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🌡️ 📆 令和6年4月25日
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03. 3ボルト が生み出す洗剤と水素― 電気化学工業

山形大学  理工学研究科(工学系)  化学・バイオ工学科  🔋 C1 伊藤智博 📛 立花和宏

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水を水素と酸素に熱分解しようとしたら、2500度もの高温が必要だ。 電気を使えば、室温で乾電池をふたつ直列につなぐだけで、水素と酸素に電気分解できる。 電気化学工業でどういう化成品が作られているか、調べてみよう。


  1 348 電気化学工業
© K.Tachibana

  1   電気化学工業
物質
電解製造 電解採取 水溶液🏞 🧪 塩素 、 🏞 苛性ソーダ、 (食塩電解🏞水素 、 亜鉛
溶融塩🏞 アルミニウム
電解合成 水溶液 :二酸化マンガン
有機物 :アジポニトル
電解精製
電気透析 🏞 食塩

洗剤や漂白剤は液体の化学薬品がそのまま身近な生活に使われます。 温度と圧力で作ることができる液体や気体は灰汁やアンモニアです。 今やぼくらは電気の力を化学に使うことができる。 それが電解です。 加熱や加圧の 単位操作だけでは作れなかった化学薬品を手に入れましょう。

1 ) 2 )

1キロワットアワーの電力量で、できるモノ

  2   1キロワットアワー( kWh ) の電力量 で、できるモノ
モノ 価値 /円 質量 / g 体積 / cm3
電気 31 - -
二酸化炭素 廃棄物 (大気放出) 500 254545
アルミニウム ( 溶融塩電解 ) 24 75 27

固体は重量(トン)で価格を決めます。そのまま重量を測ることが多いです。 液体は体積(リットル)で価格を決めますが、液位を測ると便利です。 気体は体積( ノルマル立米)で価格を決めますが、ボンベの残量などは圧力(気圧)を測ると便利です。

電気は目にも見えず触れることもできないので計器で測るしかありません。 電力量(キロワットアワー)を、モノや価格と紐づけてイメージしましょう。

ファラデー定数は、電気量とモノの架け橋。96500C/molまたは、27kAh/molです。


ぼくらが生きていくために必要な 。 ナトリウムとカリウムのバランスが神経を伝わる電気信号に必要がなのだ。 なめてみれば海水に塩が含まれることがわかる。 しかし、この海水から塩を単離することは、容易ではない。 はるか太古から浴び続けた太陽の恵みによってできた岩塩を採掘するのもひとつの手だ。 しかし岩塩を算出しない日本では、海水を濃縮するのにさまざまな努力をしてきた。

化学実験Ⅰ

食塩、電気透析、イオン交換膜


天然資源の海水から作られる製品やサービス

  3   天然資源の海水を原料とする 製品サービス
製品やサービス 使い方
食塩 海水を電気透析して濃縮する。
ヨウ素
火力発電 ・ 原子力発電 低温原として使う。

海水から製塩で得られた食塩は、ソーダ灰、苛性ソーダ、塩素、塩素化応物を作る原料となります。 このような工業をソーダ工業と言います 3 )


先生:「工業の基本はコスト削減、効率アップ。 電気化学 で習った過電圧覚えてる?」
学生:「うーん・・・」
先生:「ちょうど 学生実験 分解電圧 とか 過電圧 とかの実験やっるんじゃない?」
学生:「そうそう言えば 分解電圧の実験 とかやってたかも」
先生:「最近じゃ、なんだか成人病の天敵みたいに言われている塩分だけどね、食塩は人間にとってなくてはならないものなんだ」
学生:「へえ」
先生:「 たばこと塩の博物館 行ったことある? 」
先生:「 給料(サラリー)と塩(ソルト)の語源は同じらしいんだ。 」
先生:「 岩塩 が取れるところならいざ知らず 温度で溶解度がほとんど変わらないから析出されるわけにいかず、 天日で水分を蒸発させるしかなかった。 」


210
塩田
©
赤穂市立海洋科学館@兵庫県赤穗市
学生:「なるほど」 現代の電気化学の第5章、工業電解プロセスの中のp.136にイオン交換プロセスというのがあるから見てみよう。
表5.1にイオン交換膜の応用というのがある。
図5.9には海水の 電気透析 の原理というのがあるね。
電気透析の原理 (出典: (株)サンアクティス

たばこと塩の博物館

  2 多重効用蒸発装置(たばこと塩の博物館)
©2018K.Tachibana
300
4 ) 5 ) 6 )

