20170406 蓑虫コードの抵抗と銅線における酸化被膜の厚み

緒言

学生実験の準備中、実験に用いる蓑虫コードの抵抗値を測ったところ、1Ωを超えるものがあった。蓑虫コードには銅線が使われているが、銅の抵抗率を「物理図録」(数研出版、2013)で調べてみると、0℃で1.55×10^(-8)Ω・mだった。コードは1m未満であり、抵抗値は文献値より大きいことがわかった。
どうしてこうなったのか他の4年生と議論したところ、銅線が酸化しているのではないかという意見が出た。そこで、銅線がどの程度酸化しているか求めるため、コードの抵抗値を酸化銅(II)の抵抗値と見なして銅線の酸化被膜の厚みを計算した。

手順

1.蓑虫コードを1つ選び、抵抗値、蓑虫クリップと接触している銅線の長さと直径を測定する。
2.酸化銅(II)の抵抗率を仮定し、抵抗値の式R=ρCuO(l/s)に測定値を代入してlを求める。
R:抵抗値(Ω) ρCuO:CuOの抵抗率(Ω・m) l:酸化被膜の厚み(m) s:銅線(より線)の面積(m^2)

結果

CabinetID:88にある蓑虫コードから1つを選び、抵抗値をテスターで、蓑虫コードの長さ、蓑虫クリップと接触している銅線の長さと直径をノギスで測定した。値を表1に示す。
表1 蓑虫コードの測定値
抵抗値(Ω)1.5
蓑虫コードの長さ(mm)340
蓑虫クリップに接触した銅線の長さ(mm)5
銅線の直径(mm)0.09
CuとCuOの抵抗率を文献より表2の通りに仮定し、式R=ρ(l/s)に代入してlを求めた。
表2 CuとCuOの抵抗率(Ω・m)
Cu1.67×10^(-8)
CuO1≦ρCuO≦10
出典:KOBELCO神戸製鋼「No.11 銅合金板条の表面処理」 http://www.kobelco.co.jp/alcu/technical/copper/1174605_12414.html
なお、Cuの抵抗率は、式ρ=ρ0(1+αt)より、
1.67×10^(-8)=1.55×10^(-8)×{1+4.39×10^(-3)t}
t=17.5(℃)
における値である。
ρ:Cuの抵抗率(Ω・m) ρ0:0℃におけるCuの抵抗率(Ω・m) α:Cuの温度係数(/K) t:温度(℃)
ρ0、αは「物理図録」(数研出版、2013)より引用した。
これらの値より、ρCuO=1Ω・mにおいては
R=ρCuO(l/s)
1.5=l÷{5×0.09×10^(-3)^2}
l=6.75×10^(-7) (m)
1(Ω・m)≦ρCuO≦10(Ω・m)より、67.5(nm)≦l≦675(nm)である。

結言

酸化被膜の厚みは67.5〜675nmと計算された。蓑虫コードの長さに対し酸化被膜は0.02〜0.2%であるが、酸化被膜の存在により蓑虫コードの抵抗値が変化することがわかった。

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