル1260

ジェルナーQH300

3

酢酸セルロースL-50

酢酸セルロースL-50

CMCダイセル1260

4

ジェルナーQH300

WSCA90

HECダイセルSE850

5

HECダイセルSE850

CMCダイセル1220

CMCダイセル2200

6

CMC-Li

HECダイセルSE850

CMCダイセル1220

7

CMCダイセル1220

CMCダイセル1190

CMC-Li

8

WSCA90

CMC-Li

酢酸セルロースL-50

9

HECダイセルSE400

ジェルナーQH300

HECダイセルSE400

10

CMCダイセル1190

HECダイセルSE400

CMCダイセル1190

1に静電容量とCNT塗布量についての相関関係を示した.

1  静電容量とCNT塗布量の相関

 

4.     結論

  静電容量は, コンデンサーなどの絶縁された導体において, どのくらい電荷が蓄えられるかを表す量である. この数値が大きいほどより優れたキャパシターであると言えるが, 2を見てみると, 0.25μF1.10μFまでと大きな差が生じてしまっている. CMCの性能によってここまでの差がつくのは考えにくいため, まずは他の要素について考察した. スラリーの組成について, 1に示したとおり, CNT濃度はすべてほぼ等しいため, 結果を覆すような大きな誤差はここでは確認できない. しかし, 2CNT塗布量を見てみると, これも各スラリーによってかなりの差が生じている. そこで, 静電容量とCNT塗布量のふたつの数値について相関関係を調べた. すると, 1に示した通り, 1種類のCMCを除いて相関関係があることが見て取れた. つまり, 静電容量はCNT塗布量にほぼ比例していることがわかる. すなわち, CNT塗布量1mgあたりの静電容量の値が, CMCの性能を比較するには相応しい. 3に示した各順位を確認してみると, 案の定, 実測の静電容量とCNT塗布量1mgあたりの静電容量ではまったく異なる結果になった.

次に, 分極抵抗について述べる. 分極抵抗が小さいということは, 電気が流れやすいということであるが, 金属を錆びつかせやすいという欠点もある. したがって, 工業的にキャパシターを評価する上で, この値が小さければ小さいほど良いとは一概には言えないが, ここではCMCのみの評価を考えるため, 小さいほうが良いとする.

3から, 色を付けたCMCダイセル2200, CMCダイセル1260, WSCA903つのCMC, 分極抵抗, CNT塗布量1mgあたりの静電容量のいずれの値についても, 比較的良い結果となった.

 

5.     参考文献

 「最新工業化学」講談社(2004) 著:野村正勝, 鈴鹿輝男

「工業技術基礎」実教出版(2005) 著:小林一也, 山下省蔵

「現代の電気化学」新星社(1990) 著:小沢昭弥

 



[1] 「最新工業化学」講談社(2004) 著:野村正勝, 鈴鹿輝男