現代の電気化学5.4
5.10  イオン交換膜の応用
目的 用途
電解隔膜 イオン交換膜法食塩電解
アクリロニトリルの電解二量化
ウラニルUO2Cl2の電解還元
脱塩 工業用水の脱塩
海水、かん水からの飲料水の製造(小型)
乳製品の脱塩
紙・パルプ排水の処理、薬品回収
下水の再生利用
アミノ酸・糖類の生成、分離
塩の濃縮 海水からの 食塩製造
工業用水からの重金属の回収
電解質 酸素・水素燃料電池の固体電解質
SPE法水電解の固体電解質
拡散透析 鉄鋼酸洗廃液からの硫酸の回収
銅生成における硫酸と硫酸ニッケルの分離
最新工業化学 のp.168にもイオン交換膜について書いてあるから、要点をノートに書き写しておこう。 イオン交換膜法による製塩の工程をノートに描きなさい。
塩分濃度と導電率の関係のグラフをノートに描きなさい。

NaCl NaOH

セルとセル定数

  3 102 セルとセル定数
©K.Tachibana

平行平板電極であれば、
セル定数a=電極間距離d÷セル断面積S
です。 一般的には、導電率既知のKCl溶液などを使って、セル定数を較正します。

コンダクタンス=導電率
電気抵抗=抵抗率×長さ÷電極面積

導電率の測定では、 セル定数が必要です。


製塩の歴史と電気透析。 海水から食塩を取り出すのに、熱エネルギーを使うより、電気エネルギーを使った法がはるかに効率がいい。 これも 電気化学 で習ったね。

イオン交換膜を使ったカンスイの製造


スマホに必須のリチウム電池。資源のない日本はリチウムを輸入にたよっている。 リチウムの生産方法について調べ、日本発のリチウム電池工業が将来どうあるべきか論じなさい。

食塩電解ソーダ工業

  4 工業電解プロセス のエネルギー効率
プロセス アルミ
ニウム
溶融塩電解
食塩電解
電解精錬
亜鉛 電解採取
🏞 原料 食塩(岩塩)
製品 亜鉛
理論電気量 /kAh/t 2980 670 844 820
理論分解電圧 /V 4.17 2.2 0.1×10-3 2.0
アノード 電流密度/A/m2
単槽 電圧/V
電気量原単位 /kAh/t 3350 910
電解電力 電力原単位 ) /kWh/t 13400 2200 284 3000
電流効率
電圧効率
エネルギー効率 7 )
山下正通、小沢昭弥, 現代の電気化学, 丸善 , 工業電解プロセス p.125 , (2012). genden

理論分解電圧とは、アノードとカソードの平衡電位の差であって、槽電圧(浴電圧)をこれ以下に切り下げることはできません 。

8 )
  5 食塩電解
電解槽 Ti| RuO(DSA) | NaCl aq | イオン交換膜 | NaOH aq | Ni
アノード 反応 Cl2 + 2e-  ←    2Cl-Eº = 1.3583V
カソード 反応 2H2O + 2e-  →    2OH- + H2Eº = -0.8285V
全反応 2NaCl + 2H2O → 2NaOH + Cl2 +H2
理論分解電圧 e.m.f. = 2.1868V

食塩水を電解すると、塩素ガス、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、それに水素が得られます。 これを、工業的に食塩電解(chlor-alkali electrolysis)ソーダ電解、あるいは塩素・アルカリ電解と呼ばれます。 アノードにはチタンが使われますが、 塩素過電圧を小さくするために、触媒として酸化ルテニウムを被覆したものを使います。 9 ) 10 )

温度圧力ではなしえない電気エネルギーで、原料を酸化や還元し、 塩素水酸化ナトリウムを取り出すのが電解採取だ。 酸化を起こす電極を アノードと言い、還元を起こす電極をカソードと言う。 ソーダ工業と呼ばれるジャンルだ。 ソーダ工業は、電解ソーダ工業とソーダ灰工業からなる。電解ソーダ工業 の原料は食塩と電気だ。

ソーダ製品 には、塩素ガス、塩酸、 次亜塩素酸ソーダ、高度さらし粉、水素ガス、ソーダ灰などがある。 塩素や水素は気体なのでボンベにつめて出荷される。水酸化ナトリウムは強アルカリだ。 漏らすな、危険。

次亜塩素酸ソーダは、塩素系漂白剤に使われます。水道水の消毒にも欠かせません。

https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/54299/c1/C1_Project/jia.asp
https://www.jsia.gr.jp/description/
日本ソーダ工業会

電気分解に必要な電圧はそれほど高くないが、ファラデーの電気分解の法則の通り、生産量は電気量に比例する。 よって大量生産しようとすれば大電力を消費する。 また生産速度を上げようとすれば、多くの電流を流すことになる。 受電設備や電気配線の管理を正しく行う必要がある。


感電事故の事例を調べてひとつ選び、その対策について述べなさい。
http://www.t-tosoh-chem.jp/wp-content/uploads/2015/04/branding_1.jpg 東北東ソー化学株式会社

電気化学の分解電圧、 学生実験の分解電圧、 無機工業化学の電気化学工業 で取り上げた食塩電解の工場です。

  1. 山下正通、小沢昭弥, 現代の電気化学 , 丸善, p.137(2012).

