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格子エネルギーの求め方
無機固体化学
の単元です。
小単元
概要
@計算で求める方法
<準備5> 右のようなイオン間に働くエネルギー@とAはどんな成分
からなっているか?
答:@は静電引力ポテンシャルと近接反発ポテンシャルの合計
Aは静電斥力ポテンシャルと近接反発ポテンシャルの合計
☆ ここでは例としてNaCl結晶の格子エネルギーを計算してみる。
まず、2個のイオンが距離dだけ隔たっているとき、ポテンシャル(V)は
(異符号ならマイナス、同符合ならプラス)である。今、上の図の1個のNa+イオンに着目し、最も近いCl−イオンまでの距離をdとすると、dの距離に6個のCl−(引力)、√2dの距
離に12個のNa+(斥力)、√3dの距離に8個のCl−(引力)… 以下ずっと続く。
すべて合計すると、
となる。
上の式の括弧の中は、数学的に計算の順序を変えるなどすると収束し、1.74756という値になる。
これを「塩化ナトリウム型のマーデルング定数(Madelung constant)」という。マーデルング定数は結
晶構造にのみ依存する。(物質が異なっても、結晶構造が同じならマーデルング定数は同じ)
結晶構造 NaCl型 CsCl型 閃亜鉛鉱型 螢石型 ウルツ鉱型
マーデルング定数 1.74756 1.76267 1.63806 2.51939 1.64132
すなわち、アボガドロ数をN、マーデルング定数をMとすると、静電ポテンシャルだけの総和(VL)は、
となる。
つぎに、近接反発ポテンシャル(VR)を考慮する必要があるが、これは定式化が難しいため、静電ポテン
シャルと近接反発ポテンシャルを一緒にしたもので良く知られたもののひとつ(経験式)がBorn-Mayer
式と呼ばれるものである。次式にはすでに近接反発ポテンシャルの補正が組込まれており、U0が格子エ
ネルギーに相当する。
ここでρは31.0〜38.4pmの値をとるが、ハロゲン化アルカリでは34.5pmである。
Born-Mayer式をさらに簡単にしたものが下のKapustinskiiの式である。
ここでνは化学式あたりのイオン数。NaClなら2。
NaClについて計算すると、d=281pmなので、Born-Mayer式とKapustinskii式からそれぞれ759, 758kJ/mol(発熱)という値が得られる。
☆ 結局化学式がわかれば格子エネルギーを見積もることができるわけであるが、そこに至るプロセスを
一度理解していただきたい。
A実験値から求める方法(ボルン・ハーバーサイクル)
これには右のサイクルを想定する。
すなわち、金属Naと塩素ガスからNaCl
が生成するエネルギー(僣)は、NaとCl2を
原子にし、イオンにし、そして結晶にするという
ルートを経たエネルギー収支と一致するという
ものである。
僣 = 僣sub + EI + 1/2DCl-Cl - EA - UNaCl
ここで、僣subはNa金属の昇華エネルギー、
EIはイオン化エネルギー、DCl-ClはCl2の結合
(解離)エネルギー、EAは電子親和力(符号に
注意)、UNaClはNaClの格子エネルギー(符号に注意)である。NaClの場合(単位はkJ/mol)僣=-411、
僣sub=107.8、EI=495.4、EA=348.8、DCl-Cl=242.6だから、UNaCl = 786.8kJ/molが得られる。計算
で求めた値との差は5%程度であり、非常に良いというべきである。