IoTによる稲の水耕栽培用自動水やり装置の開発
著者:伊藤智博
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ステータス
時刻: 2017/9/3 10:00 , 温度T=26.5 ℃ , 照度E=28,922.4lx , 電流I=1.6 uA
はじめに
日本の農業者人口は減少,高齢化が進んでいる.特に,米の買取価格の下落によって後継者不足になっている. 食糧統計年報によると,米の買取価格と高等学校卒業後の初任給の比は,1976年では5.1だったのが,2014年には14.6となっている(図1-1)1.
植物にはケイ酸を吸収する機構があり,稲も同様に計算を吸収する2. 特に稲ではケイ素が少ないと収穫量が減ることが知られており2,水耕栽培で与える肥料にはケイ素が必要である.
2015年5月に撮影した田圃写真には,左側に荒地になって現在耕作不可能な田圃が,右側に現在も耕作可能な田圃が写っている. 1970年から開始された米の生産調整により,米から麦や豆への転作がなされた. しかし,転作奨励金の減少などにより,耕地整理がなさえていない生産性の悪い田圃は,休耕田・耕作放棄が増え,現在はこのような荒地になった耕作不可能な田圃が増えつつある.

著者らは,イネの水やりをフロートスイッチによって実現した(引用文献(2016)). しかし,フロートスイッチは,接触不良により正常に動作しないことが多かった.
導電率計を使って水量を図ろう.水が無くなり,導電率計に水が降れていなければ,導電率σが0になる. 水道水の導電率σは10~20 mS/mである.セル定数a=100 m-1の導電率計では,7 mVrms(20mVp-p)の電圧を印加したとき,0.7~1.4 µAの電流が流れる. 水耕栽培用の肥料水の導電率σは,水道水の数倍程度の導電率を有すると予測される.
本研究では,導電率計を水量プローブとして使用した自動水やり装置の開発を試みる.
実験
準備するもの
- キノマクリエイト V1
- 温度センサー(LM61BIZ;秋月電子購入)
- 水耕栽培キット(グリーンファーム, UH-A01E1,株式会社ユーイング)
- エイ・アイ・エス 19Φスチールラックセット(MSR-6012DBR,幅60×奥行35×高さ120.5cm)
- プラテック BUB水缶 コック付 12L
自動水やり装置主回路部品
下の表に自動水やり装置主回路の電子部品リストを示す.
記号 | 名前 | 規格 |
---|---|---|
C1 | フィルムコンデンサ | 10nF; 100Vdc |
C2 | フィルムコンデンサ | 10nF; 100Vdc |
C3 | 積層セラミックスコンデンサ | 0.1uF; 50Vdc |
C4 | 積層セラミックスコンデンサ | 1uF; 50Vdc |
C5 | 積層セラミックスコンデンサ | 0.1uF; 50Vdc |
C6 | 積層セラミックスコンデンサ | 0.1uF; 50Vdc |
C7 | 積層セラミックスコンデンサ | 0.1uF; 50Vdc |
C8 | タンタルコンデンサ | 10uF; 25Vdc |
C9 | タンタルコンデンサ | 10uF; 25Vdc |
C10 | 積層セラミックスコンデンサ | 0.1uF; 50Vdc |
C11 | 積層セラミックスコンデンサ | 1000pF; 50Vdc |
D1 | ダイオード | 1SS1588 |
D2 | ダイオード | 1SS1588 |
D3 | ダイオード | 1SS1588 |
D4 | ダイオード | 1SS1588 |
PL1 | コネクター | MOLEX 5045-02A |
PL2 | コネクター | MOLEX 5045-03A |
R1 | 抵抗 | 16k;1/8W; 金属皮膜 |
R2 | 抵抗 | 16k;1/8W; 金属皮膜 |
R3 | 抵抗 | 20k; 1/8W; 金属皮膜 |
R4 | 抵抗 | 10k; 1/8W; 金属皮膜 |
R5 | 抵抗 | 100; 1/8W; 金属皮膜 |
R6 | 可変抵抗 | 100k; 10回転 |
R7 | 抵抗 | 100; 1/8W; 金属皮膜 |
R8 | 抵抗 | 10k; 1/8W; 金属皮膜 |
R9 | 抵抗 | 10k; 1/8W; 金属皮膜 |
R10 | 抵抗 | 10k; 1/8W; 金属皮膜 |
R11 | 抵抗 | 10k; 1/8W; 金属皮膜 |
R12 | 抵抗 | 10k; 1/8W; 金属皮膜 |
R13 | 抵抗 | 10; 1/8W; 金属皮膜 |
R14 | 抵抗 | 10k; 1/8W; 金属皮膜 |
R15 | 抵抗 | 100; 1/8W; 金属皮膜 |
R16 | 抵抗 | 100; 1/8W; 金属皮膜 |
R17 | 抵抗 | 5.1k; 1/8W; 金属皮膜 |
R18 | 抵抗 | 10k; 1/8W; 金属皮膜 |
R19 | 抵抗 | 10k; 1/8W; 金属皮膜 |
R20 | 抵抗 | 10k; 1/8W; 金属皮膜 |
R21 | 抵抗 | 10k; 1/8W; 金属皮膜 |
R22 | 抵抗 | 100; 1/8W; 金属皮膜 |
R23 | 抵抗 | 100; 1/8W; 金属皮膜 |
TP1 | テストポイント | マックエイト; LC-2-G 橙 |
TP2 | テストポイント | マックエイト; LC-2-G 橙 |
TP3 | テストポイント | マックエイト; LC-2-G 橙 |
TP4 | テストポイント | マックエイト; LC-2-G 橙 |