    電気透析

  2. 野村正勝・鈴鹿輝男, 最新工業化学―持続的社会に向けて― , 講談社サイエンティフィク, , (2004).

    電解の化学

  3. 野村正勝・鈴鹿輝男, 最新工業化学―持続的社会に向けて― , 講談社サイエンティフィク, ,p.168 (2004).

    イオン交換膜

食塩水 塩素、 水素

アルカリと洗浄

洗剤を作るのになくてはならない 水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)。 これも 食塩水 の電気分解することなしにはまず作れない。 漂白剤に必要な塩素だって同じだ。 塩素が無ければ塩酸だって作れない。

出典: カビキラー
出典: アイポッシュ
マツバラ

ソーダ製品 の身近な応用例をひとつ選び、その製品にどれだけの電力が費やされているか概算で見積もりなさい。

ソーダ灰

アンモニアソーダ法(ソルベー法) 石灰石、水、アンモニア、 食塩 ガラス
NaCl H2O NH3 CaCO3 Na2CO3
  4 アンモニアソーダ法(ソルベー法)。 石灰石、水、アンモニア、食塩を原料に 炭酸ナトリウム(ソーダ灰)を製造。 ガラスの原料になります。
  6 46 温室効果ガス
温室効果ガス 地球温暖化係数 原因となる人間活動
二酸化炭素 1 エネルギー アンモニア 製造、ソーダ石灰ガラス又は 鉄鋼製造ソーダ灰の製造、 エコキュート
メタン 25 稲作など
一酸化二窒素(亜酸化窒素)N2O 298 廃棄物等の焼却もしくは製品の製造 の用途への使用・廃棄物燃料の使用
HFC(R32) 675 最近の エアコン ネオキュート エコワン
HFC(R410A) 2090 古い エアコン

熱サイクルでは、冷媒を必要とします。


水電解と燃料電池―再エネを使った水素のの循環―

白金のコバルト合金。

エネルギー貯蔵のための電気化学。 電池は電気エネルギーを化学エネルギーたくわえるデバイス(無機工業化学)。 乾電池、燃料電池、リチウム電池といろいろな電池が使われてきた(エネルギー変換特論)。

水電解に必要なエネルギー

  5 水電解に必要なエネルギー

水を水素と酸素に熱分解しようとしたら、2500度もの高温が必要です。 電気を使えば、室温で乾電池をふたつ直列につなぐだけで、水素と酸素に 電気分解できます。

25℃、1atmでの 平衡電位の差を理論分解電圧と言い、1.23Vです 11 ) 。 理論分解電圧は、自由エネルギーより計算され、理論稼働電圧は、 エンタルピーから計算されます 12 )


化学実験Ⅰでは、下記の実験をやっていますね。


水酸化ナトリウム水溶液の分解電圧(電流‐電圧曲線)

  6 水酸化ナトリウム水溶液の分解電圧(電流‐電圧曲線)
©T.Ito, C1

アノード、カソードに 白金を使って、水酸化ナトリウム水溶液を分極した電流‐電圧曲線です。 化学実験Ⅱの予備実験では、分解電圧は1.75Vでした。 そこから水の理論分解電圧を差し引いた過電圧は0.49Vでした。

水電解です 13 ) アノードの析出物質は、酸素で、 カソードの析出物質は、水素です。 ナトリウムイオンは、電気を流す支持電解質で、電気分解には関与しません。


  7 水酸化ナトリウム水溶液の電気分解
電池式 Pt | NaOH | Pt
アノード 反応   O2 + 2H2O + 4e-  ←    4OH-Eº = 0.401V
カソード 反応 2H2O + 2e-  →    2OH- + H2Eº = -0.8285V
全反応 2H2O → 2H2 + O2
理論分解電圧 Eº = 1.229V

pHが変わっても、水の理論分解電圧は変わりません。


電解合成

セラミックスを合成しようとしたら、1000度もの高温が必要だ。 電気を使えば、室温で酸化物が合成できる。 しかもたとえば電解合成した二酸化マンガンを乾電池の材料に使うと性能があがる。


野村正勝・鈴鹿輝男 最新工業化学―持続的社会に向けて― 講談社サイエンティフィク 目次
松林光男、渡辺弘, イラスト図解 工場のしくみ ,日本実業出版社
山下正通、小沢昭弥, 現代の電気化学, 丸善 , 目次 (2012). 14 )


電解合成によって製造される化成品をひとつ選び、その応用例について紹介しなさい。

参考文献


無機工業化学

QRコード
https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/Public/53202/53202_03.asp
名称: 教育用公開ウェブサービス
URL: 🔗 https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/
管理運用 山形大学 学術情報基盤センター

2024年1月21日 松木健三名誉教授がご逝去されました。

名称:C1ラボラトリー
URL:🔗 https://c1.yz.yamagata-u.ac.jp/
管理運用
山形大学 工学部 化学・バイオ工学科 応用化学・化学工学コース
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