
はじめに
日本の農業者人口は減少,高齢化が進んでいる.特に,米の買取価格の下落によって後継者不足になっている. 食糧統計年報によると,米の買取価格と高等学校卒業後の初任給の比は,1976年では5.1だったのが,2014年には14.6となっている(図1-1)1.
植物にはケイ酸を吸収する機構があり,稲も同様に計算を吸収する2. 特に稲ではケイ素が少ないと収穫量が減ることが知られており2,水耕栽培で与える肥料にはケイ素が必要である.
2015年5月に撮影した田圃写真には,左側に荒地になって現在耕作不可能な田圃が,右側に現在も耕作可能な田圃が写っている. 1970年から開始された米の生産調整により,米から麦や豆への転作がなされた. しかし,転作奨励金の減少などにより,耕地整理がなさえていない生産性の悪い田圃は,休耕田・耕作放棄が増え,現在はこのような荒地になった耕作不可能な田圃が増えつつある.

本研究では,主食であるコメの自給自足を可能にするために,IoTを活用して簡単に稲の水耕栽培を実現するための条件を模索する.
実験
準備するもの
- 紙おむつ(パンパース,パンパースのはじめての肌へのいちばんMサイズ
- たれびん(100円均一,ダイソー製)
- 使い捨てパーティカップ(100円均一,ダイソー製)
- ハンガー(100円均一,ダイソー製)
- クレラップ
- 電池がどれでもライト(panasonic製, BF-BM10)
- 種籾(コシヒカリ)
- 0.01% HB-101水溶液(HB-101を1滴,200mLの水に滴下して調製した.)
- キノマクリエイト
- 温度センサー(LM61BIZ;秋月電子購入)
- 水耕栽培キット(グリーンファーム, UH-A01E1,株式会社ユーイング)
実施手順
実家の田圃にて,コンバインでの刈り取りのとき,こぼれた穂を採取した. 穂をハンガーに取り付けて,3日間,研究室で乾燥した.
結果
種籾準備
図2にコンバインでの刈り取りのときこぼれた穂を示す. このような穂を20個ほど集めてきて,図3に示すようにハンガーに穂を取り付けて研究室で乾燥した.


種籾の芽だし
種もみの芽だしは,1週間程度,水に浸す. このとき,朝と夕方に水の交換を行い酸欠にならいようにした. 最後の芽だしは,お風呂の残り湯(約30℃~35℃)に9時時間浸し,加温した.
12/18 種もにを水に浸す,冷蔵庫で保管,芽は出ていない. 12/21 9:30ごろ,水を交換,冷蔵庫で保管,芽は出ていない. 12/21 夕方(帰宅前),水を交換,冷蔵庫で保管,芽は出ていない. 12/22 8:55,水を交換,冷蔵庫で保管,芽は出ていない. 12/22 夕方(帰宅前),水を交換,冷蔵庫で保管,芽は出ていない. 12/24 9:30ごろ,水を交換,室温で保管,芽は出ていない. 12/24 夕方(帰宅前),水を交換,室温で保管,芽は出ていない. 12/25 9:30ごろ,水を交換,インキュベータ(25℃)で保管,芽は出ていない. 12/25 夕方(帰宅前),水を交換,休みなのでアパートで継続研究,芽は出ていない. 12/26 0:00ごろ,風呂の残り湯(約30℃)に浸して保管,芽は出ていない. 12/26 9:30ごろ, 1mmぐらいの芽が出ているのを確認.この時点で種もみを取り出した.写真 12/26 17:30ごご,2mmぐらいに芽が伸びていることを確認,室温 24.6°C.写真
紙おむつ培地準備と種まき
図4に紙おむつの解体写真を示す.綿と粉のような部分に分けられ,図5に示すようにパーティカップに取り出した. 図6に,図5のパーティカップに水を注ぎ,紙おむつの吸水性高分子が水を吸い込んだようである. 水を注いだら,綿の部分は予想以上に膨らんだので,3つのカップに分けた. 一方,粉の部分は,予想以上に柔らかくなったので,3つのカップを2つにわけ直した.?




発芽からの成長記録







2015/12/31の夕方,芽が伸びてきたので,それぞれのパーティカップに1mLの0.01%HB101水溶液を加えた. (記録)



実験を継続するために,冬休み中はアパートで栽培していたパーティカップの2つを研究室に移動してきた.笹原デンキから買ってきたLEDアレー(12V駆動)を使って光照射を行った(図17).


図20に,アルミホイルでパーティカップを囲み,LEDの光を漏れないようにした. さらに,LEDの光照射時間を制御するために,タイマーを取り付けた. LED点灯時間帯は,5:30~18:30とした. この時間帯は,米沢の4月下旬から5月のハウスによる苗の栽培時期の日照を考慮して決定した.




図24にLM61の出力のローパスフィルター(LPF)の有りと無しによる温度グラフを示す. 横軸は,2016/01/05 14:48:51より前の時間tの値であり,単位は秒である. 縦軸は,LM61の電圧出力を温度に換算したとき温度の値であり,単位は,°Cである. LM61にLPFを取り付けた時間は,1200秒前(t=-1200)であり,それ以後,ノイズレベルが小さくなっているのがわかる. LPF取り付け前は,8℃p-pのノイズがあったが,LPF取り付け後は,0.3℃p-p程度に減少した.

2016/1/6午前,朝のアパートでの稲の水耕栽培の写真は,Google+に記録した. 茎は4cm程に成長しているようだが,根は,成長がみられず,1cm程度であった.種籾または根の周りに,白い綿のような影が観察された. アパートで栽培している3つの培地の1つを研究室に移動することにした.
研究室に移動した培地は,移動時に外気に触れて冷やされたので,クレラップが結露していた. 図25に示すように,移動してきた培地の吸水性高分子の部分を紙で覆った. 土を培地に使った場合,光は遮光されている.吸水性高分子では遮光されにくい. この違いが根の生長に影響するか確かめたいのである.

2.栽培環境の温度計測
図2-1に苗を栽培している部屋の室温を示す.部屋の室温は最低で17°C,最高で24°Cであった. この部屋の室温は,IoTによる子育て支援のキノマクリエイトが測定したデータを元に1時間の平均室温を求め,プロットしたものである.
図2-2に苗を栽培している研究室の水耕栽培キットの温度を示す. 測定開始は2016/1/4 16:00からである.縦軸の温度[°C]は,1時間の平均値をプロットしたものである. 研究室では日中は暖房を入れているので,24°Cを示し,夜は14°Cまで冷え込むようである.
結論
紙おむつの吸水性高分子を使用して,稲の種は発芽する.
あとがき
子育てをしながらの稲の栽培に関する冬休みの自由研究はこの辺までですね.引き続き来年にバージョンアップをしていきます.
参考文献
- 1.米穀 政府買入価格, 食糧統計年報, URL=http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001065026
- 2.山地 直樹, 馬 建鋒,"イネのケイ酸吸収機構",化学と生物, Vol. 44, No. 7 pp. 453-458 (2006). URL=https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/44/7/44_7_453/_article/-char/ja/