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O2−イオン伝導体とその応用
無機固体化学
の単元です。
小単元
概要
☆ O2−イオン伝導体は、自動車のエンジンに供給する燃料/空気混合ガスの比率などを検知する「酸素濃度センサー」や、高効率次世代発電システムとして期待されている「固体電解質燃料電池」の発電素子など、様々な応用がある。O2−イオン伝導体には様々な物質があるが、本講義では中でも代表的な「安定化ジルコニア」を取り上げる。
例:安定化ジルコニア(組成:酸化ジルコニウム(ZrO2)に
CaOまたはY2O3を数%固溶したもの)
構造:螢石型構造(右図)から部分的にO2−イオンが
抜けた構造。
☆ O2−イオンが伝導するしくみ:
純粋なZrO2はO2−イオン伝導体ではない。しかし、
これにCaOを固溶させると下記のようは反応式に
したがって「O2−イオン空孔」ができる。
これに電圧をかけると、正極の方向にO2−イオンが
移動する(空孔は反対側に動く)。
VOはO2-空孔
確認:陽イオン:(陰イオン+空孔)の数はいくらか。また電荷の中性は保たれているか?
注意:ZrとCaはそれぞれ+4、+2価の酸化状態しか取ろうとしないので、先週まで話した「原子価制
御」が起こらない。従って、単に陽イオンに対する不足分だけO2−イオン空孔ができる。
☆ O2−イオン伝導体を作る目的では、Ca/(Zr+Ca)が0.15〜0.20程度までCaOを固溶させる。
☆ 室温ではほどんどO2−は動けないが、温度上昇に伴って導電率が上がり、1000℃では1Sm-1程度
の導電率を示す。
☆ 安定化ジルコニア発見の経緯(補足)
純粋なZrO2は融点が2670℃と高く化学的にも安定なので、耐火レンガなどの用途には最適である。しかし、ZrO2の結晶構造は理想的な螢石型構造ではなく、室温では(Zr4+イオンが0.98Åと小さすぎるために)やや歪んでいる(単斜晶)。これは1100℃以上では正方晶になり、2400℃以上ではじめて立方晶の理想的な螢石型構造になる。従って純粋なZrO2の塊を加熱・冷却すると単斜晶⇔正方晶⇔立方晶の移り変わりの時に体積が急激に変化するために、やがて自分自身でぼろぼろに壊れてしまうという欠点があった。