技術者倫理

エネルギー、電気、磁気、電磁波、放射能、ウイルス、ゲノム。

いずれも、見ることも聞くこともできません。それらは、人間が直接認知することができない存在です。 でも、人間は、その認知できない存在を、科学の力で、発見しました。 そして、その発見から、役立つモノを、技術の力で、発明しました。 さらに、その発明を、工学の力で、工業製品にしました。

でも、工業製品を使うのは、人間です。 使う人間によって、よいことも悪いことも起こります。 直接認知できないからこそ、悪いことに気づかず、取り返しのつかなくなることもあります。

上の、人間が認知できない存在から、ひとつ選び、どうやって発見したかを調べてみましょう。 次に、その発見から、どんなモノを発明したか、ひとつ選び、調べてみましょう。 そして、その発明が、どんな工業製品となったか、身近な例をひとつあげてみましょう。 さらに、その工業製品が、目に見えない存在を利用していることで、どんな負の側面をもっているか、考えてみましょう。

最後に、技術者として、その負の側面を抑え込むために、研究開発の指針をどうすればいいか、報告書として提案してみましょう。


===例===

題目:目に見えない電磁波と電波資源の枯渇

科学の力で発見した、目に見えない存在として、電磁波を選んだ。

電磁波の発見

マクスウェルによって、その存在が予言されていた電磁波を発見したのは、ヘルツであった。 ヘルツは、強力な電磁波を発生させ、アンテナに火花を飛ばせてみせた。 ヘルツが行った実験を一言で言い表すなら、「目に見えない電磁波を目に見える形に変えた」ということだ。 当時のインタビューで、この発見が人類にどう役立つのかと問われて「たぶん、何の役にも立たない」と答えたと伝えられている 1 )

無線電信の発明

20才のマルコーニは、 ヘルツの実験に関する記事を読んで、ひとつの着想が浮かんだ。「ヘルツの電波を利用したら、無線通信が可能なのではないだろうか?」 ヘルツが「役に立たない」と思った電波を使って、無線通信機を発明したのは、マルコーニだった 2 )

工業製品としてのスマートフォン

無線通信機は、発展を続けた。今日、無線通信機は、工業製品として身近なモノになっている。 そのひとつとしてスマートフォンがある。 2019年における世帯の情報通信機器の保有状況をみると、「モバイル端末全体」(96.1%)の内数である「スマートフォン」は83.4%となり初めて8割を超えた 3 ) 。 これは、発明が工学によって、工業化され、文化に至った例と言えよう。

負の側面としての電波資源の枯渇

しかし、無線通信機の大量生産による電波利用は、電波資源の枯渇を招いた。 目に見えないがゆえに、電波そのものが理解されにくい上、電波資源が枯渇しかけていることが認知されにくい。 電波資源の枯渇の対策として、 周波数を効率的に利用する技術、周波数の共同利用を促進する技術、高い周波数への移行を促進する技術などがある 4 )

技術者としての研究開発指針

高い周波数へ移行する技術としては、5Gがある。 5Gの商用サービスが2020年3月から日本でも始まった。 NTTドコモ 5 ) 、 KDDI 6 ) 、ソフトバンクの大手3社が5G商用サービスを開始しており、5G対応のスマートフォンも発売された。 しかし、5Gサービスで使われる電磁波であるミリ波 7 ) に適合するためには、無線通信機の回路基板の絶縁材料の誘電損失を少なくする必要がある。 低誘電損失材料としては、テフロンや液晶ポリマーが知られているが、 さらなる低伝送損失の樹脂材料を研究開発することがひとつの指針と考えられる 8 )

しかし、5Gを使えば、電波資源枯渇が完全に避けられるというわけではない。 アメリカの空港周辺で2022年1月19日から始まる「5G」のサービスをめぐり、航空システムに支障が出るおそれがあることから、通信会社はサービスの開始を一部延期すると発表した 9 ) 。 5Gで使うミリ波は、飛行機の高度計でも使われていたからだ。 技術者として研究開発するばかりでなく、ユーザーに電波に対する理解を深めてもらうための啓蒙活動もしていく必要があると考えられる。


参考文献