苦戦事例：山形大学工学部学術情報基盤センターへの非常用電源設備の導入は大変

背景

工場のラインや情報システムにおいて落雷や予期せぬ事故による停電は不良品の大量生産やデータの損失につながるので，電源設備は重要なインフラと言える． 一般に工場では，Business Continuity Management 事業継続マネジメント（BCM）が当たり前となっており，その中には，停電や電力不足時の対応方法も必要とされている． 社会ではあたり前のであるが，山形大学工学部学術情報基盤センター（以下，センター）では，非常用発電機は整備されていない． 停電が発生した場合には，無停電電源装置(UPS)のバックアップ時間内にサーバをシャットダウンし，データの整合性の確保に努めている． 2008年ごろから，64ビットのCPUへのOSとアプリケーションの対応が完了し，256Tバイト程度のメモリ空間が利用できるようになる． 大容量のメモリが１つの物理サーバに搭載できるようになると，仮想化基盤によって運用コストや消費電力の低減が進むようになった． 2017年から運用を開始したセンターの教育用システムでは，5台の物理サーバに300台の仮想マシンを動作させている．

停電発生時のシャットダウンシーケンスを考えてみよう．UPSのバックアップ時間は，15分である．1台の物理サーバであれば，停電発生後5分で，OSのシャットダウンを開始する．その5分後に，UPSを停止する． 復電後は，UPSの電源を入れて，UPSのバッテリーが50%まで充電されたら物理サーバに電源を供給する．物理サーバに供給されたことによってOSが起動し，サービスを再開する．

300台の仮想マシンが動作する仮想化基盤では，物理サーバのように単純ではない． 停電発生から2分後で，ターミナルサービスなどの利用者へのアプリケーションサーバをシャットダウンする． 5分後には，ファイルサーバやデータベースサーバのシャットダウンを開始し，補助記憶装置（ハードディスク）に安全にデータを保存する． 8分後には，ドメインコントローラやDNSなどの認証や名前解決などのインフラサーバをシャットダウンする．筆者の経験ではあるが，ドメインコントローラは，シャットダウンに5分の時間を要した． バックアップ時間まで，残り2分の13分後に，仮想化基盤の仮想化OSをシャットダウンし，UPSを停止状態にする．

非常用発電機は，大規模災害でもないと稼働しないので，教育機関では予算の無駄遣いに近い． センターは，法定停電による停電が2回ある．そのうち1回は，工学部全体の停電ある．もう1回は，工学部の他の建物では電気が利用でき，センターの停電によるネットワークや事務用インフラが利用できない状態であった． このとき，事務用インフラを利用できるようにすれば，無駄遣いではなく有効活用になるだろう．工学部の事務職員は100人程度でり，その1日の人件費は，数百万円である． その業務が継続できれば，学割の発行や各種証明書の学生サービスも利用できる． データセンターや電話局の局舎では当たり前のように非常用発電機が活躍している． これを動体展示することで，将来のインフラ設計に携わる学生への教育効果もあるだろう．

太陽光発電は，小さい規模では有効であった． 2012年には，リチウム電池を併用した太陽光発電・蓄電システム(10kW,15kWh)が導入され，最大6kVAまで非常時に利用できるようになった． この電源により，工学部の基幹スイッチ(2.0kW)，ボーダースイッチ，ボーダールータ，ファイアーウォールを動作させ，停電時もネットワークを利用できるようにした． しかし，時代の変化による10Gビット毎秒のネットワークが主流になってきたことで，基幹スイッチの消費電力は3kW以上になること予想され，太陽光発電は運用が不可能になった．

小規模な外気冷房および非常用電源完備のサーバ室は，採算が取れる可能性が高い． 外気冷房は，サーバ室の消費電力を低減できる効果が高いので，採算が取れる． 例えば，2013年から稼働したさくらインターネット石狩データセンターでは，外気冷房によってPUE1.1台にまで低下させ，空調にかかる消費電力を大幅に減らしている． 一方，非常用電源に2000万円以上の費用がかかる数百KVAのものは，もとを取るのは難しい． もし，30〜40kVA程度の小さい規模であれば，20〜30年動作でき，その導入費用とランニング費用を合わせて，1000万円程度である． 20年間で，1000万円は，大型のUPS(10kVA,180分）が数百万円で，その期待寿命が10年であるので，安いだろう． さらに，サーバー室をガラス張りにし，非常用発電機を動態展示すれば，その教育効果で採算が取れると考えられる．

時系列事項

下記の表には工学部学術情報基盤センター（以下，センター）への非常用電源の引き込み工事の調整記録を示す． 表の2番のように，改修工事は，本学施設部（本部，以下施設部）が中心になって概算要求を行い，なかなか現場職員の声が届かないことが多い． 施設部の方は，老朽化した建物を改修・耐震補強をして，学生さんが安全に勉学に励める環境整備に努めているのであろう． 現場の職員にとっては，せっかくの改修工事なので，未来を目指した施設にしたい． 時には，その改修工事において，想定外の費用が必要となることがある． 本件では，税法上の耐用年数15年の非常用発電機を取り付けれるようにしてほしいとの依頼であり，突然の工事費の増加に対して，様々なアプローチをした記録である．

当初計画には，非常用電源などの話は全く予算はショートである．工学部施設管理係のS氏は，工学部施設管理棟に設置されている大規模災害対応の非常用発電機の電源を引き込んではどうかと提案した． センターとしては，電源設備や電気工作物は有資格者と事業所全体にかかわることおよび既設の設備を有効に活用できるので，賛成した． 施設部のI氏から，工学部構造から共同溝の距離がセンターまで長いので，電力線の延長費用が尋常ではない費用がかかり，難しいという話であった． 案の定，その費用は，1350万円程度の見積もりであった．

施設部K氏より，センターが停電のときに，工学部内で，電気が通電されているエリアでは業務に支障がでないように，センターの法定停電を１回にする案が提案された． 本案は，工学部内で，これまで１回の停電であった建物を2回にするための調整が課題に残された．

工学部施設管理係のM氏がレンタルで発電機を接続することで解決できないか検討していただいた．彼は，9番の改築工事の設計打ち合わせまで，この宿題に対する具体的なプランを提示できずに，センターとしては，どうしようもなくなる． 彼の素晴らしいことは，12番にもあるが，既にほぼ決定したにも関わらず，電車で1時間弱かかる山形市まで赴き，施設部と非常用電源について相談・お願いをしてきたことである． その後，センターのIのところを訪れ，お互いの意見を交換し，今後ビジョンの方向性が一致した． 結果的にどうなるかではなく，センターとしては，センター単独に意見から工学部施設管理係が真剣に考えてくださったことがうれしい．