TP5 | テストポイント | マックエイト; LC-2-G 橙 |
TP6 | テストポイント | マックエイト; LC-2-G 橙 |
U1 | 4回路入オペアンプ | TI; TL074; DIP14 |
U2 | 2回路入オペアンプ | AD; OP270FZ; DIP8 |
電磁弁(ソレノイドバルブ)駆動制御回路の部品
下の表に電磁弁(ソレノイドバルブ)駆動制御回路の電子部品リストを示す.
記号 | 名前 | 規格 |
---|---|---|
D201 | ダイオード | 1SS1588 |
D202 | ダイオード | UF5402 |
PL3P | コネクターピン | HIROSE DF1E-2P-2.5DS |
PL4P | コネクターピン | HIROSE DF1E-2P-2.5DS |
R201 | 抵抗 | 100; 1/8W; 金属皮膜 |
R202 | 抵抗 | 1k; 1/8W;金属皮膜 |
Q201 | n-チャネル MOS-FET | 2SK2410 |
主回路制御用電源回路の部品
下の表に主回路制御用電源回路の電子部品リストを示す.
記号 | 名前 | 規格 |
---|---|---|
C301 | 電解コンデンサ | 100uF; 25Vdc |
C302 | 積層セラミックスコンデンサ | 0.1uF; 50Vdc |
C303 | 電解コンデンサ | 100uF; 25Vdc |
C304 | 積層セラミックスコンデンサ | 0.1uF; 50Vdc |
C305 | 電解コンデンサ | 100uF; 25Vdc |
C306 | 電解コンデンサ | 100uF; 25Vdc |
C307 | 電解コンデンサ | 100uF; 25Vdc |
DC301 | DC-DCコンバータ | NMH0515S |
L301 | インダクター | 100uH |
L302 | インダクター | 100uH |
PL5 | コネクターピン | HIROSE DF1E-2P-2.5DS |
セルおよび電磁弁の接続回路の部品
下の表にセルおよび電磁弁の接続回路の電子部品リストを示す.
記号 | 名前 | 規格 |
---|---|---|
PL1H | コネクターハウジング | Molex 51191-0200 |
PL3S | コネクターソケット | HIROSE DF1E-2S-2.5C |
SV1 | 電磁弁 | 12V駆動; LV440 |
12V ACアダプターおよび鉛蓄電池受電回路の部品
12V ACアダプターおよび鉛蓄電池受電回路の電子部品リストを示す.
記号 | 名前 | 規格 |
---|---|---|
F401 | ヒューズ | 1.0A;250V |
J401 | DCジャック | MJ-10 |
J402P | 丸型コネクタピン | HIROSE HS12P-2 |
J402R | 丸型コネクタレセピタブル | HIROSE HS12R-2 |
種もみの入手
実家からコユキモチの種もみを入手した.種もみは,塩取(塩水による比重処理)および消毒処理が完了したものあった.
水量検出回路のブロックダイヤグラム
下図に水量検出回路のブロックダイヤグラムを示す. 図に左側の発信器(オシレータ)は1 kHzの正弦波を発生した. 発生された正弦波は,アッテネータによって7 mVrms(20mVp-p)まで減衰した. 7 mVrmsがプローブに印加され,1 kΩの電流検出抵抗を介して,グラウンドに流れた. 電流検出抵抗の電圧をボルテージフォロワーで検出し,前段の加算回路に入力するフィードバック回路を取り付けた. このフィードバック回路によって,プローブに印加される電圧を一定に保った. 電流検出抵抗の電圧は,52倍のアンプによって増幅され,検波回路によって整流した. 整流した信号は10倍のアンプで増幅され,ローパスフィルター(fc=15.6 Hzによって平滑した. 平滑化された信号は,IoTデバイスであるキノマクリエイトに入力し,インターネットを介して本学のデータベースに送信される.
データベースでは送信したデータを記録とIoTデバイスへの制御命令を送信した.

水量検出回路の設計




結果
自動水やり装置
下図に自動水やり装置の写真を示す. 水量センサーである導電率計を外したとき,電流I=1 uAの電流が流れた.
ラックに積み込んだら,照度が10分の1に減った. 稲の生長に合わせて高さを変えるように,水耕栽培キットのLED部分を40cm程度高くした.照度が13000lxから1000lxまで減少した. このままでは照度不足で生育に悪影響を及ぼす可能性が高い.急ぎ,窓際に移設した.窓際に移設したら,照度が10000lxになった.

自動計測記録
自動水やり装置の水量計測
下図に苗を稲の自動水やり装置に搭載した導電率計に流れた電流の記録を示す.
自動水やり装置の照度計測
下図に苗を稲の自動水やり装置の照度記録を示す.
自動水やり装置の温度計測
下図に苗を稲の自動水やり装置の温度の記録を示す.
結論
参考文献
- 1.米穀 政府買入価格, 食糧統計年報, URL=http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001065026
- 2.山地 直樹, 馬 建鋒,"イネのケイ酸吸収機構",化学と生物, Vol. 44, No. 7 pp. 453-458 (2006). URL=https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/44/7/44_7_453/_article/-char/ja/