ヴィクトル・ユーゴーが著した『レ・ミゼラブル』という小説があります。
幼い家族のために、一切れのパンを盗み、投獄されたジャンバルジャンは、捨て鉢になり、泊めてもらったミリエル神父の教会から、銀の燭台を盗み出します。 警察に捕まったジャンバルジャンに、ミリエル神父は、「それはあなたに差し上げたものです」とにっこり笑います。
法の番人ともいえるジャベール警部は、執拗にジャンバルジャンを追いかけ続けます。 そのジャベール警部が革命軍に捕らえられて処刑されそうになるところを、ジャンバルジャンが救います。 ジャベール警部は、懊悩の末、セーヌ川に身を投げます。
フランス革命。絶対王政から民主主義へ移行するのに多くの血が流れました。
絶対王政では、君主がすべての権利を持ち(専制政治)、法を取り締まる国家権力として、強い警察権が発動されます。 民主主義では、国民が主権を持ち、ほとんどは国民の倫理に委ねられ、「最低限度の規範」だけが、国民から信託を受けた国政が法として定めます。
そのような背景にあって、ジャベール警部がなぜ自殺したのか、その心情を想像し、主権在民における法と倫理の関係について考えてみましょう。そして、「レ・ミゼラブル」を参考に法と倫理を考える短いお話を創作してみましょう。
※できれば原作や完訳本を読むことをお薦めしますが、映画などや、あるいはネットのあらすじからでもかまいません。
ジャベール警部は、法律の番人として、法律を守ることが正義と信じ、それを生き甲斐としていた。 しかし、その法律を定める政体が、専制君主制から共和制へとかわり、 もともと法律は、倫理に従うべきものであることに気がついた。 そして、それまで犯した倫理的過ちに思い至り、それを償うために、自らの命を犠牲としたのではないかと思われる。
「レ・ミゼラブル」を参考に、法と倫理の関係について考える、短いお話を創作した。
山と薬草
Aさんには、怪我をした家族がいました。
Aさんが、薬草を探しに、山に入り、やっと薬草を見つけました。 Aさんは、家族のために薬草をとりました。
そこへBさんがあらわれました。 Bさんは、「ここは俺の山だ、薬草泥棒め!」と言いました。
そこへさらにCさんがあらわれました。 Cさんは、「ここは私の山です、薬草は、Cさんに差し上げます」と言いました。
薬草は、BさんとCさんの土地の境界近くに生えていたようです。 BさんとCさんは、土地の境界をめぐって口論をはじめました。
Aさんには、土地の境界線など、どこにも見えませんでした。 Aさんは、土地の境界線を決めたのは誰だろうと不思議に思いました。
BさんとCさんは、揉み合いになり、怪我をしてしまいました。
Aさんは、怪我をしたBさんとCさんに、薬草をつけてあげました。 Aさんは、怪我をした家族のために、持ち帰る薬草はなくなりました。
Bさんは「薬草は俺のものだ、薬代を払え」とCさんに言いました。 Cさんは「薬草は私のものです。薬代を払ってください」とBさんに言いました。 BさんとCさんは、怪我をしているので、揉み合いにはなりませんでしたが、口論は一層激しさを増しました。
そのうちBさんは、「おまえが、薬草見つけたのが悪い」と、Aさんに詰め寄りました。 Cさんも、「あなたが、薬草見つけたのが悪いのです」と、Aさんに詰め寄りました。
ついに、BさんとCさんは、薬代といってAさんからお金を巻き上げました。 苦労して薬草を見つけたAさんは、逃げ帰るのがやっとでした。